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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第二章 暗き世界で光輝く太陽【第一部2】

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2-165 願いによって現実になりつつある虚構の英雄

 私はお魚落下事件を調査するため周辺の状況を調べる。


 一応派遣されたNAROで警備はしているけど、完全には封鎖出来ておらずお腹を空かせた人がコソコソと魚を回収していた。


 見るからに異常事態ではあるけれど、この事件自体は直ちに対処する様な問題ではないので割と適当らしい。


 この事件は摩訶不思議だとしても自然現象や悪戯と言えばそれまでだし、ハッキリ言って物凄くどうでもいい事件だからだ。


 夢桜しばえもんの小説の件がなければ正直私も適当に仕事をして、ついでにお魚を何匹か持って帰って美味しくいただいていただろう。


 でもお魚を持って帰っている人はどうしよう、ちゃんと注意をしたほうがいいのかな。


 だけど略奪とか輸送車からこぼれたものならともかくこのお魚はどう考えても盗まれたものじゃない。折角ありつけたご馳走を取り上げるっていうのも可哀想だしなあ。


「ふんふんふーん」


 ただその迷いを吹き飛ばすくらいぶっ飛んだ人がいた。


 その白衣を着た幼女は七輪の上に魚を置いてパタパタと団扇で煽いでいた。


 炭火で焼いてこんがり焦げ目がついた魚からはいいニオイが漂い、その食欲をそそるニオイを嗅いでしまった私は無性にお腹が空いてしまう。


 でもこの女の子どこかで見た様な……じゃない、これは流石にアウトだから話しかけないと。


「あ、あのぉ、何してるの?」

「見てわからないのかい? 七輪で魚を焼いているのさ。ワンカップには焼き魚がないとねぇ」

「いや見たらわかるけど」

「なに? この場所で七輪で魚を焼いちゃいけないって法律でもあるの?」

「ないと思うけど……多分法律を考えた人もそんな事は想定してないから」


 彼女がしている事は至極単純明快だ。せめて公園とかでやればまだわかるけど、間違っても白昼堂々市街地の路上でする事ではない。


「で、でもお酒。そう、路上飲酒は駄目だし未成年だし!」

「まだ酒飲んでないじゃん。あと俺っちは成人してるよ、こんななりだけど。ああんコラ、なに言いがかりつけてんの? 冤罪で逮捕するんですかねー? ネットに晒すよー?」

「うぐぅ!」


 白衣ロリは上手い具合に法律をかいくぐり未熟な私を論破した。もしもヨンアなら上手い具合にやってくれるのだろうか。


「ああそうそう、七輪で魚うんぬんだけどこの場合は道路交通法が適用されるかもね。道路を占有するのもアウトだし、危険を及ぼす火気の使用もアウトだし」

「そ、そうなんだ! 勉強になります……ってじゃないよ! ならアウトだよ!?」

「公道ならね。だけど実はこの場所は法的には私道で公道じゃないんだよね。何年か前の空襲の後に新しく建物を建てた時、書類のミスでその辺が曖昧になっちゃったんだ。ならこの場合どういう法律を適用するのが正解かな?」

「うぐ」

「ここをいつの間にか難民に不法占拠された公道と定義するか、知らずに土地を購入して個人に所有権が存在する私道と定義するかでややこしい問題が起こるよ」

「うぐぅ!」

「ちなみにご時世がご時世だから類似の問題は日本中に存在している。もちろん日本人も外国人も事情は同じだ。安易に前例を作ってしまえばややこしい事になる」

「うぐぐっ!?」

「ここは外国人が知らずに土地を買って家を建てたけど、この前例によって訳アリの土地を占拠している日本人が罰を受ける可能性もあるだろう。だけど特定の国や人種の土地はセーフでそうじゃないのはアウトなんて判断をしたら法の下の平等に反するって確実に揉めるからね」

「うぎゃーッッ!? わかんないわかんないわかんない! 何も聞こえない!」


 人を舐めた態度のオッサンくさい白衣ロリは法律を盾になかなか性格の悪い揺さぶりを仕掛けてくる。こんな高度な判断が私如きに出来るわけないよ!


「だからその辺を上手い具合にやり過ごすためにグレーゾーンが存在しているんだ。白黒はっきりさせないほうが良い事もあるんだよ。ほれ、魚やるから黙っておくんなせぇ」

「うう、わかったよ……」

「ちなみにこれも贈賄で禁止行為だからね」

「ギャー!? もうあんた嫌いだよ!」


 そう言われた時既に焼き魚を食べてしまった私は、面倒な奴に絡んでしまった事をひどく後悔してしまった。


 なんだろう、この人を食った感じにデジャヴを感じるよ。鳳仙とは違ったベクトルの性格の悪さだなあ……。


「クックック、すまないねぇ。ただ俺っちはそれなりに博識だ。このファフロツキーズ現象について知りたい事があるなら少しくらいは教えてあげられるよ」

「ファフ……? え、何ですかそれ」

「ファフロツキーズ現象。竜巻とかで海や湖の魚が上空に巻き上げられて落っこちてくる現象だ。鳥が落としたり悪戯ってパターンもあるけど。古くは怪雨なんて呼ばれたりもしたね」

「は、はあ」


 しかし白衣ロリは白衣を着ているだけあって科学の知識はあるらしい。なんか嫌な感じだけど情報収集のために話を聞いてみよう。


「ただ大体は自然現象で説明がつくけど今回周辺で竜巻は一切観測されていない。だからその可能性を除外した上で君はどう考える?」

「え? えーと、空にいた神様が釣りをしている最中に落としちゃったとか?」

「随分とメルヘンでロマンチックな答えだねぇ」

「いやそんな急に言われてもわかんないから」


 無茶ぶりをされた私はとんちんかんな答えを出し、白衣ロリは小馬鹿にしたようにククッと笑う。確かに自分でもこの答えは大喜利だとしても流石にないと思ったけど。


「だけどその答えはある意味では本質をとらえている。昔の人間は君みたいによくわからない現象を妖怪や神様の仕業にしたんだ。そうやって民間伝承や妖怪が生まれたんだよ」


 白衣ロリは科学の話をするかと思いきや民俗学の話を始めた。けれどその昔話の語り手の様な雰囲気に、私はうっかり引き込まれてしまった。


「オカルトや妖怪は科学技術の発展によってほぼ絶滅したけど、今でも現代科学じゃ説明がつかない事はある。それはしばらく経ったら科学的に解明されるかもしれないけど、人間は世界の真理の一端も知らないというのに全てを理解したつもりになっているのさ」

「世界の真理、か……」


 私はその話に思う所があった。真実を妄信し全てを理解したつもりになっている――ダルマオンナ事件はそうした人達によって引き起こされてしまったのだから。


「人間はいつの間にか全知全能の存在と思い込むようになり、無知である事を忘れてしまったんだよ。どれだけもっともらしくても、証明されていないものや検証されていない科学はただのオカルトや似非科学なのにねぇ」


 人間は信じたいものを信じる生き物だけどオカルトや宗教を偽物だと強く否定している人もまた、ある意味では唯物論や科学という宗教の狂信者といえるだろう。


「だからそうしたものに直面した時、『これは現代科学じゃ説明出来ない、つまりは本物だ』とか、『よくわからないけど偉い人がこう言ってるから正しい』ってなるのよぉ。今回のファフロツキーズ現象についてもネットはかなり考察合戦をしているけど、はてどうなる事やら」


 その先にある結末はきっと誰にも予想出来ない。


 多くの科学者が宗教に傾倒し、真面目な人間が陰謀論を信じるのはその根底では科学という宗教の信奉者だからだ。


「だけどデマが生まれたとしても、調べればすぐにわかると思うけど」

「確かにファクトチェックをすればネットの怪異はすぐに消滅する。でもそれが出来なかった場合――もしくは出来ても誰も信じなかったら、いつの間にか信じられた異世界転生みたいに科学的に証明された真実になるんだろうねぇ」

「……………」


 そして私は一度、その果てに起こった悲劇的な結末を見てしまった。人間は思っているよりもずっと愚かだという事を私は実体験で知ってしまったのだ。


 異世界転生も少し前まではフィクションの中の概念だった。けれど偉い人が存在すると言い切り、誰もが実際に見た事がないというのに異世界の存在を信じてしまった。


 実際に異世界が存在するかどうかはわからないけど、人間の常識なんて所詮そんなものなのかもしれない。


「このままいけば巷で噂になっている予言者夢桜しばえもんも、ひょっとしたら実際に世界を救うために現れるのかもねぇ。混沌とした時代に民衆は英雄を求めるものだからねぇ。それは本当は英雄の仮面を被った魔王なのかもしれないのにねぇ」


 ダルマオンナだけではない。このままでは大衆は同じ事を繰り返し、そう遠くないうちに夢桜しばえもんという人々の願望から生まれた虚構の英雄が作り出されるはずだ。


「夢桜しばえもんの正体についてあなたは知っているの? 実際に小説を投稿しているから実在している人物なんだろうけど、あの人は何をしようとしているの?」


 ただ今の段階では意図せずこのような事になっているのか、それとも変革の下準備として行っているのか、あるいはただのイタズラなのかまったく判断出来なかった。


 私は夢桜しばえもんの真意を知るために彼女に問いかけたけど、


「さあねぇ。俺っちにはわからないねぇ」


 白衣の少女は不敵な笑みを浮かべてはぐらかすだけだった。何となくだけど彼女は何かを知っているんじゃないか――私はそう勘ぐってしまった。


「幽霊の正体見たり枯れ尾花、疑えば目に鬼を見る。幽霊や妖怪は形を変えてまだこの世界に存在しているのさ」


 私は彼女の言葉を噛みしめどうすべきか考える。


 今回のお魚騒動は一見しょうもない事件の様に見えるけど、対応を間違えれば世界の運命を大きく変えてしまう原因となるのかもしれない。


「俺っちはこのお魚事件の答えを知っているけど、お前さんにアドバイスするとすれば無理矢理答えを作ると矛盾を突かれた時にややこしくなるから、わからない事はわからないままにしたほうがいいって事くらいかな」

「そりゃまた元も子もない事を。でもそうなのかな」


 うん、原因はよくわからない方向で報告書をまとめておこう。私はさらにロリ幼女に意見を聞こうとしたけど、


「それともう一つ大事なアドバイスを言うのなら、最近は寒いから風邪をひかない様にあったかくして寝るんだよぉ」

「あのっ?」


 全く重要ではない当たり障りのない言葉を仰々しく告げた彼女に視線の焦点を戻した時、そこにはもう既にロリ幼女はおらず、何故か七輪も焼き魚もなくなっていたのだ。


「え」


 私はしばらく呆気に取られて固まってしまい、彼女の言葉の意味を身をもって実感してしまった。


(ノミコちゃん。私見たらいけないものを見たの?)

(気のせいだよ)

(そっかー)


 取りあえずこの事は報告書に書かないでおこう。


 この出来事を伝えたら部下想いな上司に休暇を言い渡されそうだし。ノミコちゃんみたいなあからさまなのがいるのに今更かもだけど。

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