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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第二章 暗き世界で光輝く太陽【第一部2】

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2-162 ヒカリの決意と、NARO隊長就任

 久しぶりに歩くNARO本部の廊下だったけれど、今は何もかもが違う景色に見えた。


 支給された制服もちょっぴり豪華な隊長仕様に変わり、私は身が引き締まる思いになってしまう。


 自分がこの服を着てこの国の秩序を護る国家公務員になり、肩で風を切りながら歩くだなんて、少し前までは考えもしなかった。


 それはきっと禍悪巣亭の皆も同じだったはずだ。


 私は皆にしばらくの間NAROを続けるという決断を伝えた時の事を思い出した。


 ……………。


 アニメ制作とNARO、二足の草鞋を履くスパイ生活を続ける――禍悪巣亭でそう伝えるとやはり微妙な空気になってしまう。


「ええと、本気? もうあたしを助けるっていう目的は果たしたんでしょ。あんたの親とも合流出来たわけだし、これ以上リスクを負う必要はあるの?」


 NAROと完全に敵対している銀狼会総統のイルマは当然真っ先に反対したけれど、私はううん、と首を横に振った。


「スパイを続けていれば理不尽に弾圧されている人を助けられるし、アニメ制作を手伝ってくれる仲間も増やせるかもしれない。後は助けてくれたミトラさんへの義理と……お金?」

「最後の一言で台無しになったでござる」

「ま、まあ半分は冗談だけど」

「半分は本気なんだね」


 私がうっかり本音の一部を漏らすとニアちゃんはジト目で睨みつけた。うう、こういう所が空気を読めないって嫌われる理由なんだろうな。


「もちろん好きな様にアニメを作りたいけど、ルールを作る側に立つ事で見えるものもあるかもしれない。万人に受け入れられる作品なんて作れないだろうけど、それでも私は出来るだけ多くの人に作品を届けたいから」


 混沌とした今の時代において、何が正しくて間違っているのか、表現がどうあるべきか、ポリコレがどうあるべきか、私はNAROの人達も迷っていてまだ何もわかっていない事を知ってしまった。


「表現がどうあるべきかなんて正解はないだろうけど、私はいろんな立場の人の考えを知って模索したいの。自分の正解を押し付けるんじゃなくて、ちゃんと理解した上でアニメを作りたいから」


 だけどそこで全てを諦め理解する事を放棄し、正解なのかわからないまま当事者以外の人が作ったルールに従ったり、それに反発するのはやっぱり何かが違う気がしたんだ。


「僕や全てのクリエイターからすれば連中は敵なんだけどね」

「……ごめん。でもやっぱりこればかりは譲れないから」


 曲解したポリコレを求めるあまり暴走したNARO隊員に殺されかけた鳳仙は、私の決断を到底受け入れられなかったはずだ。


 けれど彼はすぐに否定する事無く、しばらくの間考えてくれる。


「いいよ、試してみな。イラストの練習やアニメ制作を両立させるのなら構わないよ」

「……ありがとう!」

「ふふ、もしかしたら君になら『夢の彼方』の続編を完成させる事が出来るかもしれないね。久遠瑞鳳が見つけられなかったものを、とっくに見つけてしまった君になら」


 熟考の後鳳仙は私の決意を受け入れてくれた。だけどこれからきっと物凄く大変な日々が続くだろうし、今以上に全力で頑張らないと。


 ……………。


 回想を終え、就任式を行う大きめの会議室に移動するとそこにはミトラさんと他の隊長が全員揃っていた。


 概ね顔ぶれに変化はないけれどこの中に私も加わるのか。


 ルールを破壊しつつも、ルールを理解しようとする邪道にも程がある私が。


「以て、本日下記隊員を隊長職に任ず。辞令発令者、NARO長官荒木美虎」


 辞令を読み上げるのはもちろん荒木美虎長官だ。


 今日ばかりは彼女もイメージ通りの冷酷無慈悲な鬼長官となり、形式を重視して恭しく発表した。


「一番隊隊長、司馬桜龍」


 筆頭はもちろん剣聖とも呼ばれる司馬桜龍さんだ。同じ空間に立っているだけでプレッシャーが凄まじく、私は格の違いを見せつけられてしまう。


「二番隊隊長、高倉エイト」


 そんな彼女と双龍コンビを組んでいる高倉隊長も変わらずツートップを維持する。この二強体制が変わる事はそうそうないだろうな。


「三番隊隊長、サイトウ・ヨンア」


 ヨンアの名前も読み上げられ私はその時初めて彼女の苗字を知った。ただその名前はありふれたもので、そこまでびっくりする様なものではなかったけど。


「四番隊隊長、恋原愛司」


 義体の修復が完了した恋原隊長は相変わらずTPOを弁えていない猫耳メイド衣装だ。誰も何も言わないけど、規律に厳しいミトラさんはどう思っているのかな。


「五番隊隊長、柳武」


 あまり絡みがないフェロモンムンムンな柳さんはその名前で呼ばれるらしい。本人は武と呼ばれるのを嫌っていたけど、登録名は昔のままという事は彼女も自分のあり方を模索しているのだろうか。


「六番隊隊長、芦田あしだ源三げんぞう


 試験で私が倒したダンディなおじさんも久しぶりに顔を合わせた。ただこの人はダンディって事以外何もわからないんだよね。


「七番隊隊長、トレンタ・バレンティーノ」


 トレンタさんも今日ばかりはちゃんと真面目にして悪童を封印している。実際は心優しい童貞デブなんだけど、ほとんどの人は見た目で判断しちゃうからもったいない。


「八番隊隊長、堂島ジョセフ平八郎」


 とと、私の名前が呼ばれた。別にこれといった何かをする必要はないけど背筋をピンと伸ばしてと。


「九番隊隊長、マギー・サブリナ・ベルウッド」


 新顔のベルウッドさんもなんかちゃっかり隊長になっているし。一応東京婦女子見守り隊を摘発したという実績を引っ提げ鳴り物入りで加入したけど、やっぱりなんかモヤッとするよなあ。


「十番隊隊長、イスキエルダ・マクミラン」


 最後に呼ばれたのは頼れる先輩イスキエルダさんだ。右も左もわからないし、彼女に色々聞いて隊長としての職務をしっかりとこなそう。


 寛容と不寛容、自由な表現とルールによる規制。


 そしてクリエイターとNARO。


 一見相反する存在の様だけど、私はその先にあるものを見てみたかった。


 それが光なのか闇なのかはわからないけれど、どちらにしても私だけの作品を作る上で最高の糧になるだろう。


 世界の真実の欠片は混沌とした世界で、誰にも見つからないまま寂しげに震えている。


 私は最高の作品を作るために、そして上辺だけではなく本当の意味で理解をするために、喜んで無視され続けた世界の本当の想いを受け入れたかった。

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