3-15 葉瀬帆ファイブモール跡地にて
買い物を終えた俺達はオンダコを倒して糸を入手するため、港に面した葉瀬帆ファイブモールへと向かった。
爽やかな潮風が心地よい葉瀬帆ファイブモールは市内でも人気のショッピングモールであり、ランドマークでもある色褪せたHASEHOという文字のオブジェも実にワビサビを感じる。
文字の最後には錨マークのオブジェがあり、白い餅と黒い餅がシーソーの様にして遊んでいた。よく見かけるけどこいつらもゾンビなのだろうか。
もう一つ、緑色のツタが絡んだLOVEのオブジェではマタンゴさんズがOの文字からひょっこり顔を出し軍用ロボットと遊んでいた。
おそらく設置した人間が考えた意味とは違うのだろうけど、愛しか感じられない幸せな光景である。
やはりここも営業を行っておらず、今は水棲ゾンビたちの憩いの場となっているらしい。煌めく水中には微かに魚影も見えるので釣りを楽しむ事も出来そうだ。
目当てのオンダコはいないが、ウミネコは空を悠々と飛びながらミャオミャオと鳴いている。定期的に駆除しているらしいし、常に現れるというものではないのだろう。
亀の様な水棲ゾンビたちも害獣の襲撃を一切に気にせず日向ぼっこをして寛いでいる。平和なのは良い事だが、オンダコの糸素材が欲しい俺達からすれば少しばかり困ってしまう。
ただオンダコがいないのなら仕方がない。ニイノに頼んで釣り糸を分けてもらおう。
「ふんふんふーん」
「うまうまー」
おそらく釣り上げた獲物なのだろう、休憩中のニイノは七輪で魚や平べったい何かを焼いて友達のマタンゴさんと一緒に美味しくいただいていた。今なら話しかけても良さそうだな。
「あ、トモキさん! トモキさんもどうデスカ?」
「満喫しているな、ニイノ」
しかし彼女の方が俺の方から話しかけてきてくれた。ちょうどいい、世間話をしつつそれとなく交渉してみるか。
「美味そうだけど、これなんの魚だ?」
彼女達が食べていた魚は見た感じイワシとトビウオに似ているが、俺の知る限り日本近海にこんな魚はいなかったはずだ。とすると異世界で釣れる魚なのだろう。
「あ、これデスカ? アマビコデスヨ!」
「え」
しかし彼女はにっこりと笑って恐ろしい事を言った。
彼女は、今なんと?
「いやいやいや、アマビコ!? 朝から見かけなかったなって思ってたけど!?」
「はい、アマビコデスヨ? アマビコは刺身にしてもフライにしても美味しいんデス」
まさか彼女は実の弟を美味しくいただいたというのだろか。いや魚って普通に身内でも共食いをするけど、この世界の住人の価値観は人間の倫理観とはここまで大きく異なっているのか!?
「何驚いているんダイ? 今朝も食べたじゃナイカ」
「ええ!? まさかあれアマビコ……ヒィイイ!?」
さらにリンドウさんはポカンとした顔で残酷な真実を伝え、俺は恐怖でおののいてしまう。ホラー映画で食べた謎肉がそういうのだってパターンは結構あるけども!?
「僕がどうしたんですか?」
「え?」
けれど渦中のアマビコはクーラーボックスを持って平然と現れる。俺は状況が理解出来ず、七輪の上のアマビコと生きたアマビコを交互に見比べてしまった。
ザキラとリアンは間抜けな勘違いをした俺がおかしかったのかクスクスと笑う。
「その魚はそういう名前なんだよ。ディーパ族は海や水辺にちなんだ名前をつける事が多いからな。アマビコはアンジョの伝説にも出てくるありがたい魚だし」
「はは、アホだなお前」
「そ、そうだったのか」
冷静になって考えてみればそんな事あるわけない。考えてみれば人間だって似た様なパターンで名前をつけるよな、カツオとかマスオとか。
「どうしたんデス? 食べないんデスカ?」
「アニキ、ニイノちゃんもこう言ってますし一緒に食べるでヤンス!」
「だな」
あー恥ずかしい。ニイノもサスケもまったく気にしていないけど、ここは食べて誤魔化そう。この醜態をさらした状況で本題に入るのはなんか嫌だし。




