2-168 初作品『ケールのキャベツ検定』(仮)
『作品タイトル キャベツ検定(仮)』
とある世界のとある自然豊かな町の学校で服の作り方を学ぶキャベツの精霊ケールは、試験に提出する服のサンプルを完成させ、大好きな先生からの評価を心待ちにしていました。
この国では年に一回大きなファッションの祭典があり、この試験に合格した服はそのファッションショーに出る資格を与えられます。
そのお祭りで最優秀賞を貰う事は一流のデザイナーとして認められる事と同じであり、デザイナーを目指す学園の生徒ならば誰もが欲しがる栄誉でした。
「うーん、これは何をイメージしたのかな?」
「ええとね、いろんな色の布の端切れを使って服を作ったんだ!」
「そう、でもなんだかちょっとちぐはぐかな? これじゃあお祭りには使えないかなあ」
「ガクッ」
先生は優しい言葉でしたがケールの服をやんわりと否定し、元になった彼女のデザイン案に筆を走らせ、変更したほうがいい点を教えます。
「ほら、こうすればもっとよくなるよ。皆と同じ様にすればちゃんと皆評価してくれるから。きっと皆が褒めてくれてお祭りでも披露出来るわよ!」
「うーん、でもなあ」
褒められると思っていたケールはデザインを眺めガッカリしてしまいます。それは一見すると華やかでしたが、彼女からすれば折角描いた絵をぐちゃぐちゃにされただけでした。
「またダメ出しを食らってるよ」
「取りあえず誰もやっていない事をやればいいって勘違いしてるだけさ」
「皆と同じ事をすればいいのに、本当に変わりキャベツだよね」
同級生は落ちこぼれのケールをケラケラと笑いものにしました。ケールは悲しくなり、とぼとぼと自分の席に戻っていきました。
学校からの帰り道、ケールは森の中でお友達のマタンゴさんとフクロウに服のデザインについて相談しました。
「ぼくはケールちゃんがかんがえたほうがいいかなあ」
「どっちもどっちだね。確かにケールのアイデアは悪くないけど、なんか貧乏くさいし」
「あうー、みんな冷たいよー。紫色になっちゃうよ」
マタンゴさんはいつも通り優しく接してくれましたが、フクロウは相変わらずの素っ気ない態度だったので、ケールはさらに落ち込んでしまいました。
「いいじゃないか、キャベツは冷たい方が美味しくなるんだよ」
「はっ、それもそうか! 励ましてくれてありがとうね!」
「励ましてないよ?」
フクロウは少しずれた感覚のケールに呆れてしまいます。しかし勘違いした結果元気になったので、特に訂正しなくてもいいかと放っておく事にしました。
「でもどうしようかなあ。やっぱり皆に合わせたほうがいいのかな」
「おや、今日も悩んでいるみたいだね。感心感心」
「あ、おばあちゃん!」
ケールは服のデザインをどうすべきか悩んでいると、森に住むおばあちゃんが話しかけてきました。
おばあちゃんは年齢を感じさせないほどオシャレな服を着ていたので、ケールは彼女の事を師匠の様に思っていました。
「皆や流行に合わせて服を作ったほうがいいのは当たり前の事ではあるね。そのほうがたくさんの人が認めてくれるから」
「そっかあ……やっぱりそうなのかなあ」
おばあちゃんはケールにアドバイスをしますが、それは先生と同じだったので次第に彼女は自分が間違っているのだと思う様になりました。
やはり自分は結局、人と違う事に憧れていただけのただの変わりキャベツだったのかもしれません。
「だけど常識や流行は作るものだよ。自分も若い頃は変な服しか作っていないって言われてね、それでもずっと続けていたらいつの間にか評価される様になったんだ。元も子もないけどこの世界はやったもん勝ちだからね」
「でもいつか評価されるとしてもそんな保証はないし、そんなに待てないよー」
「そうだね、その頃にはその服もサイズが合わなくなっているだろうね。だけどそれをどうにかする簡単な方法はある。それはね、誰も文句が言えない素晴らしいデザインの服を作る事さ」
「誰も文句が言えない素晴らしいデザインかあ。それってどんな服なの?」
「さあ、私にもわからないよ。ファッションはとても自由だ。時代が変わればすぐに当たり前だと思っていたものが変わってしまう。ダサいと思っていたものが素敵になって、素敵だと思っていたものがダサくなる事もある。最初から普通も正解もないんだよ」
「そっかあ……」
おばあちゃんのアドバイスは的確な様で大雑把でした。けれどケールにとってその言葉は、迷っていた自分の背中を押すのに十分過ぎました。
「わかった! ありがとうね! 早速もっといいものを作ってみせるよ!」
「うんうん、一杯悩むんだよ」
「がんばってー」
「ふふ、程々に期待して待っているよ」
皆から励まされたケールは森の中を歩き回りアイデアを探す事にしました。
新緑の木々。
陰日向に咲く小さな花。
原っぱを駆ける野兎。
飛び跳ねるバッタ。
清流と苔むした岩。
不思議な色のキノコ。
その全てが彼女のアイデアとなり、無限にデザインが生まれました。
「およ?」
しばらく歩いてケールは不思議なものを見つけました。
彼女は最初丸まったそれが何なのかわかりませんでしたが、しばらくしてそれがキャベツだとわかりました。
「なんだろうこれ。丸いキャベツなんて見た事ないや」
ケールはふと前に大人から聞いた話を思い出しました。
キャベツは普通葉っぱが広がっていますが、たまに丸いものが出来るのだと。
これはきっとそういう変わりキャベツなのでしょう。
葉っぱの表面についた露は木漏れ日の光を浴びてキラキラと輝きます。
それは丸い以外は何の変哲もないキャベツだったはずなのに、彼女はまるで宝石を見つけたかのような気分になりました。
この唯一無二の美しさを表現すればきっと最高の服が出来るはずです。
そうだ、これにしよう! ケールはこのへんてこなキャベツをベースにして服のデザインを考える事にしました。
「ふふん!」
「これは……!」
「え、ええと」
次の日、早速服を完成させたケールは自ら作った服を身にまとって、教室で先生たちに見せつけます。
どうせ大した事がないだろうと思っていた同級生も、見た事が無いデザインの服にとても驚いてしまいました。
丸いキャベツと朝露をイメージし、端切れを繋ぎ合わせて作った煌びやかな服には貧乏くささは一切無く、まるでお姫様が着ているかのように絢爛豪華でした。
お金がない人が使う端切れでこんな事が出来るのかと、ダメ出しをするつもりだった先生も言葉を失ってしまいます。
「悪くないけど……でも、うーん、やっぱりこれも……」
けれどその服は誰も見た事がないデザインだったので、誰もどう評価していいのかがわかりませんでした。
しばらくして先生はデザインを修正しようとしましたが、そこにおばあちゃんが現れます。
「あら、いいんじゃないかしら。私なら合格にするわね」
「学園長!? どうしてここに!?」
「あ、おばあちゃん! って学園長?」
「ああ、そこは気にしなくていいわよ」
先生はおばあちゃんを見てとてもびっくりしてしまいます。
先生は彼女の事を学園長と呼んでいたので、ケールは不思議そうな顔をしてしまいましたが、少し考えてデザイン画をしまいました。
「うーん、でもやっぱり違うかな。これよりもっといいものを作るから待っててね!」
「え、ええ、そう」
ケールはこの服の出来栄えに満足していませんでした。
やはりもっといいデザインに出来るのではないか、彼女は再びアイデアを探しに外に出かけました。
「うふふ、将来が楽しみね。若者はこうでなくっちゃ」
「学園長……」
「そんな顔をしないで。あなたも彼女が憎くて言ったわけじゃないのでしょう?」
彼女が大先輩に認められた事よりも申し訳なさが勝ってしまった先生は落ち込んでしまいますが、おばあちゃんはちゃんと先生のフォローをしました
「だけどたまには挑戦してみなさいな。うかうかしていたら若い子に負けてしまうわよ?」
「ふふ、そうですね。年甲斐もなく私もお祭りに出す服のデザインを考えてみますか。今日はもう自習よ」
先生はケールをライバルと認識し、早速かつての夢を思い出すために服を作る事にしました。
「何にしようかな~! アイデア出てこーい!」
やがて一流のデザイナーとなった彼女はファッションの世界に革命を起こしますが、そんな事は誰も知る由もありません。
そしてそれはもちろんケールも同じでした。
教室を飛び出したケールの心は希望で溢れていました。
目に映る何もかもが輝いて見え、アイデアとなって無限の可能性を紡いでいきます。
その時のケールは将来の事も試験の事も全て忘れ、頭の中にはもっともっと素敵な服を作る事しかありませんでした。




