3-25 黄金列車の復活
市内で宝を漁って崎陽駅に戻ると、トンテンカンテンと歌を歌っているかの様な景気のいい金槌の音色が聞こえる。
廃墟の駅は住民たちの手によって再び命を吹き込まれ、かつての賑わいを取り戻しつつあった。
完全に修理されるまで時間はまだまだかかりそうだが、ひとまず駅としての機能は回復したらしい。
「やーん」
「と、トラップでヤンスか?」
マタベエは元気よく改札口の先に進もうとしたが、支払いを済ませていなかったのでフラッパーが動き弾き返されてしまう。サスケの言うとおり、確かに見ようによっては罠に見えなくもない。
「いや、これはこうやるんだ」
他の皆はどうやって先に進めばいいのかわからなかった様だが、俺はヨカバイの支払い方を教えホームへと向かい、皆も見よう見まねで同じ様にリーダーにタッチして代金を支払う。異世界人が文明の利器を使うのを見るのはなんか新鮮だ。
駅のホームには煌びやかな電車がエンジンをふかしながら停車しており、その豪華さにザキラとリアンははしゃいでしまう。
「へぇ、これがアンジョの乗り物なのか」
「すげぇ、金ぴかだ! アシュラッドで乗ったのとは全然違うぞ!」
「流石にこれは特殊だけどな」
観光に特化したこの列車は金ぴかな見た目通り内装も豪華で、旅好きな人間なら誰もが一度はこの列車に乗って鉄道旅をする事に憧れる。
ムゲンパレスは長崎をモチーフにしたテーマパークらしいけど、もちろんこの電車も導入していた様だ。
「ふふ、タカオさん、ビシッと決まってますね。アルコールチェックは済ませましたか?」
「当たり前でしょ? ようやく待ちに待った本番なんだから」
運転士の制服に着替えたタカオはオトハと仲睦まじげに談笑する。目的を失ってからはずっと自堕落な生活をしていたらしいけど、ようやく役割を与えられて生き生きとしていた。
しかしアマビコは重要な事に気が付き、誰もが思いつく疑問点を尋ねる。
「立派ですけど……保線作業はまだですよね。線路が出来ていないのにどうやって電車を動かすんですか? というかそもそもどういう経路で地上に行くんですか?」
言うまでもなく鉄道は線路がなければ移動出来ない。完全復旧にはまだまだ時間がかかりそうだが、一体どうやって移動するというのだろうか。
「んー、これは特殊でね。乗ればわかるよ」
「もったいぶらずに教えて下サイヨ~」
「まあまあ、せいぜい楽しませてもらおうじゃないカ」
電車を修理した希典さんはニマニマと笑い、半魚人母娘は理想通りのリアクションをしてくれた。
人間性に欠陥があるとはいえ希典さんが関わったのなら何も問題はないとは思うけど……本当にどうなるんだ、コレ?
「一番乗り~!」
「オイラも~!」
「わわ、走っちゃ駄目ですポ」
リアンとサスケはタッタとはしゃぎながら黄金の列車に乗車し、モリンさんは母親の様に注意した。
「駆け込み乗車はおやめくださーい」
車掌兼運転士としてそう告げたタカオもどこか嬉しそうだ。これが現実世界ならマナー違反な行為に頭を抱えてしまうが、今日は貸し切りなので気にする必要はない。
「きらきらー」
こんな電車に乗ったらはしゃいでしまうのも無理はない。流石にマタベエみたいにゴロゴロと床を転がったりはしないけど。
黄金の宮殿の様な電車の中は想像以上に絢爛豪華であり、マルコ・ポーロが見てしまえば勘違いしそうな程ゴージャスだった。
もうこれは人間が乗っていい乗り物じゃない。多分神様とか王様とかそういうジャンルの人が乗る乗り物だ。この黄金色は小市民出身の俺にはかなりしんど過ぎる。
「えーと……希典さん、運賃とかは」
「俺っちの権限でタダだよ。そうじゃなかったらまあまあな値段を取るけどねぇ」
「そ、そうっすか」
なお全ての権限を持つムゲンパレスの支配者はよっこいせ、と椅子に座りいつも通り酒をかっくらった。
実際鉄道の復旧に多大な貢献をした俺はずっと無料でもいいくらいの事はしたのかもしれないし、このオッサンくらい堂々と出来ればいいんだけど。
「あとムゲンパレスならいいけど身バレ防止のために下に降りたらまれっちって呼んでね。前にも話したかもだけど」
「はい、それはまあ……けどする意味あります?」
「俺っちがそうして欲しいって言っているからそうする、それ以上の理由はないよぉ」
「はあ、ならそうしますが」
希典先生は注意事項を伝え、俺はしっくりこないまま了承した。元々身分を隠すために幼女の姿になったわけだけど、正直異世界に来てまでそんな事をする理由はあるのだろうか。
「よし、行くか」
タカオ運転士が気合を入れて操縦すると、止まっていた時計の針と共に黄金電車はゆっくりと動き出す。
俺達にとってはただの移動だけど、ずっと夢を見る事も出来なかった彼女にとっては特別な旅になるはずだ。俺も心の中でこっそり応援しておこう。
だけどどうやって地上に向かうのか――車窓から流れていく街の景色を見ていた俺はまだその経路が見当もつかなかった。
黄金列車の車窓もやはり額縁の様に優美で、幻想的な終末の風景も相まってまるで絵画を見ている様だ。そのうち長崎幻想とかそういうタイトルで画集が出版されるかもしれない。
街の景色はやがて一面の青空に変化し、雲はゆったりと流れ白い鳥は翼を広げてどこまでも飛び立つ。
人類という余計な存在がいなくなった事で、この世界はようやくあるべき姿に戻ったのかもしれない。そう考えると少し切ないな。
「……ん? 空?」
しかし俺はその時ようやくおかしな光景を見ている事に気が付いた。はて、こんな景色が見えるだなんてこの電車は一体どこを走っているのだろう。
「わー! おそらをとんでるよー!」
「うわ、すげー!」
「のお!?」
そしてマタベエとリアンが窓にかじりついて大はしゃぎして、俺はようやく電車が空を走っている事に気が付き絶句する。なんと空中には光の線路が出来、電車は一切の制約なく自由気ままに空を飛んでいたのだ。
「いやいや、希典さん、」
「まれっちだよ」
「あ、はい、まれっち、これどういう原理だ!?」
希典先生は呼称を注意した後、フッと悟った様な表情で、
「踏み出せばその一足が道となり、その一足が道となるのさ」
「燃える闘魂もそういうニュアンスで言ったんじゃないと思いますが!?」
と訳の分からない事を言ったので俺は思わずツッコんでしまった。これは気合とか根性で説明出来る事象ではない事は明白だろう。
「まったくあんたは無茶苦茶っすね。今に始まった事じゃないですが」
「まあまあ、空の旅を楽しもうじゃナイカ!」
「ハハ……はい」
ただリンドウさんだけはこのファンタジックな状況を心の底から楽しんでいた。あわよくばこの技術もモノにしたいとそんな事も考えているのかもしれない。
でも希典先生のせいで霞んでしまうが、リンドウさんもまあまあぶっ飛んでるからなあ。ひょっとしたらそのうちガチで空を飛ぶ電車を作っちゃうかもなあ……。




