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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第二章 暗き世界で光輝く太陽【第一部2】

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2-166 ゼンが六天街にやってきた理由

 お魚の怪奇現象のレポートをそれっぽくまとめ、ヨンアから仕事のやり方を教わりつつも、もちろん本業もおろそかにするつもりはない。


 私はビシッと決めた制服からダサTシャツに着替え、今度は鳳仙からビシバシと指導を受けながら課題のイラストを描いていた。


 たかが一秒、されど一秒。


 五分間のアニメでも作るのには一か月から三か月は必要で、クオリティに拘れば一年以上かかるけど、鳳仙は人工知能で作業を効率化しつつわずか二週間程度という強行軍で仕上げるつもりらしい。


 残念ながら六天街に労働基準法なんてものは存在しない。私はえげつない罵詈雑言に心が折れかけながらもどうにか食らいついた。


「ふぎゃー」

「ぶも」


 んで、その結果がこれだ。


 人間を辞めてゲル状になった私は吹雪に全力で甘えた。三児の母である彼女はその包容力とゴワゴワの毛で私を包み込み慰めてくれる。


「ハハ、お疲れ様だネ。何か飲む?」

「エナドリと栄養ドリンク以外ならなんでもいいよー」


 丁度休憩していたゼンは私を労い紅茶を淹れてくれた。ティーパックで簡単に作ったものでもメンタルがズタボロな私にとっては最高の癒しになる。


「ほけー」


 紅茶をまったりと飲んだ私は全ての思考を放棄した。


 ああ、このまま何も考えずにだらけていたい。あんなにボロカスに言われるなら絵なんてもう描きたくないよう、ぐすん。


「ねぇ、ゼンってどうして六天街にいるの? 留学生だったって話は前に聞いたけど、何をやらかしたの? 言いたくなかったら別にいいけど……」

「大した事じゃないヨ。ゾンビは本当に悪者なのかって陰謀論が流行った時に同調したら信用スコアをごっそり持ってかれてネ。で、ヨンアの伝手でこっちに来て、銀狼会に身を寄せてるのサ」

「あー、ゾンビハザードの陰謀論系はかなりジャッジが厳しいからねー。生物兵器のテロとか、軍事施設からウィルスが漏れ出たとか、旧日本軍が捨てた化学兵器が原因とか、そもそもゾンビなんて存在しないとか」


 NAROは表現の摘発の基準がかなり曖昧だけど絶対ダメなジャンルはいくつかあり、代表的なものは戦争を否定する事、そしてゾンビハザードにまつわる陰謀論だ。


 中にはテロリストの荒木希典が本当は無実で世界を救おうとした英雄だとか荒唐無稽なものもあるけど、ここまで必死って事はやっぱりその中の一部には本物が混ざっていたりするのだろうか。


「うーん、私の場合はちょっと違うっていうカ……悪くないゾンビもいるんじゃないカって言ったからダヨ。ほら、ゾンビが人を襲うなんてただの映画とかゲームのイメージだし、実際にはそういうゾンビもいるかもしれないダロ?」

「……かもしれないね」


 ゼンの言葉を以前の私ならば信じられなかっただろう。


 ゾンビは人類の敵であり、日本を護るために一切の慈悲なく殲滅しなくてはならない。私達は学校で、そして日常のあらゆる場面で徹底的にそう叩き込まれた。


 だけど夢の狭間の世界で出会ったゾンビは一切危害を加える事なく、むしろ身勝手な人間なんかよりもずっと優しく接してくれた。


 結局あれが現実の事だったのか夢だったのかはわからない。けれど個人的にはあの幸せな光景がもう一つの可能性だと思いたかった。


 それにダルマオンナとも最終的には分かり合えたし、校長先生はそうじゃなかったけど……元々は人間だし、中にはそういうゾンビだってきっといるはずだ。


「だけど銀狼会にいても大丈夫なの? 籍だけを置いてるって言ってもやっぱりほら、銀狼会って略奪とか悪い事もしてるし」


 ゼンがいい人だと理解した上で私は彼女の事が不安になってしまった。


 生きるためとはいえ銀狼会は悪い事をしているし、何かしらの厄介事に巻き込まれていないか気がかりだったからだ。


「うーん、実は銀狼会が襲っているのは基本的に大陸で略奪したものを取り扱っている店か、対立している海外組織の息のかかった所だけってルールがあるのサ。もちろん銀狼会と仲良くしているお店は絶対に襲わないヨ」

「あ、そうなの。それってつまり奪われたものを取り返しているだけって感じ?」


 だけど彼女は銀狼会にまつわる裏事情を教えてくれた。てっきり無差別に襲っているのかと思っていたけれど、アウトローなりにちゃんとその辺のルールはある様だ。


「そんな正義の味方の義賊って感じじゃなくて敵対組織への見せしめ的な意味合いもあるけどネ。不良外国人や反社だからって皆が仲良くしてるわけじゃないのサ」

「そっかあ……」


 つまりそのルールは俺達が護ってやるから言う事を聞けって感じのヤクザの論理なのだろう。日本の暴力団は警察が頼れなかった戦後の混乱期にそうやって発展してきたんだっけ。


「とにかくイルマはああ見えて結構いい子なんだヨ。ウサギみたいで可愛いし」

「それはわかるね、うん」


 もちろんそうしたルールがあったとしても犯罪には違いない。けれど私は銀狼会の裏事情を知り、少しだけ彼女の事をもう少し理解したくなってしまった。


(でもこれって)


 ひょっとするとこの想いはアニメ制作に生かせるかもしれない。


 私はゾンビや悪い人だと思っていた人達が本当に敵なのか知りたくなってしまった。出来ればまた会えるといいんだけどな。

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