3-7 リアンとB級ゾンビ映画の鑑賞会
マップ機能を使わずとも皆がいる所は大体わかる。俺が最初に向かったのは希典先生の手によって作られた娯楽スペースだった。
娯楽スペースには様々な時代のありとあらゆるサブカルチャーにまつわるものが押し込まれており、お菓子やジュースも飲み放題なので屋内で遊びたい時は基本的にここを訪れるのが鉄板だ。
「ポリポリ」
特にリアンはこの場所に入り浸っており、ナーゴ名物しるこビスケットをかじりながら大画面でDVDを見ていた。
「お前も飽きないなあ。俺達の文化を愛してくれて嬉しいけど……どういうチョイスだ?」
彼女が調達したDVDはどれもこれもB級映画ばかりだ。
もちろんB級でも名作と呼ばれるものはいくらでもあるが、サメのトルネードに始まり少林拳をするサッカー選手、エビがボクシングをする奴等彼女の趣味はなかなか偏っていた。
「いろいろ見たけどB級映画がやっぱりしっくり来るな。有名なのはどれもこれも似た様な感じなのを似た様なキャストでやるからつまんないし。ラブコメとかケツが痒くなっちまう」
「ふむ、ある意味ではその評価は正しいな」
映画に限った事ではないが基本的にあの手の物には王道や売れる作品というものが存在し、多くはそのセオリーを踏襲して作品を作る。
結局のところ映画もアニメも小説も売れてナンボなのである程度テンプレ通りになるのは仕方ないが、その手段を用いた場合どれだけ素晴らしくても結局ありふれた作品と評価されてしまう。
彼女はそれほど本数を見ていないのに、既に映画産業が抱える問題と本質を見抜いてしまった様だ。
「三〇作品はいいぞ。トモキも一緒に見るか?」
「こりゃまた随分と尖がった監督にハマったな。リアンらしいっちゃリアンらしいが」
様々な映画を見た結果、彼女は日本でも屈指の賛否両論がある監督の作品をお気に召した様だ。確かにあの人の作品はテンプレとは程遠いものが多いけども。
バイオレンスの巨匠である彼は自由にも程がある作品を作っていたけど、もちろん他の名立たる巨匠同様ご時世で以下略。といってもあの人なら逆境を逆手にとってご時世を皮肉った作品を作ってくれそうだけど。
「そうそう、オトハに聞いたんだけどさ、なんかデッ〇オアアライブを最後まで一緒に見る事が出来ればその人と仲良くなれるって言い伝えがあるらしいぞ」
「そういう恋のおまじない的なニュアンスじゃないと思うが。ただ折角だ、俺も見てみようかな」
「おうよ、リアン様が選りすぐりのB級映画を用意してやるよ!」
しかし確かに様々な映画を見る事でインスピレーションは貰えるかもしれない。ここにあるのはどれもこれも俺達の世界では禁制品のものばかりなので試しに見てみるとしよう。
さすがに三〇作品を理解するのはちょっとばかり難易度が高そうだけども。
三〇作品の不条理な世界観に精神を蝕まれつつもようやく苦難を乗り越え、この手の映画は何も考えずに受け入れる事が正解なのだという事を理解した。
その事を理解すれば全てのB級映画が輝いて見えてしまう。いや、あの人の作品がB級って言ったらファンに怒られちゃうけど。
「ポリポリ。なあ、ゾンビ映画ってなんでリア充が真っ先に死ぬんだ?」
「監督と観る人がそれを求めているからだろ」
「そっかー」
しかし俺は何故三〇地獄を乗り越えたというのにB級ゾンビ映画をハシゴしているのだろう。一応俺達が戦っているのはゾンビだし、見ていて楽しくなるものでもないはずなのに。
「向こうの世界にこの世界のゾンビの概念を持ち込んだらどうなるのかねぇ」
ムゲンパレスにいる変異ゾンビはどいつもこいつも愛くるしく友好的な奴らばかりだ。宇宙人の映画も時代に合わせて侵略者へと変化していったが、ゾンビ映画にもまたそうしたものが反映されているのかもしれない。
今見ているモキュメンタリー系のゾンビ映画はB級映画ではあるがそれなりのクオリティだった。たまにこういう掘り出し物を見つけると嬉しくなるよな。
『(旧日本軍が遺棄した生物兵器によって街の人がどんどんゾンビになっていきました。私の故郷は、家族はゾンビに滅茶苦茶にされました……この真実を明らかにしてください、お願いします……!)』
背景や言語から察するにロケ地は中国っぽい。今となっては中国映画はプロパガンダ作品以外は絶滅してしまったが、告発する子役の少女の演技は見事で引き込まれてしまった。
『(調子に乗るんじゃないわよ? このヴァルコフ様の権力をもってすればあんたぐらいいくらでも消せるんだからね!)』
「うお? ヴァルコフ?」
だが映画を見ていると突如として連合軍の宿敵であるヴァルコフ大佐っぽいオネエが登場する。まさかここであいつのそっくりさんを見る事になろうとは。
「ヴァルコフって? 有名な役者なん?」
「いいや、俺達の世界で連合軍が戦っていたゴルイニシチェっていう武装勢力のリーダーだよ。中国っていうか、俺達の時代はどこもこの手のプロパガンダ系の作品を量産されたけど。これもその類だろうな」
「ふーん」
作中では誇張されたコテコテのオネエキャラで表現してヴァルコフ大佐を徹底的に貶していたので、どうやらこれはモキュメンタリー映画と思いきやただのプロパガンダ作品だった様だ。
その事を理解した上で見ると素直な気持ちで見れないけど、クーデターを起こして罪のない多くの人を虐殺し、両国を転覆させたヴァルコフ大佐はロシアにとっても中国にとっても極悪人だ。
彼がベロヴォーディエのゾンビハザードの黒幕だっていう真偽不明の説もあるけど、少なくとも連中が民衆の敵であるのは間違いない。ここは温かい目で見るべきだろう。
『ホアチョー!』
『イヤーン!』
それに途中からホラーからカンフー映画に変わってしまい、往年の名作をオマージュしたであろうカンフーで股間を執拗に攻撃してゾンビやヴァルコフ大佐を倒しちゃったし。
流石は中国、期待を裏切らない。日本軍云々等クレームがきそうなポイントはあったがそれを上回る馬鹿馬鹿しさで見事に台無しにしてくれた。これならば外交問題になる事は無いだろう。
「ふひゅー、うん、やっぱゾンビ映画は最高だな。でもやっぱりこういうのより三〇作品のほうがいいや」
「人生と三〇ワールドを楽しんでいるようで何よりだ」
リアンもご満悦な様で、身体を伸ばしトレーからDVDを回収しようとした。
けれど前のめりになって義手で身体を支えた際、バキッ、と歪な音が鳴ってしまう。
「うげ」
「どうした?」
「折れた」
「へ?」
リアンの機械仕掛けの左手はブランと揺れ、彼女はかなり困った表情になってしまった。
もちろん怪我をしたわけではないので命の危機になる事は無いが、少し面倒な事になったな。




