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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第二章 暗き世界で光輝く太陽【第一部2】

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2-170 疑心暗鬼になるフィクサー達と、狂人瀬田直子の宣戦布告

 ――荒木美虎の視点から――


「……以上が調査結果となります」


 各国の首脳が集ったビデオ会議で、私は瀬田直子の核ミサイル攻撃による被害の調査結果を淡々と報告する。


『ふむ、核ミサイルが既に核によって汚染された地域や人がいない場所に落下したのは不幸中の幸いか』


 しかしそれは決して好ましいものではなく、耳心地のいい言葉に慣れ続けた権力者達は顔をしかめてしまった。


『一つだけ人口密集地域に落下しそうになったものもコクリのおかげで無事に迎撃に成功し、最低限の被害で済ませる事は出来ましたが……情報統制をしているとはいえいつまでも隠せるものではないでしょう』


 日本の代表として参加した甲東官房長官は嘆息し、今後どうすべきか策を練っている様だ。


 けれどそれは無論NAROと共有する事は無い。何故ならば彼が望んでいるのは自らの保身と権力の維持のみだからだ。


『しかし被害が少なかったという事はやはり瀬田直子は交渉を望んでいるのだろうか。その辺りはどうなのだ』

「無論分析はしていますが現在意図を量りかねている所です。迎撃に成功した核ミサイルも特別迎撃しやすかったというわけではなく、成功確率も十パーセント程度でした」

『狂人か正常なのかもわからない……狙ってこの状況を作り出したならば流石というよりほかないが、そもそもそのデータは正しいのか』

「民間ではなく、軍用のコクリの分析結果なのである程度信頼は出来ます」


 私は立場を気にせず事実のみを伝える。無能なイエスマンたちが彼らにとって機嫌のよくなる事を言い続けた結果、この戦争は収拾がつかなくなってしまったのだから。


 優れた独裁者は有能な部下がいて初めて成り立つ。そういう意味では独裁者の最大の敵は無能な部下なのかもしれない。


 そしてカリスマ的な指導者が何らかの理由でいなくなった場合、後継者も無能な事が多々ある。


 それだけならまだいいが、無能な人間同士で権力争いをした場合、それがどのような混乱をもたらすのかは言うまでもないだろう。


『だがそのコクリを運用しているのは日本だ。回りくどい言い方をせずに言うと、我々は日本が瀬田直子と手を組むためにデータを捏造した可能性を考えている。特に荒木長官、君はコソコソ何かをしている様だからね』

「NAROは治安維持部隊であると同時に諜報機関でもありますので、私の行動を詳細に明かすと国益を損なう事になるので全てを明らかにすることは出来ません。どうかご了承ください」


 某国のフィクサーは私の不審な動きに気が付いていたらしい。けれどそれがまさか異世界の支配者との協定に関わる事とは思いもよらないはずだ。


 三百人委員会、フリーメイソン、イルミナティ、ディープステート。世の中にはそうした様々な裏の支配者と呼ばれる組織が存在すると陰謀論者は考えている。


 しかし私はそんな民衆に言いたい。


 権力と利権の亡者である世界中の権力者たちが仲良く手を取り合って利益を独占するなど、あり得るはずがないと。


 アメリカの影の政府、ヨーロッパの影の政府、中国の影の政府、南米の影の政府、日本の影の政府、それらの組織から分裂した組織……私の知る限りそうした組織は無数に存在し、表と裏で互いに利権をめぐって争い合っている。


 ロマンも何もない生々しい話だとしても所詮はそんなものだ。


 だが結局ここにいる人間は表の支配者であり裏の支配者ではない。彼らの多くは自分が裸の王様だったと気付かないままに死んでいくのだろう。


『甲東官房長官も自分は無関係という顔をしないでほしい。錦界収容所が武装勢力に襲撃されたが、銀神狗が処刑されずにあの施設で軟禁されていた事は把握している』

『ご存じでしたか。しかし犯罪者を収容所に入れるのはごくごく自然の事です。それに彼女は九州最大級のギャングの最高幹部です。情報を聞き出すために生かしていただけに過ぎません』

『そうか。我々は君達がゾンビハザードの真実を知る人間の身柄を抑え、いざという時に切り札にしようとしているのではないかと思っていたがそうではないのだな』

『はは、何を仰いますやら』


 疑念は甲東官房長官にも及び、彼は相変わらず狡猾な笑みを浮かべて疑惑を否定した。おそらくフィクサー達は本音では私より彼に不信感を募らせているはずだ。


 黒い噂が絶えない甲東官房長官は持ち前の二枚舌で狡猾に立ち回り、今では日本の実質的な総理大臣となっている。その強かさはある意味最も日本の政治家らしい人物なのかもしれない。


『欧米と日本は長い付き合いだ。国民にも比較的親日的な人間も多い。ただ近頃日本のポリコレもアフリカや南米寄りに変化しつつあり、不満を抱いている人間が多い事は知っているはずだ。君たちは我々を見捨てるつもりなのかね』

『いえいえ、滅相もありません。欧米は変わらず日本のパートナーですよ。ただアフリカや南米の文化や風習にも配慮する必要がある、それだけです』


 甲東官房長官は欧米の代表者の詰問をのらりくらりとかわし、昨今では盟友となったアフリカ諸国の重鎮も彼を擁護する。


『お言葉ですがそれの何が問題なのですか? 今までのポリコレは欧米の価値観が基準となっていました。アフリカにはアフリカの、南米には南米の、ムスリムにはムスリムの理想とする価値観が存在します』


 アジアでありながら欧米に極めて近しい日本のポリコレや多様性は欧米の価値観が基準となっていた。しかしグローバル化が進んだ今、それらのルールは全く意味を為さなくなってしまった。


『アフリカには多種多様な民族が存在し、時には血を流しながらもどうにか棲み分けが出来る様に工夫してきました。それを植民地時代の様に他所から来た人間によって一方的に変えられては困るのです』


 特にそれはアフリカ地域や南米においては顕著だった。元より反欧米的な人間が多いそれらの地域において、ポリコレによる問題は単なる表現のルールの押しつけに留まらなかった。


『どうかこちらの立場もご理解ください。別に我々は欧米を支配するつもりはありません。ただ対等な関係を望んでいるだけです』


 だがその意見が気に入らなかったのか、欧米の代表者は苛立った様子で反論した。


『だが対等な関係を望んでいない人間もそれなりにいる。仕事や技術を奪われた挙句、縁もゆかりもない国々のために戦争に行って命を落とさなければならないのかと、その現状に激しく憤りを感じている人間もいるのだ』


 彼らはいつしか議題そっちのけで口論を始めてしまった。こうして力関係が変化した事で、どこかしらの組織が分裂してまた新たな影の政府が生まれるのだろう。


『子育て支援の大幅な削減もそうだ。あの法律の施行によって多くの親が子供を手放し軍事系の養成機関に預けられた。そうせざるを得なかったのは他に選択肢が存在しなかったからだ。君達は我々の国の子供を戦争に行かせたのだ』

『気持ちはわかるがそれについてはこちらでも既に議論はつくしたはずだ。今後は子育て支援に用いていた膨大な金を全て戦争に使える』


 全く馬鹿馬鹿しい。彼らは本心では利権と保身の事しか考えていない。


 けれど公僕である以上自分達は暗君達や彼らを支持する人間のために命を懸けなければならない。それが私はたまらなく不愉快だった。


『それにじきに子育てというコストパフォーマンスの悪い行為も必要なくなるだろう。元々女性が社会で必要とされてきた一番の理由は国家を維持するために子供が産めるからだ。どんな生物も子孫を残せなければ絶滅してしまう』

『あなたはどうなのですか。要はあなたも国家と権力を維持したいだけでしょう』

『……そうだな。確かにそれさえ出来れば文句はない。面倒な団体からは苦情が来そうだが、そこは上手くやろう』


 私は聞くに堪えない話を適当に聞き流したかった。


 権力の亡者となった彼らには倫理観が大きく欠如しており、既に思考は戦争に勝利する事ではなく続ける事にシフトしていた。


『だがもうそうした理由で国民を護る必要もない。最早神の教えや倫理などというものに拘っていては戦争に敗北し国家も滅んでしまう。その事がわからないわけではないだろう』

『しかしそのためにはまず世界の価値観を変化させなければならない。アニマ法と科学技術をこの世界を維持するための新たな宗教にしなければならないのだ』


 何故なら望ましくない終わり方をして全ての真実が明るみになった時、彼らには破滅的な結末しか待ち受けていないのだ。


 諸々の大義名分は建前であり、実際は既得権益とイニシアティブをめぐる争いだと民衆に気付かせてはならない。


 そしてそれを求め続けた結果、取り返しのつかない悲劇をもたらしてしまった事も。


 おそらく真実を知った時、多くの陰謀論者はそのあまりのくだらなさに絶望するだろう。


『ただそれまで繋ぎは必要だ。今回の東京婦女子見守り隊の騒動によって女性と外国人、双方に不満が募っている。ここはやはり女性の外国人兵士が日本を護ってくれているというアピールをしたほうがいい』

『そうだな。というわけで荒木長官、少しばかり沖縄辺りにNAROを派遣出来るだろうか。私も向こうに激励も行く予定があるのでね』

「お言葉ですが、甲東官房長官。NAROはあくまでも治安維持部隊です。法的根拠を示さなければ不可能です」


 私は出来るだけ表情に出さない様に甲東官房長官に返答する。


 沖縄は戦争の最前線であり、表現の自由を規制するNAROが介入する合理性は一切存在しない。


 だがそんなものは彼らにとっては全く関係ないのだろう。


『警備とかそうした理由で十分だろう。その時たまたま戦闘に巻き込まれるだけだ。適当に殉職させて名の知れた隊員を英雄にして欲しい』


 ああ、眩暈がしそうになる。


 彼らは人の命を何だと思っているのだろうか。


 自分達はこんな人間達のために戦っていると国民に伝えれば、案外戦争はすぐに終わるかもしれない。


『そうだね、一番隊隊長の司馬桜龍なんかはどうだろう。元々彼女は代役だ。何ならしばらくしてから転生先の異世界から帰って来たという設定を追加してもいい。君達は物語を作るのは得意だろう?』

「……わかりました。ですが殉職など狙って出来るものではありません。作戦に関してはこちらで決定させていただきます」


 しかし出来るだけ抵抗はさせてもらおう。


 こんな愚かな連中の言いなりになって、部下を犬死させるつもりはない。私は唯一可能な妥協案を提示する。


『ふむ、またまた面白そうな話をしているな。また会いに来たぞ!』

『なッ!?』


 そこにようやく参加者のモニターの一つをハッキングして瀬田直子が会議に参加する。けれど私は不覚にも会議が中断されて助かったと感謝してしまった。


『瀬田直子か。ちょうど君の話をしていたところだ。交渉出来るかどうかという話を』

『私そっちのけで勝手に揉めていた気もするが。なんならこいつも一緒に先ほどの会議に参加させてもいいぞ。今回は酒を飲んでいないから大丈夫だ』

『ウキー』


 瀬田直子は皮肉を込めていつぞやかのサルを呼び寄せたが、今回ばかりは彼女に同意したかった。


 あんな醜い争いを見てしまえば、全てを破壊する爆弾という兵器に魅了された彼女の気持ちが少しだけ理解出来てしまう。


『それと私が狂人かどうかという話をしていたが、そんなものは歴史の勝者が決める事だ。ただ核兵器があまり好きではないのは事実だな』

『ふむ? 何故だ』

『本来爆弾は爆発させるためのものだ。しかし多くの国は外交の材料に使っているだけで決して使う事は出来ない。私が破壊したいのはまさしくそのようなまどろっこしいものなのだ。持っているだけでは宝の持ち腐れでまったく意味がないというのに!』


 彼女はオーバーなリアクションと独特な感性で現代の世界を憂いていた。


 核抑止論はお互いが合理的な判断が出来なければ成立しないが、国家が存在しないテロリストの彼女にとってはそのあたりの理屈は全くもって無意味なのだろう。


 だがもしもこの中でまともに会話が出来る人間がいるとするなら、実の所彼女だけなのかもしれないと私は馬鹿げた事を考えてしまった。


『我々はこれからニライカナイに眠る寝坊助な龍を目覚めさせるつもりだ、全てを焼き尽くし呪いを振り撒く龍の業火は、始まりの地に封印された星桜龍を目覚めさせるはずだ』

『星桜龍……?』


 瀬田直子はわかる人間にしか理解出来ない言葉を用いて目的を伝える。


 ニライカナイという単語から日本の面々はどこを暗示しているのか辛うじて分かった様だが、それ以外の文言についてはおそらく私にしか意味がわからなかっただろう。


『私達はまだ変革を諦めてなどいない。いいや、片時も忘れた事などない。交渉は行わないが闘争ならば受けて立つ。止められるものならば止めてみせろ、荒木美虎よ』

「言われずともそうしますよ」


 彼女の瞳には暗君たちなど眼中になく、ただ私の姿だけが映っていた。


 彼女の願う変革は美しい様に見えるが暴力によるテロ以外の何物でもない。秩序を護る人間である以上、全力で阻止しなければならない。


『い、今のは……!?』


 ハッキングされたモニターの画面が狼狽えるフィクサーに切り替わり、甲東官房長官だけはわざとらしく険しい顔をしてしまう。


『彼女が何をしたいのかはわかりませんが、ニライカナイとは沖縄の事でしょうね。沖縄で何かをするつもりなのでしょうか』

『こうなっては予定されていた沖縄への激励は中止すべきでしょう。リスクが高すぎます』

『いいや、むしろこういう時だからこそパフォーマンスになる。命懸けのパフォーマンスはいつの時代も民衆を熱狂させるものだ。自分たち政治家も命を懸けているとね』

『し、しかし!』

『なあに、もしも死ねば異世界転生して悠々自適な暮らしをするだけさ、ははっ』


 白々しい甲東官房長官の雑音には一切耳を傾けず、私は素早く脳内で演算処理を行い幾千もの策を巡らせた。


 旧希典派のテロリストを打倒し、部下や無辜の市民を可能な限り死なせず、なおかつ傲慢な支配者気取りの人間に一矢報いるのに、最適な手段を。

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