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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第一章 終わりに向かう二つの世界【第一部1】

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1-29 部屋に遺された先人のダイイングメッセージ

 フルーツ馬鹿なわがまま女王様の暗君っぷりを存分に理解した後、俺は王国兵に案内されマレビトが滞在する部屋に連行された。


「この部屋、ですか」

「そうですね。どうぞお寛ぎください」


 部屋の扉は随分と頑丈そうで外側には鍵穴があり、兵士の人は鍵束から鍵を取り出して扉を開けてくれる。


 貴賓室なので鍵がかけられるのは当然だが、その気になればもちろん王国の人間はいつでも中に入れるだろう。


 赤い絨毯が敷かれた室内は豪華な調度品が置かれていたがどうにも息苦しい。けれどこれは精神的な理由ではなく窓がないからだろう。


「あのー」

「ではまた後程お呼びしますので」


 俺はさらに情報を聞き出そうとしたが、その前にドアを閉められガチャリと鍵をかけられてしまう。


 しばらく待ってから俺はドアノブをガチャガチャと回した。こちらにも鍵穴はあるがもちろん俺は開けるための鍵は持っていないし、案の定サムターンもないので内側からは開けられない様になっていた。


「へるぷみー」


 まあ、うん。早い話が閉じ込められてしまったというわけである。


 俺は無駄だとわかりつつも無意味にドアノブをガチャガチャと回し続けるが、そんな事をしてもどうにもならなかった。


 仕方ない、脱出ゲームを始めるか。異世界と脱出ゲームを組み合わせたら面白いものが出来そうだが、今の俺にとってはリアルガチなデスゲームだ。生存本能をフル活用してさっさと逃げなければ。


 まずは持ち物確認。今の俺の持ち物は学生服、愛用のカツラ、そしてポケットに入れていたスマホ、この世界にやって来た時に手に入れた銀の鍵だ。


 悲しい事に所持品はほぼリアンに盗まれてしまったのでこれだけだ。言うまでもなくスマホはずっと圏外。購入した魔石とかあったら便利に使えたんだけど。


 しかしこの銀の鍵は一体何なのだろう。キーアイテム感がプンプンするが使い方がわからない。もちろんダメもとで鍵穴に入れても開くわけも無し、と。


 所持品チェックをした所で俺は室内を入念に調べてみる。


 アンティークな調度品は確かに豪華だが最低限の物しかなく、ちょっと豪華なビジネスホテルと言われても納得してしまう。窓もなく外の景色は全く見えないのでレビューで低評価が付きそうだ。


 しかしここで重要なのは景色ではなく出入り口がドア以外一切存在しないという事だ。簡素なバスルームには一応換気扇はあるがとても人間が出入り出来るサイズではない。


 ちなみにトイレはなんと水洗な上にウォシュレット付きだった。手を洗う所には花みたいな飾りもあり、海外の人が称賛を通り越し若干引いている日本人のトイレへのこだわりは異世界においても脈々と受け継がれているらしい。


「オウ」


 ひとまず用を足し異世界の冷たいウォシュレットを堪能した所で、改めて部屋の調査を再開する。


 しかし調べられそうなものは棚付きテーブル、ベッド、クローゼット、ツボくらいなものだ。勇者と言えば真っ先にツボとタンスを調べるものなので、まずはツボを見てみよう。


 このツボはどこで焼かれたものなのだろう。俺に審美眼はないがなかなか渋みがありいいツボだ。これを壊すなんてとんでもない。


 続いて棚付きテーブルを開けてみるが、こちらは片側しか開けられなかった。


 何故ならばベッドが邪魔をして開ける事が出来なかったからだ。不便極まりないのになんでこんな配置にしたのだろうか。


 最後に観音開きのクローゼットを開けようとするが、こちらもベッドが邪魔をしたせいでかなり開けにくかった。


 扉は完全には開かずこれ以上は動かせそうにない。なお中には一応ハンガーとバスタオルっぽいものはあったがそれ以外には何もなかった。


「……………」


 この違和感は何だ。かすかに血のニオイがするがこれはどこからだ。


 俺は恐る恐るクローゼットの中に身体を入れ、何の気なしに上を見上げてしまった。


「わあお」


 そこにはビジネスホテルにありがちな謎のお札――とかではなくニゲロ、という文字が書かれていた。


 どうやら固いもので削って書かれた様だが、ある意味お札よりもずっとホラーである。


 だが血のニオイはここからじゃない。やはり一番怪しいのは邪魔過ぎるベッドだろう。


 絨毯には丸くへこんだ痕跡もあるし、これは配置を間違えたわけではなくあの場所から移動させたのだ。


 俺は嗅覚を研ぎ澄まし、かつて山奥での演習で地面に這いつくばって敵チームの痕跡を探した時の様にベッドの下を恐る恐る覗き込んだ。


「……あらーん」


 ベッドの下には確かに血の跡があった。絨毯が赤いため同化しており、暗くてわかりにくいが俺が何度も見てきた血の跡を見間違えるはずがない。


 この部屋にかつて訪れたマレビトに何かが起きた。それは否が応でもわかる。それはわかったのだがどう脱出すればいいのだろうか。


 この部屋には何も物が無いがそれは意図的なものに違いない。脱出ゲームでは攻略するために様々なものが用意されているが、リアルに監禁された場合そんなものは存在しないからだ。


 俺も学校で敵を監禁する場合は身ぐるみを剥ぎ、女性であろうと下着も全て脱がし両手の親指をしっかり縛れと叩きこまれた。


 同級生の中には戦地に行った時にそうなるシチュエーションが楽しみで仕方がないといろいろアウトな事を言っていた奴もいたけど、幸いにして王国兵は最低限の人権は配慮してくれた様だ。


 けれど配慮してくれたところで絶望的な状況である事には変わりない。いや、ホントこれどうすんのよ。かなりマズいよなあ。


 その先に待ち受けるのはきっと凄惨な結末だ。それも殺してくださいと懇願する様な状況である事はかつてこの部屋に滞在し闇に葬り去られたマレビトの決死の訴えがはっきりと示していた。


(落ち着け、落ち着け、落ち着け……)


 発狂したいのは山々だがそうなれば生存確率は大幅に下がってしまう。俺は必死に冷静になろうとした。

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