2-177 国家を裏切った甲東官房長官の末路
――荒木美虎の視点から――
空港で現場指揮を行っていた私はどうでもいい用事を先に片付けるため、軍用車両の影に隠れて電話をしていた狼狽える甲東官房長官に近付く。
「どうなっているんだ! 話が違うじゃないか!?」
『私はお前らに手を出さないという約束は守ったぞ? 他の奴が何をしようと知った事ではないがな』
「ふざけるな! 今からでも遅くない、約束を護れば君たちは英雄になれる! 金も栄誉も望むものはすべて与える! もちろん君たちのリーダーである荒木希典も無罪にしよう!」
青ざめた様子の甲東官房長官は何者かと連絡を取り合っていた。
状況を正確に把握する事は出来なくとも、おそらく利用しようとした相手に裏切られたというのはわかる。無論その相手は言うまでもなくあの爆弾狂いのサイコパスだろう。
『ふむ、どうやって?』
「それくらいどうとでもなる! 然るべきタイミングでテロは仕組まれたものだと私が発表すればいいだけだ、そうすれば彼はテロリストから救国の英雄となるだろう! なのに何故チャンスを無駄にする!?」
『もしも希典がこの場にいたのならばどのような見返りを与えられたとしても、死んでも貴様の様なゴミに媚びる事は無いだろう。あいつが求めるのは酒くらいだ。何故こんな狂人が約束を護ると思ったのだ?』
「き、貴様ァッ! あッ!?」
甲東官房長官はようやく私の存在に気が付き急いで電話を切る。彼は死にかけの魚の様に口をパクパクとさせ、無言で見つめる私に何も言えずにいた。
「ご安心ください。私は全て知っていました。あなたが瀬田直子と結託して不意打ちを行い、NAROに壊滅的な損害を与える事で私を失脚させ、ついでに奇跡の生還を演出して自身の評価を上げるつもりだった事も」
「そ、そうか……」
全てを見抜かれていた甲東官房長官は絶望してしまうものの、すぐに気力を取り戻し狂った様に叫んだ。
「と、とにかく飛行機が破壊されて戻れなくなった! ただちに私をこの場から脱出させてほしい! そうすれば代わりに、」
「その辺のゴミでイカダでも作って自力で戻ってください」
「き、貴様ッ!? 何を言っているのかわかっているのか!? 私はこの国の官房長官だぞ!? 自分の立場が分かっているのか!?」
「貴方こそ身の程を弁えてください。もし死んでも異世界転生して悠々自適な暮らしが出来るのでしょう? ならば何も問題ないではありませんか。我々は直ちに市民や孤立した部下を救出しなければいけないのであなた如きに貴重な戦力を割く余裕はないのですよ」
「ぐ、ぐぅ……!?」
政府が作り出した戯言を用いて見下された彼は歯を食いしばって私を睨みつける。しかし偉そうに振舞っていただけの老人となってしまった彼にはもう反抗する事は出来なかった。
「それともし船で脱出する際はダーゴンの目撃情報があったので気を付けてください。撃墜されるリスクはありますが飛行機やヘリコプターのほうがいいでしょう。では」
「クソ……クソがァ!」
私が最低限の忠告程をすると、馬鹿にされたと思った甲東官房長官はスマホを地面に叩きつけ破壊する。
これ以上は時間の無駄だ、さっさと蛮勇と勇敢を勘違いした新人に説教をしに行かなければ。




