2-159 ヒカリが描きたかった絵
どういうわけか私とゾンビ達は駅チカ葉瀬帆ストリート跡地の廃墟で、仲良く終末ピクニックを楽しんでいた。
「うまー」
「フガフガ~」
「うぇへへ」
まったりほのぼのした空気が流れて幸せしかない。
今更だけど私は何で人類の敵であるゾンビと一緒にこんな子供向けアニメみたいなひと時を過ごしているのだろうか。けれど幸せだから細かい事はどうだっていいよね。
そうだ、今のうちにキャラデザを考えよう。こんな素敵な場所なら創作意欲もモリモリ湧くってものだ。
(って、ペンタブ持ってきてないな)
だけど最小限の荷物を持って外出した私は必要な道具を何も持っていない事に気が付いた。うーん、描くものがないなら仕方ないか、残念。
「ふんふんふーん」
「およ」
私が落胆しているとマタンゴさんはおもむろにチョークで地面に絵を描き始めた。現実なら駄目だけど、ここではもう人類は滅んだっぽいので問題はないだろう。
「なに描いてるの?」
「ぼくとかニイノちゃんとかあたらしくできたおともだちー」
「そっかー。私も描いていい?」
「いいよー」
キノコ君は魚や信楽焼のタヌキっぽいものを描き、拙い落書きからは温かみが感じられる。折角だ、私も何か描いてみよう。
私は白いチョークを走らせ、キノコ君が描いた絵の隣にキャベツを描いてみる。
何百回、何千回とキャベツだけは描き続けたから、どんな筆を使ってもそれなりのクオリティのものを仕上げられる自信はある。
「ぼべー、じょうずだなー」
「ヨストラも描いてみる?」
「うん!」
ヨストラもまたお絵描きに興味を示してチョークで地面に落書きを描いた。
これは自分自身を描いたものなのだろうか、自由な発想で描かれた落書きはお世辞にも上手ではなかったけど、だからこそ味わい深いものを感じられた。
とある芸術家の名言で『子供は誰でも芸術家で、大人になっても芸術家でいられるかどうかが問題だ』というものがある。
思うがままに描いたその落書きには型というものや常識が一切存在せず、それはまさしく私が描きたいと願っていた様な絵だったのだ。
「……………」
そうだ、これで良かったんだ。
私は思考を全ての枷から解き放ち、描きたいと思う絵だけを描いた。
たとえ現実世界が様々なルールで雁字搦めだとしても、心を縛るものなんて本当は何一つないのだ。
「うん、出来た」
そして私はついに望むデザインを描き上げた。
これが認められるかどうかはわからないけど、それは私にとっては一番の自信作だったんだ。
「ちょいちょいちょーい。何してんの?」
「ノミコちゃん?」
「ふう、やっと見つけられたよ」
絵を完成させると少し慌てた様子のノミコちゃんと見知らぬ白衣の少女がやって来た。多分だけど私を探しに来たのだろう。
「なんかごめん。それと……えーと、どちら様?」
「時空のオッサン的な。今は時空のTSオッサンだけど。駄目だよこっちに来たら」
「あ、なんかすみません」
目の前にいるのちっぱいロリだけど、確か都市伝説でそういうのがあったっけ。異世界に迷い込んだ人に警告して現実世界に戻してくれるっていう。だとすると二度目はないのかな。
「けどやっぱり時空の境目が不安定になってるのか……二つの世界が混ざっちまうのもそろそろかねぇ。ほれ、とっとと帰るよ」
「は、はい。ヨストラ達もありがとうね」
「おう! じゃあなー!」
「またねー」
「フガ!」
名残惜しかったけれど私はヨストラ達に別れを告げてその場を後にした。夢だとしてもダルマオンナとまた会えたし楽しかったな。
「どうしますか、希典さん」
「構わない、予定通り計画を進めよう。現にバグ穴的な感じだけどこっちと向こうが繋がったしねぇ」
「……わかりました」
ノミコちゃんは白衣ロリと難しそうな話をしていた。うーん、よくわからないけどこれから世界の危機が訪れようとしているのだろうか。
「お前さんももうこっちに来るんじゃないよ。少なくとも今はまだその時じゃないから。それと……昔のダチが世話になったね。ありがとうねぇ」
「―――――」
白衣ロリは寂しげに微笑み、私はその意味をちゃんと理解出来なかったけどとりあえずどういたしまして、と言おうとした。
だけどそれは音としてこの世界に存在する事が出来ず、世界は霞み概念を維持出来なくなってしまう。
ああそっか、きっともう夢が覚める時が来たのだと私はなんとなく理解してしまった。
……………。
………。
…。
「ふぁっつ!?」
私はバッと顔を持ち上げると、変わらず目の前には大量の没デザインがあった。
吹雪達もぶもぶもといびきを立てて眠っているし、どうやら私は夢を見ていた様だ。
「夢……」
夢の中で歩いた廃墟の葉瀬帆の街はまるで本物とは区別がつかない程はっきりしていたけど、他の多くの夢同様に夢から覚めてしまえば結局夢だった事に気が付いてしまう。
けれど夢の中で彼女からもらったアイデアは本物だ。私は一心不乱にアイデアをもとにキャラクターを描き始める。
全ては夢の続きを見る、ただそれだけのために。




