3-14 入手:壊れたS&W
店を見て回っていたリアンは、店頭に並んだ奇妙奇天烈なジャンク品を手に取って実に楽しそうな顔をしていた。
元々は何かの家電製品だったのだろうか、俺にはガラクタにしか見えないが彼女はかなりテンションが上がっている。
「おほー、これ修理して売ればぼろ儲け出来るぞ。工業民族ナーゴ族としてチャレンジしてみるのもいいかもな」
「ならオーディオとか直せるか? いい感じのを見つけたんだけど壊れててな」
「もちろんいいぜ~。ナーゴの技術力を見せてやるよ!」
オーディオマニアのザキラは修理の依頼をするとリアンは快諾した。彼女からすればお金とかそういうのではなく、腕を見せつけるまたとないチャンスなので一種の娯楽なのだろう。
「俺達の世界でも中古のオーディオは修理する事が前提になっているけど、むしろリアンみたいな奴がこっちの世界に来たら逆にチートを発揮しそうだな。最近は文明水準が逆行してたし」
「そいつは勿体ねぇなあ。工業は時代の基本だぞ? 役に立つかわからないが取りあえず作って、取りあえず真似をして作って、そうやってこの世界は発展してきたんだ。逆にアンジョの子孫は遺産を食いつぶしてどんどん衰退したけど。ってトモキには失言だったか」
「いいさ、そんなに気にしなくても。実際モノ作りを蔑ろにした結果衰退した国はいくらでもある。どことは言わないけどな」
ゾンビハザードに伴い世界の秩序が崩壊する前から、かつての発展途上国は経済が衰退しつつあった日本や欧米の技術者を招き産業を発展させた。
技術を奪った相手国をスパイだと罵り、金と引き換えに技術を流出させた裏切り者というのは簡単だが、重要な技術を持った人間を簡単に切り捨てた会社や保護を怠った国家にも問題があると言えるだろう。
「やっぱりお前とは話が合いそうだ。ナーゴ族って機械いじりばっかりしてるからなんか嫌われてるんだよなあ。リンドウの気球もそうだけど、禁忌に触れる物を作るなって偉いアンジョ様からクレームが来て丹精込めて作ったものが開発中止になったりさー」
リアンの愚痴からは様々な考察が出来る。アンジョの子孫の優位性はかつての人類の英知を独占しているからで、同等かそれ以上の物を作られてしまったらたまったものではないのだろう。
とはいえ工業が世界の発展に必要なのは疑いようがない事実だし、きっと支配者たちもジレンマに陥っているに違いない。だからといって同情するつもりは一切無いけれど。
「そこに機械があるなら弄るのが技術屋の性ってもんだろ。少なくともオレは技術のおかげで人並み以上の事が出来る様になったわけだし。冒涜だの禁忌だの知らねーんだよ」
「リアンは本当に機械いじりが好きなんだな」
科学に功罪はあれど、義手をつけているリアンは間違いなく技術によって幸せになれたはずだ。こうして毎日楽しく充実した日々を過ごせているのも全ては技術の発展によるものだのだろう。
「まったく、リアンを元の世界に持って帰りたいよ」
「え?」
楽しそうな彼女を見て俺はぽつりとそんな事を言って、しばらくしてそれが誤解を招きかねない失言だった事に気が付いてしまった。
「……あ、いや、機械の修理とかしてくれて便利って意味で!」
「だ、だよな」
どう誤解したのか、あえて言葉にしなくとも微かに頬を赤らめたリアンも大体俺と同じ事を想ってしまったはずだ。
俺と彼女はそんな仲ではないし、心地よい関係を壊さないためにも今後は気を付けよう。
「なら惚れた女のためになんかプレゼントしてくれ。一番いいのを頼む」
「微妙にネタっぽいな」
狙ったわけではないだろうが、リアンが笑いながらそう言ってくれたおかげで俺は平常心を取り戻す事が出来た。
店頭には義手のパーツに使えそうな壊れた銃が売られていたが、好きな人への贈り物には不向きだろう。
概ねガンマニアにはたまらない骨董品ばかりだったが、俺は興味深いものを発見してそれをリアンに渡した。
「これなんかどうだ?」
「これは?」
「S&Wだ。俺達の世界で坂本龍馬っていう有名な英雄が使っていた銃だよ」
「ほーん、なかなかいいデザインだな」
リアンは幕末の英雄が用いた歴史に名を残す名銃を興味深そうに眺める。
骨董品も骨董品だが同じく幕末の志士である高杉晋作が坂本龍馬に贈った由緒正しい拳銃なので、幕末マニアなら誰もが知っている名銃だろう。
「おや、それを買うのかい。渋い趣味をしてるねぇ。まあ坂本龍馬は作られたヒーロー像っていうか、他の人の手柄を坂本龍馬のお陰って事にしたり若干盛ってるけどねぇ」
「ケチをつけるんじゃないって」
見識のある希典先生はしばしば論争になるいちゃもんを付けた。実際その通りなんだけど、いつの時代も人々は英雄を求めるものだから仕方がない。
「リョウマか。リアン・ミャオと響きも似てるしいなんかいいな」
「あ、確かに」
リアンはどうでもいい小ネタに気が付いた。だからといってどうしたものでもないし、これ以上掘り下げようがないけど。
「壊れているけど上手い具合に組み込めば材料に使えそうだな。これにするよ」
「うぃ」
「まいどありー」
S&Wに一目惚れしたリアンは購入を決意し、俺はもふもふ君に代金を支払った。
なお当時は最新式で武士の年収数年分はしていたらしいけど、ジャンク品という事もあり数百円で購入出来た。現代でも歴史的価値を加味すればかなりのお値段がするはずなのに実に良心的な価格だ。
「よし、それじゃあ次はオンダコを倒して糸を手に入れないとな。爆弾を作るから簡易クラフトセットを出してくれ」
「やっぱりそっちの手段で入手するのか。別にいいけど」
「はい、そのほうが私としても助かりますし。よろしくお願いしますね」
重要なアイテムを入手し、リアンは糸を店で探す事無く戦うルートを選択した。
ただオトハも喜んでくれているし、節約も兼ねてムゲンパレスに害を為す妖怪をやっつけるとしよう。




