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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第三章 果てしなき大地、気高き欲望を持つ変革者達【第一部3】

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3-23 長崎を見守る霊木

 急に暇になって時間に余裕が出来たので、俺はずっと気になっていたがなかなか行く機会がなかった場所へ向かっていた。


 崎陽市内なので移動に時間がかかるから、というのもあるがそこもまた平和記念公園と同じ理由でなんとなく来訪を避けていた場所だ。


 だがおそらく長崎で最も有名な神社の入口には、シンボルでもある石造りの一本鳥居が変わらずそこに佇んでいた。


 正直無くなっていないか不安だったが、鳥居がその場所にあるという事実をこの目でしっかりと確認し、心は満たされ心に安らかな凪が訪れた。


 災禍を物語る片足の鳥居には蔦が絡みつき、スズメらしき鳥が仲睦まじげにチュンチュンと鳴いており、ここも相変わらずほのぼのとした空気が流れていた。


 境内に進むと相変わらず朽ちてはいたが、他の場所と比べて比較的状態は良かった。


 この場所もきっと街の住民たちが大事に護ってくれたのだろう。境内に漂う厳かな空気は吸い込むだけで惑う心が静まり、有無を言わさず穏やかな気持ちになってしまう。


 そして俺はようやくその場所に辿り着き、ずっと会いたくて仕方がなかった彼女もまた被爆クスノキを見上げていた。


 人々がいなくなっても長崎を見守るクスノキはそこに存在し続け、霊木となった大樹はマタンゴさんや小鳥の棲み処になっており、彼らは何をするでもなく幸せそうに眠っている。


 彼女の左袖はそよ風に揺れ、それは神様が紙垂を揺らして救いを願う人を招いている様に見えた。


 その物悲しくも優しい姿に、俺は彼女がクスノキの化身ではないかと馬鹿な事を考えてしまった。


「あい、」


 儚げな姿に心を奪われしまった俺はうっかり最愛の人の名前で呼んでしまう。


 違う、左腕がないが彼女はリアンだ。そんな事考えるまでもない。


 だが時既に遅し、リアンは俺の存在に気が付いてしまった。


「ん、トモキか。アイリって誰、どこの女?」

「いや、違うんだ」

「わかってるよ。なーに彼女の名前をうっかり間違えた彼氏みたいなリアクションをしてるんだ」


 愛理の存在はリアンも知っているし、そもそも俺達は恋人ではないので彼女はどうとも思っていないのだろう。


 だけど俺の心の中は罪悪感で支配され、ただただ申し訳ない気持ちになってしまった。


「義手はどうしたんだ?」

「そこ。なんか微妙に勝手が違ってたからメンテナンスをしてたんだけど、なんとなくこのでっけぇ木が気になって」


 リアンの視線の先には取り外された義手と調整に用いた工具キットが置かれていた。自分で修復をするなんて随分と器用な事をするが、きっと彼女にとっては普通の事なのだろう。


「にしてもかなり質の良い霊木だなぁ。これ切って売ったら金になるかな?」

「冗談でもそんな事を言うのは止めろ。もし枝一本でも折ったらムゲンパレスから追い出すからな」

「ちぇー」


 守銭奴の彼女は長崎の人にとって最も大事な御神木であろうと金に換算したらしい。流石にやっていい事といけない事があるし、そんな罰当たりな事をしない様に目を光らせておかなければ。


「でも教会に使えそうなものがあったぞ。地上に行く前に回収してもいいんじゃないか? 管理者権限が使えるお前なら多分開けられるし。ほらこっちだ」

「うーん……まあ何があるのか確認程はしておくか」


 どうやらリアンはこっそり金目の物を探していた様だ。人として問題のある行動だが、もしも持ち出しても構わないものなら有効活用しても大丈夫だろう。


「あっ」

「ん」


 ただ神社から出ようとするとアマビコと遭遇してしまう。しかし彼は何を思ったのか俺達を見てすぅっ、と立ち去ろうとした。


「アマビコ、違うからな」

「い、いいんです、わかってますから」

「いや本当に違うから、コソ泥しようとした馬鹿を注意してただけだからな」

「今回はまだ何もしてないぞ。未遂だ!」

「それもどうかと思うが」


 アマビコは若い男女が二人きりというシチュエーションに妙な誤解をしたのかもしれない。だが完全に誤解だし、俺はどう弁明しようか困ってしまう。


 つってもアマビコとはあんまり絡みがないから接し方の勝手もわからないからなあ、いい奴なんだけど。


「あとここはデートスポットとかそういう場所じゃないし。そういう浮ついた目的で訪れる奴はいないさ」

「ええと、ここってどういう場所なんですか?」


 彼は幸いにしてその話題に食いついてくれた。長崎で一番大切な御神木なのに、個人的な話を逸らすために利用して少しだけ罪悪感はあったけど。


「あれは被爆クスノキって言ってな。平和記念公園と対を為す長崎の人にとって一番大事な場所だよ」

「クスノキ……」


 けれどアマビコはその名前を聞いた時、どういうわけか切なげな眼差しになってしまう。やはり戦争を生き抜いたこの霊木を見て彼も何か思う所があったのだろうか。


「じゃ、俺達は行くから」

「はい」

「?」


 その様子になんとなく声をかけるのがはばかられた俺は、不思議そうな顔をしていたリアンと共に足早に去っていく。


 アマビコがこの場所を見て何かを感じ取ってくれるのなら、地元民としては嬉しいな。

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