3-2 死にたくなるほど退屈なリハビリの日々
ゲームの世界では宿屋に一晩泊まれば瀕死の状態でもすぐに回復するが、残念ながらそんな事は無く、俺の物語は長期のリハビリから始まった。
核ミサイル攻撃で全身を焼かれた俺は生きているのが不思議なほどの大怪我だったらしく、神の手を持つ名医の手によって生きながらえる事が出来たらしい。
「ひぃ、ふぅ」
当たり前だが治療はそれで終わりというわけではない。俺はやせ細った身体を無理やり動かし歩行訓練を行う。
……しんどい、辛い。もうやめたい。
俺は一体いつまでこんな事をしないといけないのだろう。
普通の生活に戻りたい。
そう思うと背中の火傷跡が疼いてしまった。もう痛みはないはずだが、一種の幻肢痛に似たものなのかもしれない。
地獄から生き延びてしまったこの証を見た人間はどう思うのだろうか。
隔離された空間ではあるけれど、入院患者の会話から何となく俺の様な人間がどのような扱いを受けているのかはわかる。
リハビリを終えた俺もここから出ればきっとそうなるのだろう。
きっと俺はもう普通の生活には戻れない。
俺にはもう帰る家もないし、優しく抱きしめてくれる母さんもいない。
この世界は辛い事しかないのに、こんな事をして意味があるのだろうか。
「ふふん。あっ」
同じ部屋で訓練していた両手両足が義肢の少年は上手に歩き勝ち誇った笑みを浮かべた。しかしすぐにガコン、とバランスを崩して転倒してしまう。
「大丈夫?」
「へ、平気なのです」
ドヤ顔をした手前恥ずかしかったのだろう、むすっとした少年は理学療法士の人の手を払いのけてしまった。
リハビリを続けていると俺を助けてくれた名医、松下飛影先生が気だるげに現れる。
「調子はどう、智樹ちゃん」
「あ、えーと……松下先生」
最初は母さんと勘違いしてしまったが、改めて見ると女医とは思えないほど少しばかり派手な見た目でお淑やかな母さんとは似ても似つかない。
「手伝おうか?」
「大丈夫です」
「あらそう。まあぼちぼちやりな。お前さんの生きる執念は私が出会った患者の中でもトップクラスだからねぇ。その生命力があれば必ず歩けるようになるはずさ」
「は、はい」
常に酒臭いし、胸元も開いているし、悪い人ではないのだけれど純朴な青少年にはいろいろキツイ。
向こうもそれがわかっているのか、ニマニマと笑いながらさりげなく誘惑する彼女から俺は思わず眼を逸らしてしまう。
「ああそうだ。小児病棟のボスにはあいさつしたかい?」
「小児病棟のボス?」
「もしもリハビリに疲れたのならヒナって奴を尋ねるといい。暇潰しに使えそうな物をいろいろ集めているからね。気晴らしにはなるだろうさ」
「気晴らし、ですか」
彼女は俺を元気付けようとそう提案したのだろう。正直まだそんな気分にはなれないが、ほんの少しでも辛い現実を忘れる事は出来るかもしれない。
時間はいくらでもあるし、他にする事もないし後で行ってみようかな……。




