2-89 第一問目と沖縄からやって来た足つぼマッサージ師
そんなこんなで研修という名のNARO主催のクイズ番組が始まってしまう。正直全くこの状況が理解出来ないけど、私に何かを求められているのならば逃げるわけにはいかないね。
「第一問!」
荒木長官が威勢よく叫ぶとスクリーンには丸い地球と、周囲に手を繋いだ様々な国の子供達が映し出されていた。
「さて、こちらは少し前に多様性を推進するために作成されたポスターのデザイン案ですが、批判が殺到したため没になったものです」
全員民族衣装とかを着ているので、これはきっと多様性とか世界平和とかそういうのを表現したものなのだろう。どこも変な部分がない、実にわかりやすいテンプレなポスターだ。
「前の席の皆様にはその理由を解答してもらいますが、これが人権にまつわる事という事を考慮した上であくまでも真面目に答えてくださいね。ハイそこのあなたお答えを」
「え!?」
荒木長官は答える直前になって答えの条件を提示し、どうやら彼は大喜利をするつもりだったらしくひどく狼狽えてしまった。
「せ、性的だからアウト!」
「流石にこのい〇すとや風のイラストに興奮する人は少数派ですね。貴様はド変態かアウトォ! ザリガニ持ってこい!」
「ザリィ!」
「ギャー!?」
解答者は懸命に答えを出すもオーケーを貰えずザリガニに鼻を挟まれてしまう。昨今ではあまり見られなくなったけどまさかNAROの研修で見る事になろうとは。
「なおこれはこの食用ザリガニが衛生的な環境で育てられた事のアピールも兼ねています。なのでコンプラ的にはセーフです!」
「そうか、それなら安心だあ!」
「ザリザリ~!」
「あわわ」
だけど解答者は痛がりつつも何故か嬉しそうだった。でも一発目からこれってちょっとハード過ぎないかな。
「はい次はそこのあなた!」
「わわ、私ですか!?」
しかし油断していると荒木長官は指示棒で私をビシッと指差した。どうしようこれ、内定が取り消しになる事は無いけど人権に配慮しつつ炎上しない程度に面白い解答をしないと……!
「全員基本的なデザインが使い回しでコピペだ!」
「私も思いましたよ。全員海産物一家の長兄にしか見えないと。だがアウトォ! 沖縄からやって来た足つぼ職人の鉄槌だァ!」
「グェアー!? アギャダギャッダッダアア!?」
足つぼ職人は私の足元に瞬間移動、とてつもない力で足の裏を指圧する! テレビでオーバー過ぎるだろ、やらせだろって思ってたけどこりゃこうなるわい!
「てめぇっぎょ、ぼっぼぎゃぅえ!?」
「なおこれは足つぼマッサージなので健康にとてもいいです! なのでコンプラ的にはセーフです!」
「ざけんなごりゃばうぁッ!? お前は馬鹿か!」
私はあまりの痛さについつい我を忘れて暴言を吐いてしまう。コンプライアンスって言えば何でもセーフになるわけじゃないと思うよ!
「おや、口の利き方がなっていませんね。ザリガニも追加してください」
「ザリィ!」
「ギャー!?」
荒木長官は面白がって、あるいは生意気な新人に立場をわからせるため追加でペナルティを与えた。
うん、間違いない。このクソアマは滅茶苦茶ドSだ。さっき鳳仙と似ていると思ったけど、見た目だけでなく中身もそっくりだしもしもあいつと何かしらの血縁関係があったとしても何一つ驚かないだろう。
「さて、解答ですが……こちらのポスターに寄せられた苦情は主に今時こんなステレオタイプのアフリカ人はいない、何故自分たちの民族がいないんだ、我々の国では異性が手を繋ぐ事はタブーだ、何故地球の中央にヨーロッパが存在するんだ、これはつまり欧米の価値観による思想の統一を意味しているのでけしからんと言ったものです。一つくらいは当てて欲しかったですね」
「ぜぇ、ぜぇ……知らねーよ!」
「ザリィー」
荒木長官は一応模範解答をしてくれたけれど、足つぼ職人の執拗なツボ責めによって体力をごっそり削られた私はそれどころではなく、鼻のザリガニをぶらんぶらんと揺らしながらキレてしまった。
「だけどちょっぴり身体と鼻の調子が良くなった気がするよ。流石は沖縄が誇るゴッドハンドだ。これからもお仕事頑張ってくださいね!」
このしょうもない企画のためだけに呼ばれた足つぼ職人は笑顔でどこかに去っていく。こうしてコンプライアンスが求められる時代、彼は今日もどこかで芸人さんに痛みと健康を与え続けるのだろう。




