2-169 初作品完成!
――仲村渠ヒカリの視点から――
「ぷにゃ~……動いとる、動いとるよ!」
「うむ、神アニメでしたな!」
私は完成したアニメの鑑賞を終え長い長い息を吐いて脱力した。ニアちゃんはDVDプレーヤー代わりのゲーム機からディスクを取り出し、大事にケースに収納する。
「そりゃアニメだから動くでしょうよ」
ケール役のイルマは少し気恥しそうにそっぽを向いた。このアニメを見た人は、可愛らしい声の少女の中の人がギャングのリーダーだなんて思ってもいないだろうな。
勝手に主人公のモデルにされたイスキエルダさんも、ほんのり照れながら私に尋ねる。
「ところでヒカリさん、このケールというキャラクターは私がモチーフになっていたりしますか?」
「ええ。もう一人モデルになった人はいますが」
ちなみにもう一人のモデルはもちろん夢の中で出会ったヨストラって女の子で、パッチワークの服も彼女の見た目からインスピレーションを貰ったんだよね。
「皮肉屋のフクロウについても気にしないでおこう。一作目の作品については上々かな」
アニメ制作において一番の敵はこのパワハラ監督だったけど、鳳仙は完成した作品に太鼓判を押した。
ストイックな彼はまだあれこれ手を加えようとしてあれこれ追加の指示を出し、私達もまた可能な限り妥協せずにどうにか完成までこぎつけて、納得のいく作品を作り上げる事が出来たんだ。
「ぐひぇえー」
「ぼぇええー」
「ああ、ヒカリのマァマとパァパ、安らかに眠って欲しいネ」
なお椅子の上で死体の様に横たわり仮眠を取っているのは一応私の両親だ。ゼンは二人の冥福を祈り、打覆いの代わりに洗濯したてのブランケットをかけた。
「デンジャー先輩の音楽もいい感じでしたね。デスメタル以外の曲も作れるなんて驚きましたが」
「専門分野じゃないけどね。流石にあんな曲を流したらカオスな事になるから」
「あはは、それはそれで新しくて面白そうですね」
音楽担当のデンジャー先輩は世界観にバチッと合う癒されるBGMを作ってくれた。もしデスメタルがピッタリな世界観の作品を作る機会があれば激しい音楽も聴いてみたいな。
ノミコちゃんはそのやり取りに呆れつつ、糖分補給専用の激甘羊羹レーションを手渡した。
「新しければいいってものじゃないと思うよ? でもみんなお疲れ。ほれ」
「どもー」
見覚えのあるパッケージを見る限り横流しされた軍需物資っぽいけどそこは気にしないでおこう。私は訓練兵時代の数少ない癒しでもあった激甘羊羹をむしゃむしゃと食べる。
「でもいいの? クレジットはこれで。こっちを出す事は無いとは思うけど」
「うん。考えたのは私だけど……やっぱりこれは彼女がいなかったら作れなかったから」
「そっか、わかったよ」
制作に関わった人の名前を列挙してクレジットを作っていたチクタ君は私に最終確認をし、そこにヨストラという名前を入力した。
サブカルチャーは全てNAROの審査を受けないといけないので、私達がやっている事は違法行為だ。
だから身バレ防止のため世間一般にこの情報が出る事は無いから意味なんてないけど、やっぱり彼女が生きた証を残したかった。
「うへへ」
にやけた私は手のひらを太陽にかざす様に、DVDが入ったケースを天井の照明で照らす。
そんなはずがないのに、こうしていると円形の無機物から心臓の鼓動が聞こえる気がした。
ああ、アニメが作れるなんて本当に幸せだ。
でもこれは夢の一歩、私達はまだまだこれからもっともっと素敵な作品を作るんだ。
だけど今はとにかく眠りたい。
私は心地よい睡魔と疲労に身を委ね、束の間の休息をとるために夢の世界へと旅立った。




