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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第一章 終わりに向かう二つの世界【第一部1】

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1-25 デートの最後、群青の空に噴き上がる噴水と、お約束のYTRオチ

 はしゃぐリアンに連れられてやってきた場所は比較的明るい雰囲気の漂う場所で、運河の近くに建てられた歴史を感じられるホテルらしき建物がある場所だった。


 闇市エリアに負けず劣らずこちらもかなり活気があり、家族連れやカップルらしき人々も多くいるのでここはそうした人でも楽しめる様な場所なのだろう。


 たしか博多にはホテルやショッピングモールやらが集まった大型施設があったはずだけど、きっとこの建物は廃墟となったそれを再利用したものなのだろう。とすると……?


「さあ、そろそろですよ!」


 目の前には記憶の中の知識と同じくシンボルとなっている巨大な噴水もある。水で満たされたプールの中にあるいくつもの噴水からはコプコプと水が噴き出し始め、壊れたホテルで控えていた楽器を持ったオーケストラとともにその瞬間をずっと待ちわびていた様だ。


 パシュンッ!


 大作映画のオープニングを思わせる壮大で情熱的な演奏と共に噴水は噴き出され、俺は思わず天を仰ぐと冷たい水飛沫が顔にかかってしまう。


 観客は一大スペクタクルショーに歓喜の喝采を浴びせ、噴水はまるで生きているかの様に激しく水をうねらせその称賛に全力で応えていた。


「こいつは凄いな。君はこれを見せたかったと」

「でしょう? なんだか凄くワクワクしますよね! わぷっ!」


 リアンは目を輝かせながら前のめりで見ていたせいで水をもろに被って服が濡れ恥ずかしそうに笑ってしまう。だがそれはただただ爽快で一切不愉快なものなんかじゃなかったんだ。


「私も小さい頃はああいうふうに音楽で皆を楽しませる人になりたかったんですよ」

「……音楽が好きなのか?」

「ええ。へたっぴだったのでいつの間にか諦めちゃいましたけどね」

「そっか」


 オーケストラを羨望の眼差しで眺めていたリアンは自らが過去に抱いていた夢を語ったが、それもまた現実世界の愛理と共通する点だった。彼女の場合は時世により吹奏楽の大会が無くなったわけだが、こちらは純粋に実力不足によって断念したらしい。


「いいんじゃないか、下手の横好きでも。人生なんて酔狂に生きてナンボだろ。ほとんどの年寄りは死ぬ間際にもっとチャレンジすればよかったって言うらしいし、今からでも目指してみたらどうだ?」


 もしも愛理リアンが普通の時代に生まれた普通の少女なら、人生を左右しかねないこんな無責任な事は言わなかっただろう。


「敷かれたレールの上を歩いたとしても、堅実に生きてきたとしても明日があるとは限らないんだ。皆その事に気付かないふりをしているがな。もっと自由でもいいだろ」


 けれど俺は知っている。愛理が望まずして自らに与えられた運命を受け入れてしまった事を。善良な人間にはあまりにも相応しくない理不尽な最期を迎えた事を。


 だから俺はリアンには思う存分この世界で自由に生きて欲しかったんだ。


 そう語った後、俺は再び群青の空へと昇る噴水を眺めた。


 ホテルの屋根よりも高く伸びる噴水は、その気になれば閉ざされたアシュラッドの街を覆う透明なドームも容易く破壊出来てしまいそうだ。


「自由でもいい、ですか……なるほどね。ハッ、じゃあ自由に生きてみるよ」

「ん? おお!?」


 ただいつの間にか背後に回ったリアンは俺を抱きしめ、俺の身体は後方に一回転、逆さまの状態から頭に強烈な一発を食らってしまう!


「まったく、手間かけさせ、」

「痛たた、いいドラゴンスープレックスだよ」

「ってハァッ!?」


 だが俺は咄嗟に受け身を取りダメージを最小限に抑え頭を撫でさすりながら立ち上がったので、不敵な笑みを浮かべていたリアンはひどく驚愕してしまった。


「え、えーと、なんで……いや大丈夫ですか!?」

「うん、俺向こうの世界で怪我をしないための技術は一通りマスターしてたから。受け身が得意なプロレスラーをもじってまさに外道なんて呼ばれてたなあ。でもなんでいきなりドラゴンスープレックスをしたんだ?」

「この世界の文化です! かつてこの世界を救った英雄が最初に繰り出した技がドラゴンスープレックスだったそうです! なのでええとその友情の証的な意味合いがあるんです!」

「そっかー、ならこれで俺はリアンと友達だな。嬉しいよ。でもドラゴンさんってまだ死んでなかったよな。いつの間に異世界転生したんだ?」


 リアンはかなり慌てていたのでなんだか物凄く言い訳臭かったが、俺の心は幸福感で満ち溢れそれ以上深く考える事は無かった。


「チッ、こうなったら……ああッ! あんな所に坂○征二がッ!」

「え、あの人もいつの間に転生、」


 グルン! 九州出身のレジェンドを探そうとした俺は横方向に一回転、地面に倒れた所でリアンは股の間に顔を入れて担ぎ上げ背中を勢いよく地面に叩きつける!


「ふー、これで、」

強力ごうりきからの鬼殺しコンボかあ。矢○の必殺コンボだけど最近は昔ほどやらなくなったよな」

「いやだから何で平然とッ!?」

「鍛えてるから。全てのスポーツに言える事だが一番大事なのは怪我をしない事だからな。地味だとしても基礎が出来てないとどこかで失敗する。俺の場合はスポーツじゃなくて学校の訓練だったけど」

「ええー」


 まあまあ痛かったが厳しい訓練を受けてきた俺にとっては余裕で耐えられる痛みであり、リアンは手で土をパンパンと払う俺を見てまあまあ引いていた。


 なおこれは人外の訓練を受けてストイックに受け身を極めた俺だから成立するのであって、良い子の皆は友達にいきなりプロレス技をかけないようにね。


「でもなんで矢○通の必殺コンボをしたんだ?」

「これはそのっ、この世界の縁結びの神様が思いを寄せていた神様に対してよくしていた愛情表現でつまりは最上級の求愛行動です!」

「なにィ!? いや、俺たちはまだ出会ったばかりでそんなっ! 大体君はリアンであって愛理じゃッ!?」


 リアンはひどく狼狽えながら理由を説明し、俺は彼女にそこまで思われていた事を知り頭が沸騰しそうになってしまう。


 いくら何でも今時ラノベでもこんな早すぎる展開はない、いや露出の多いイラストでジャケ買いを誘って始まってすぐに合体するエロビデオ並みにシナリオが破綻したご都合主義過ぎる作品とか結構あるからなくはないけども!? 誰のどの作品とか具体例は言わないけどね!


「こうなったら……サスケェッ! 予定変更強行突破だァッ!」

「ん?」

「は、はいでヤンスッぐべぇ!?」


 続けてなんだか見覚えのある少年が出現、背後から奇襲を仕掛けたので俺はすかさずカウンターをして放り投げた。危機察知能力がある俺ならばこれくらいお茶の子さいさいだ。


「えーと、反射的に投げちゃったけど大丈夫?」

「世界が回るでヤンス~」


 そのサスケという犬耳の少年はリアンの知り合いっぽかったけど、先ほど彼女のカバンをひったくった奴とよく似ていた。あの時はフードで顔を隠していたし一瞬でどこかに行っちゃったからはっきりと覚えてないけど。


「ぐっ、トモキさん、後はオレがやるっ貰ったァ!」

「あだっ!」


 だがサスケに構っている間にリアンはパイプ椅子を振りかざし俺を背後から力任せに何度も殴りつけコンボを決めた。どこから持ってきたんだとかそういうツッコミはさておきひょっとしてこれはアレか!


「はぁ、はぁ、これで、」

「なるほど、矢○通が真○を助けるかと思いきや裏切ってCHA○Sを結成した時のシーンを再現したんだな……これはいいプロレスだよ!」

「いやだからなんで平気なんだよ!?」


 もちろん痛みに慣れていた俺は頭から血を流しつつもニコニコ笑っていたのでリアンは驚愕を通り越し恐怖を覚えていた。というかホラーでしかないしこれを見て恐怖心を抱かない奴なんていないだろうな。


「そうだ、これだ。この痛みだ。愛理も音楽が好きだったが、それと同じくらいプロレスが好きだった」

「は?」


 だが俺が喜んでいたのには深い理由がある。俺は胸に手を当て、かつて彼女と過ごした情熱的な日々の事を思い出していた。


「ああそうだ、愛理の奴、矢○通が鈴○みのるに手錠をかけようとして逆に返り討ちにされて客席に投げられた鍵をキャッチして、それが自分の一番の宝物だって嬉しそうにしてたっけ。思い出すぜ、Y○SHI-HASHIが初めてタイトルを取った時に興奮のあまり一緒に観戦していた俺にカルマを決めた時の事を。場外乱闘になった時に興奮して観客を投げ飛ばして会場を追い出されて、たまたまその辺にいた試合終わりのY○SHI-HASHIに昇天・改を腹いせに決めてしばらく出禁になった事を」

「そんな男性ホルモン溢れるガールフレンドがいるかァッ! テメェの女はどういう世界観の住人だァッ! っていうか最後のただのヤバい奴じゃねぇかッ!」


 愛理は一見お淑やかだがプロレスを観戦する際は豹変するタイプの人種であり、しばしば俺は巻き添えを食らってプロレス技を食らっていた。


 まあまあ痛かったけどそのたびにぺこぺこと謝る姿が愛おしくて、俺もいつの間にか彼女のプロレス技を楽しみにしていたんだよなあ。


「マルキ・ド・サドは言った、快楽とは苦痛を水で薄めた様なものだと。この痛みは愛理の事を思い出させてくれる心地よい痛みだ。詩的な表現をすれば青虫が蝶になる時の痛みであり、哲学的な表現をすればアウフヘーベンであり、つまり要するに気持ちよくなるからもっと頼む!」

「やべぇ……こいつはガチだ……!」


 俺は恍惚とした笑みを浮かべながらレインメーカーポーズで最高の痛みを要求した。基本的に痛いのは嫌だが幸せになれる痛みならば大歓迎だ。なおこれは愛理との想い出に浸っているわけで別にマゾというわけじゃないぞ。


「ならお望み通りッ! とっておきを食らわせてやるよド変態ッ!」

「オオゥフッ!」


 ドン引きしたリアンはヤケクソ気味に鈴○みのるを想起させる美しいドロップキックを放ち、転倒した俺を担ぎ上げ頭頂部から地面に叩き落とした!


 これはまさしく矢○通の最強の必殺技、鏡割りッ! まさかもう一度この痛みを味わうことが出来るだなんて!


「サスケ、とっとと立てずらかるぞ!」

「は、はひぃ~」


 俺は絶頂してそのまま快楽に溺れて死にそうになってしまい、リアンは天にも昇る表情で悶絶していた俺からリュックサックを奪いふらふらの少年と共に走り去ってしまった。


 ……うん、我ながら今のは少し変態だったな。いやまごう事無き変態だったな。まさか異世界でマゾに目覚めるとは。いやこれは愛理との想い出に浸って喜んでいた訳で……ううんマゾですすみません。


「ひーふー、トモキさん、ようやく見つけましたっ! もう、今まで何してたんですポ!?」

「んっ、あんっ、うふっ……!」

「……本当に何してたんですポ?」

「えと、これが……この方がマレビト様ですか?」


 なおそのまま悶々としているとモリンさんが憲兵と共に戻って来たけど、変態に変貌した俺を目の当たりにして彼女たちもまた普通にドン引きしていた。そりゃそうだ。


 っていうかひょっとして俺ハニトラ的なアレに引っかかったのかな。でもこんな変態な俺を見て同情する奴は誰一人としていないだろうなあ。

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