2-172 最前線の沖縄への出張任務
会議室にはNAROの隊長たちが集められ、沖縄での作戦に参加しないメンバーも含めて全員で情報共有を行った。
「今回の沖縄で我々に与えられた任務は、現地で行政や防衛を担う我那覇総督との調整と、沖縄全域の治安維持です」
「我那覇総督ですか。安仁屋首相の後継者みたいな人ですよね。よくテレビにも出てあれこれ政府の宣伝をしてくれていますし、そんなに悪い人でもなかった気もしますけど……何か問題でもあるんでしょうか」
ミトラさんが名前を出した我那覇ゴードン総督は元々プロレスラーだったけど、安仁屋首相に見いだされ政界に進出し、そのカリスマ性や卓越した政治手腕は師をしのぐとも言われている。
現在は最前線の沖縄で自ら防衛の任務にあたっており、戦争が始まって数日で陥落すると言われた沖縄が今なおどうにか制圧されずに保たれているのは間違いなく彼のおかげで、沖縄の人間からすれば神様のような人だ。
当然そんなお方なので連合軍も政府もこれでもかとヨイショしており、東京婦女子見守りとは次元が違う蜜月関係だけど、そんな軍神とも呼べる英雄とどんな調整をするというのだろうか。
「我那覇総督は優秀な政治家ですが、同時に独裁者としての一面がある事も否めません。現時点では支持されていますが、テロ団体に指定されている新希典派と手を組むなど不穏な空気が流れています」
ミトラさんがそう説明した後、ヨンアも無知な私のために捕捉の説明をしてくれた。
「状況が状況だから駄目ってわけでもないけど、やっぱりどうして? ってなった国民は多いそうだよ。もしかしたらこのまま反旗を翻すんじゃないかって連合軍は彼を警戒しているんだ」
「確かに私もなんで、ってなったけど……そもそも希典派とか旧希典派とか新希典派とかややこしいですけど、あれってどう違うんですか? ざっくばらんに全部テロリストって認識はしていますけど」
私は実のところテロ組織である希典派の変遷についてよく知らない。NAROの隊長として恥ずかしい限りだけど。
「仰る通り概ねその認識で合っています。当事者達はあれこれ言っていますが基本的には同じテロ団体ですね」
そんな私にもミトラさんは丁寧に説明してくれる。うう、余計な手間をかけさせてすみません。
「荒木希典率いる希典派は国家転覆を目論み各地でテロを行いましたが、実は彼がテロを行わずとも首都高速は老朽化が進み、いつ崩落してもおかしくない状態でした」
荒木希典は首都高速を破壊し、多数の死者を出して東京のインフラ機能にも壊滅的な被害を与えた。
それは誰もが知っている周知の事実だけど、実の所情報統制がされているため詳しい事はあまり知らない。
「なので一部の陰謀論者は首都高速が破壊されたのは彼の手によるものではなく、整備不良で自然に壊れそれを隠蔽した、あるいは政府がインフラ整備に膨大な費用と時間がかかる東京を放棄するため意図的に破壊したと考えています」
でもインフラの老朽化か……スイジンテクノロジージャパンとダルマオンナ事件でも水道インフラの劣化が言及されたけど、こんな所でもつながってしまうんだ。
「荒木希典はその都合の悪い事実を告発し、政府に立ち向かっていた英雄であり、危険視された政府によって罪を被せられただけなのではないか――そうした解釈から生まれたのが新希典派です」
結局のところ首都高速が老朽化で壊れたとしても、それはただの杜撰な管理による事故でそれ以上でも以下でもない。なのにどうしてみんなそんなものに意味を与えてしまうのだろう。
「ただ指導者がいない新希典派は旧希典派と違ってまとまりがなく、個々人の理念もバラバラで旧希典派も後継団体と認めていません。つまりもし遭遇したら基本的にはテロ組織と考え気にせず摘発して問題ありません」
「でもそんな人達と我那覇総督は手を組んだんですよね。どうしてですか?」
「その真意を探るために監査をします。ちなみに監査や調整というのは全て建前です。確実に荒事になると思ってください」
「うぐっ、そうですか」
新希典派は暴徒化した民衆と違い最初からテロリストだ。正直そんな人と話し合いが出来るのかわからないけど任せられた以上はやるしかないのだろう。
「またもう一つ、旧希典派の幹部であり特殊指名手配犯の大儀見ジャックスハルオと我那覇総督が接触したという情報もあり、そちらについても調査する予定です」
「ええ。各地で児童の誘拐を行っている大儀見ジャックスハルオと、英雄である我那覇総督が結託しているとなれば由々しき問題ですから」
寡黙な司馬隊長は卑劣な犯罪に思う所があったのか憤慨してしまう。子供の誘拐は戦争において最も忌み嫌われる犯罪というのは言うまでもないだろう。
「本当ならそうですけど……」
ただもし本当ならとんでもない事だけど、私はやっぱりどこかで沖縄のために戦ってくれている我那覇総督を信じたい気持ちがあった。
「今回の任務は非常に危険なものになると予想されます。十分気を引き締めてかかってください」
ただ今回の任務は危険だけど上手くやれば悲劇を未然に防げるはずだ。私を隊長に任命してくれたミトラさんの期待に応えるためにも頑張らないと。
(……あのさぁ。期待されているからってそっちに行っちゃだめだよ)
けれど使命感に燃えていた時、こっそり見守っていたノミコちゃんの寂しげな感情が伝わってきてしまう。
(ノミコちゃん? そっちってどっち?)
(別に。ヒカリはやっぱり単純で危なっかしいなって思っただけ。手段と目的が入れ替わらない程度にアニメのネタ出しも忘れずにね)
(もちろんそのつもりだけど)
でも彼女はそれ以上何も言わなかったので、よくわからなかった私は特に気にしない様にしたんだ。




