3-18 VS妖魔オンダコ
ふわり――。
「あれ?」
そんな微笑ましいやり取りを見ていると黒い影が素早く動き、猫型配膳ロボの頭の上にいたマタベエが忽然と姿を消してしまう。
「きゃー」
そのまま視線を上に向けるとトンビが油揚げを掻っ攫うが如く、マタベエはオンダコに拉致されていた。
「マタンゴさ……マタベエ!?」
「おたすけー」
友達のピンチにニイノは悲鳴を上げるが、マタベエはどこかこの状況を楽しんでおりあまり怖がってはいなかった。
「おいおい、あれがオンダコなのか。俺がイメージしていたのと同じだな」
害獣として扱われ定期的に駆除されているというオンダコの見た目は、まんま伝統工芸品の鬼凧と同じだ。
伝承では首だけになった鬼が百合若大臣の兜に執念で噛みついたが、恐ろしさよりもユーモラスが勝ってしまう。
「あらら、どうしましょう! 仕方ありません、自爆プログラムを、」
「そこまでしなくていいですって! なんかちょっと楽しそうですし」
オトハはマタベエを助けるために極端な手段を選択し、アマビコは慌てて暴挙を阻止する。
「わーいわーい。たすけてー」
実際マタベエは助けを求めつつも普通にはしゃいでいたし、なんならこのまましばらくほったらかしにしてもいいかもしれない。
ザキラはイナエカロ貝をくわえながら名乗り出て、空を飛んで得物の釘バットでいつでも殴れる様に身構えた。
「この展開は正直予想出来ていたけどな。アタシがやろうか?」
オンダコは見るからに紙耐久で弱そうだが、空を飛んでいるので飛び道具かザキラでしか攻撃は届かない。マタベエを誤射したくないし、糸素材として再利用する事を考えたらザキラが適任だろう。
「うーし、ならあれを試してみるか」
「って猫弾Cボムじゃねぇか。いつの間に作ったんだ?」
だがリアンはここぞとばかりに秘密兵器を取り出した。それは俺もよく使う猫弾Cボムだったが、俺が作成したものとは微妙に見た目が異なっていた。
「猫弾Cボムリアンカスタムだ。名前はまだ決めてない。行っくぞー!」
「ちょおい!?」
「ヤンス!?」
リアンはピンを口で引っこ抜いて上空に投げる。いくら非殺傷兵器でもこんな身構える前に投げたら!?
「ギャー!?」
俺は悲鳴を上げたつもりだったがその音を聞き取る事は出来なかった。虹色の閃光の花火はまるで異次元への空間の扉が開かれたかの様で、世界が終わる時にはきっとこんな光が宇宙を包み込むのだろう。
「バカッ!」
「目が、目がぁあ~」
俺はダメージを最小限に済ませたが、他の皆は対処しきれずに光で目をやられてしまう。殺傷能力がないとはいえ害がないわけではないので、皆はちゃんと正しい方法で非殺傷兵器を使おうな。
オンダコは撃破されてきりもみ回転をしながら墜落し、遊覧飛行を楽しんでいたマタベエもまた空中からひゅーん、と空から落ちてきて、ニイノは少しテンパりながらも落下地点に辿り着いた。
「あいるびーばっく」
「わとと、お帰りナサイ!」
やや覚束なかったが彼女は友達を上手にキャッチ、無事にマタベエを助ける事に成功する。感動の再会というには少しばかり時間は短かったがひとまず怪我もなさそうで何よりだ。
「ひぃ、ふぅ。オトハ、大丈夫か?」
オトハはロボットなのでそこまで心配はなさそうだが、棒立ちのまま動かずフリーズしていた。強烈な光と音でバグッてしまったのだろうか。
だが彼女はイッた眼で、
「教区局長供託所所長緊急局所協調書を至急虚飾なく発書、パプワのピザ屋でピュアなピザパイとパパイヤパスタパンをパリポリ平らげ、ジョリジョリ所長のジャズシャンソン歌手がシチューを死守しつつ試食し、庭には二羽のミニマムニワトリ庭師が煮込むニャンコを抜きつ抜かれつ覗き見抜くゥゥッッ!!」
「うおッ!?」
と支離滅裂な早口言葉を叫んだ。もしもアニメ化したら彼女を演じる声優さんは地獄だろうが、オトハが何故そんな事をしたのか理解する前に次の異変が発生してしまう。
「敵のミサイル攻撃を感知、自爆攻撃を行いますニャー!」
「ギャー!?」
有言実行、同じ様にバグった猫型配膳ロボは空港の時と同じく自爆プログラムを起動させ敵を排除するために捨て身の攻撃をした。
しかしそこにはもちろん脅威は存在せず彼は穏やかな海に飛び込み爆散、海は盛大に爆ぜ、大量の飛沫を浴びた俺達は全員ずぶ濡れになってしまった。
「ハッ! 私は何を!?」
「パルスグレネードだったのかよ」
しばらくしてオトハは正気に戻った。どうやらリアンが作った猫弾Cボムはパルスグレネードの効果もあったらしい。
NAROの兵器やロボット系の敵と戦う時は強力な武器になるが、使いどころを間違えたら大惨事になりそうなのでよく考えて使用したほうがいいだろう。
「ああ!? 猫型配膳ロボさーん!」
「ありゃりゃ、派手にぶっ壊れたなあ」
「リアンさん、いきなり何するんですか! 施設内で花火を行う際は事前に届け出をしてください! そうしないと防衛システムが作動しますから!」
「いやすぐに自爆するほうが問題あるんじゃね?」
大破した猫型配膳ロボは海面をプカプカと浮かび、オトハは仲間の死の原因となったリアンを糾弾する。
しかし彼女の反論ももっともだし、同じ事が起こらない様にするには双方を改善したほうがいいだろう。
「あー、多分それアタシのせいダネ。イキチってのがあったから興味本位で適当に弄ったんダケド、それが原因じゃないカナア」
「り、リンドウさん……」
「あー、閾値ですか。実際それで気球とか花火をミサイルって間違えたパターンはありますけど。この猫型配膳ロボを作ったハマグリンクも昔は評判がよかったんですけど、買収されて経営体制が変わってからちょいちょいやらかしてましたし」
ただやはりリンドウさんはここでもやらかしており、オトハはがっくりと肩を落としてしまう。この人は弄った機械を爆発させないと気が済まないのだろうか?
「いいんです、智樹さん。悪いのは経験のない人や人工知能にメンテナンスを任せきりにした希典さんですから」
「えー。俺っちの責任なの? むう、魚が濡れちゃったじゃん」
オトハは希典さんに恨めしそうな眼差しを向けるも、彼は悪びれる様子もなくずぶ濡れの焼き魚をつついて酒を飲んだ。
「オトハ、気持ちはわかるがこのオッサンに期待するほうが間違っていると思うぞ」
「……そうですね。いつかクーデターを起こして経営権を奪いましょう、智樹さん!」
彼の過ちによってオトハは無能な人類に対して反乱を企てた。こうして堕落した人類は高度に進化した人工知能によって滅ぼされてしまうのだろう。
「と、取りあえず着替えませんか? このままじゃ風邪ひいちゃいますポン」
「そうだな。材料も手に入ったし」
険悪なムードをどうにかしようとモリンさんはそう提案し、リアンは気絶したオンダコを回収した。
ドタバタしてしまったが目的のオンダコの糸も手に入ったし、リアンのために義手を作ろうかな。




