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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第一章 終わりに向かう二つの世界【第一部1】

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1-24 リアンへの指輪のプレゼント

 誰かに怒られる前に話題を変えた後、俺は露店エリアに移動しゴザの上にある様々な商品を眺める。


 綺麗な宝飾品から使い道がよくわからないガラクタにしか見えない商品などラインナップは実に統一感がなかったが、商品の近くに置かれた値札らしき石板の桁は二桁から六桁とかなり幅があった。


「は、はい。実用性を重視するなら魔石がおススメですよ。値段はお高いですがあって困るものではないですし。なんなら忍耐力さえあれば転売だけで生活出来ます。砂漠地帯で水が少ないアシュラッドでは水を生み出す魔石や野菜の成長を促進する魔石とかが需要がありますね。先ほど言った宝石も魔力があるものは値段が数倍、数百倍に跳ね上がったりしますよ」


 同じ様に話を軌道修正したリアンはこの世界の人にとって魔石がいかに重要か教えてくれる。もしかしたら目の前の清らかな水が流れる川も魔石による産物なのだろうか。


「ふむふむ、今の所異世界でのんびり農家になる予定はないなあ。でも確かになんだか買いたくなってきたよ。店主さん、フ○アーって売ってます? なければポ○ゾナでもいいですけど」

「売ってナイケド」

「そこはなんでそんな微妙な呪文を、ですよ」

「いや知らないヨ。何も買わないナラとっとと帰ってくれるカナ」


 取りあえずボケてみるが、煙管型の電子タバコをくわえた半魚人の店主さんはもちろん元ネタがわからず不機嫌そうになってしまう。


 仕方ない、謝罪の意味も込めて高そうなものを買ってみようか。俺はそう考え一番値段が高い謎の銀の小箱を手に取った。


「えーと、これ何ですか」


 装飾が施された銀色の小箱は怪しく光り輝き不思議な力を感じる。


 箱の素材が何かはわからないが、おそらく銀やプラチナなどではないだろう。箱には鍵穴があるが鍵はついておらず、中を見る事は出来なかった。


「さあ、なんだろうネ。この前キヨウの下らへんでのんびり竿を垂らしてたら釣り上げたんだケド、なんか見るからにお宝っぽいダロ」

「つまりあなたも何かわからないと」

「ああ。でも誰も全然買わナイから値段設定ミスったカナと思ってるヨ。あーあ、明日にはイナエカロに戻らないといけないのにナア。もうすぐ子供が旅から帰って来るカラ美味いモンを食わせたいんだけどナア、チラッ」

「ふむ」


 店主の半魚人は電子煙管をふかして困った表情を浮かべたが、そりゃ大抵の人はよくわからないものに十万Cも使わないだろう。


 十万Cがどのくらいの値段なのか、Cはどう読むのか、円に換算すると何円相当なのかはわからないけど、すぐ近くにある屋台のラーメンは四百八十Cなのでこの世界の人からすれば十万Cは十万円相当なのだろう。


「じゃ買ってみます」


 しかし俺からすれば駄菓子屋で玩具を買う程度の買い物だ。店主さんもあからさまにアピールしていたし、ここは幸せのおすそ分けという事でご祝儀をプレゼントしよう。


 一番の理由は崎陽キヨウという長崎を意味する単語が気になったからだけど。


「え、マジ? アタシが言うのもなんダガこんなノ買うのカ? それを買ってくれるなら使い捨ての雷の魔石と闇の魔石も半額で売ってヤル。殺傷能力はないが大抵の奴は動けなくなるからいざって時に便利ダゾ。喧嘩になったらこれを投げてシバいてヤリナ」

「じゃそっちも買います。というかここにある魔石全部ください」

「オウ、毎度アリ! ヨッシャ、ノルマ達成! これで気球が作れるヨ!」


 なおさりげなく勧めた二つの魔石は二番目と三番目に高い商品であり、店主は高額な商品を大量に買ってもらってひどく上機嫌になった。


 口車に乗せられ買っただけなので他の魔石の効果はわからないし、もしかしたら金を持っていそうな俺をカモにしたのかもしれないが、お金はいくらでもあるので多少ボラれても問題ないだろう。


 ついでにもっとどうでもいいがアタシという一人称からこの半魚人が女性だという事も判明した。


 発言から察するに何やら彼女にもドラマがあるようだけど、もしかしたらまたどこかで会う事になるかもな。


「そうだ、ついでにこれも」

「ん? ああ、それくらいサービスしてヤルヨ。おかげさまで売る物が無くなったから店じまいをするシ」


 折角なので俺はルビーの指輪も衝動買いした。だがこの世界では安物なので機嫌がよかった店主はタダでプレゼントしてくれる。こうして成金は気分がよくなってカモられるんだろうな。


 そして最後にヨカバイでお支払いと。店主は石板っぽいものを取り出してカードを読み取り、事前に聞いていたが実際にヨカバイが使えた事に結構驚いてしまう。


「予定変更だ、例の場所におびき出す」

『了解でヤンス、姐さん!』

「ん? それは?」

「お気になさらず! 私は食堂とかで謎の組織と会話をするタイプの人種なんです!」

「はあ、どこかでレトロなパソコンでも買っておこうか?」


 ただ支払いをしている間リアンは猫のバッジを持って何やら怪しい会話をしていたが、ご都合主義にも程がある俺はやはりこちらもスルーして商品を受け取った。


「随分と高いものを買いましたね。けど指輪はどうして買ったんです?」

「いや、折角だから君にプレゼントしようかなと」

「わあ、こんな素敵なものをいいんですか?」

「いいって事よ」


 ただの宝石はこの世界ではさほど高価なものではない。けれどリアンはそのプレゼントにとても喜び、愛くるしい仕草をしてその指輪を左手の薬指にはめたんだ。


「そこの指なのね」

「え、何か問題でも?」

「いや、うん。別にないよ」


 彼女は現代における指輪の意味を知らないのだろう。だから俺が今抱いている羞恥心は意味のないものだ。


「えへへ」


 なんちゅーか好意を寄せている女にカバンとか宝石とか時計とか貢ぐ男の気分がわかったよ。こんなに素敵な笑顔を一度でも見てしまえば騙されていると知っていても誰も抗えませんって。


「ととっ、そうだ! そろそろアレが始まる時間です! 急いでください!」

「アレ? おわっと」


 浮かれ気分のリアンは何かを思い出し俺の手を引いて市場を駆け抜けた。


 それは俺がこの世界に来た状況と酷似していたが、恐怖と絶望しか存在しなかったあの時とは何もかもが真逆だったんだ。


 リアンの柔らかな右手からは確かにほのかな熱を感じ、目の前の彼女には血が流れていて確かにここに存在しているのだと俺は改めて実感した。


 この温もりをこんな形でもう一度感じる事が出来るなんて、異世界に来て本当に良かったよ。人生のロスタイムにしてはもったいなさすぎる。

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