3-1 聖智樹を救った誰かについての記憶
――聖智樹の視点から――
ドローン爆撃から人類滅亡後の世界に異世界転移し、自称ナーゴ族の美人局に身ぐるみを剥がされ、チートでハーレムな生活が始まる事もなく殺されかけ、ひたすらこっちの世界でも逃げ続け――俺はようやく気球に乗って空の大地に辿り着き、安らかな眠りにつく事が出来た。
けれどやっぱり、忌まわしき炎でこの身を焼かれた『あの日』から見続けた悪夢は終わる事は無かった。
ああ、まただ、またなのか――。
夜更かしをして小説を書いていた俺は眠りに落ちる間際に抵抗したけれど、虚しく意識は深い所に落ちていってしまった。
……………。
………。
…。
これはいつの記憶だっただろうか。
『ばたんきゅ~』
地上に落ちた太陽は全てを焼き尽くし、俺から故郷も、家族も、俺自身も奪い去っていった。
『まぶしかったー。びっくりしたー』
けれど生と死の狭間にいた俺は泣き叫ぶ事も出来なかった。
『わー! こわいよー! やだ、やだー!』
誰かが泣いていた。
けれど俺は自分のために涙を流してくれる誰かの事を思い出す事が出来なかった。
『しんじゃやだー! ともきくーん』
ただ、誰かの優しさのおかげで恐怖と絶望の中にいた俺は幸せな気持ちになった事だけは覚えていた。
それが夢だとしても、苦しむ事無く死ねるのならば幸福に違いない。
その優しさせいで死ぬ事が出来なかったとしても、俺は誰かを恨むつもりはなかった。
……………。
それは一瞬だったのかもしれないし、永遠にも似た時間だったのかもしれない。
「……?」
俺は全身の痛みで自らの存在を認識する。
白一色の世界には何もない。
徐々に世界の輪郭がはっきりして、何かの機械と自分がチューブでつなげられている事に気が付いた。
「皮膚の定着も問題なし。火傷跡は残るけどあまりやりすぎたら人間に戻れなくなるからねぇ。肉体改造もこのくらいにしておくか」
「……かあ、さん?」
俺はベッドの傍らにいる誰かに手を伸ばす。
この人はきっと俺の母さんのはずだ。
だけど彼女は寂しそうに笑い、手をそっと握り返した。
「私は君のお母さんじゃない。今は寝ておきな」
「うん……」
静かにそう伝えた陽気な女医からはほんのり酒のニオイがし、そのニオイを嗅いだ俺は不思議と懐かしい気持ちになってしまった。




