2-183 影武者エマ・リーの懺悔
――仲村渠ヒカリの視点から――
どうやっても助からない人はとことん無視をして、痛い痛いと泣き叫ぶ人の声にも耳を傾けずにタグの色だけを確認し、私は一心不乱に救護活動をした。
気が狂いそうになる。沖縄や防衛隊の人々は毎日毎日こんな状況で戦い続けていたのか。
英雄であった我那覇総督がああなってしまった理由を私は身をもって理解してしまった。確かにこんな状況では、自分たちの身を護る為に過激派組織の力を頼っても無理はないだろう。
「エマ」
「……ヒカリ」
私は手当てを施していると同じく復帰したエマと鉢合わせる。
手負いの彼女もまた刀を置いて救護活動にあたっており、多少気まずいものはあったけれど一緒に負傷者の手当をする事にした。
しばらく救護活動を続けてようやくひと段落し、私達はガレキに腰かけてガスバーナーで沸かしたお湯で作ったさんぴん茶で束の間の休息をとる。
「ねえヒカリ、聞かないの? 私が何で司馬桜龍の格好をしていたのか」
「え、うん。そこまで気にはならなかったけど……むしろあれだけ強かったエマがやっぱり隊長だったって、それもNARO最強の一番隊隊長の司馬桜龍だってわかって納得したけどさ」
エマはしょんぼりしながら話しかけたけれど、私は実の所そこまで疑問は抱いていなかった。
私だって身分を偽装しているわけだし、何らかの理由で本名や素顔を隠す人だっているだろう。
「違うよ。私は本物の司馬桜龍じゃない。私はただの影武者で代役なの」
「代役?」
「先代の司馬桜龍がどうなったのかは私も知らない。多分死んだか、政府にとって都合の悪い存在になったんだと思う。それでも司馬桜龍の看板は大きすぎるから代役が必要だったんだ」
「そっか、そんな事情が……」
影武者が本物になる。都市伝説ではよく聞く話だけど、まさか司馬桜龍もそうだっただなんて。
ただこんな事がバレたら間違いなくスキャンダルになってしまうし、関係者以外には秘密にしておく必要があるだろう。
「でもね、本当はこんなの早く辞めたいんだ。この栄光は所詮借り物なのに、皆は私を英雄だと思ってくれている。前に子供から私宛にファンレターが届いて、自分も日本を護る為に立派な兵隊になるって嬉しそうに書いていて……胸が張り裂けそうだった」
私達は裏方であると同時に最前線の存在だ。戦争を賛美し、平和を否定し、人々を戦争に駆り立てる。
このカッコイイ制服も、華々しい活躍も全ては国民に魅せる為なんだ。
「Mr.ハロウィンが言っていた事は正しいよ。私は与えられた役割をこなしているだけで信念なんてない。自分のしている事で誰かが不幸になる。だけど私は弱いから役割から逃げ出す事なんて出来ないんだよ」
「……弱くはないよ、エマは。ううん、ずっと強いよ。私ならきっと背負いきれずに逃げ出すだろうな」
私は与えられた役割から逃れて逃げ出し、自分一人だけが生き残ってしまった。
彼女のしている事が弱さだというのならば、この世界に強い人間なんて誰一人としていないだろう。
グラッ――。
「おっとっと」
心の乱れが世界にも伝わったのか地面が振動し、コップの中のさんぴん茶も揺らめいて少し零れてしまう。
体感的には震度四くらいだけど地震でもあったのだろうか。
いや、先ほどまで戦闘行為を行っていたしそっち方面の可能性が高い。すぐにスマホに指示が出て揺れの発生源についての情報が共有される。
震源地はどうやら使用されていないモノレールの駅周辺らしい。地震ではなさそうだけど敵の攻撃というわけでもなさそうだ。
「優先度は低いみたい。指示が出るだろうし先に行ってくるね」
「エマ……ううん、私も行くよ」
「え? うん、いいけど」
もうする事が特にないエマは先に駅へと向かう。
私も少し悩んだけど彼女のフォローする事に決め、半ば強引に彼女を追って現場に向かった。




