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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第二章 暗き世界で光輝く太陽【第一部2】

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2-84 入隊試験の最後の試練

 ギャグっぽかったけれど無事にNAROを一網打尽にし、私達は清々しい気持ちで屋上に移動した。


「とうちゃーく! いやあ、空が青……くはないけど最高の気分だね!」


 屋内なので空気は普通の美味しさだけど、ずっと閉じこもっていたから十分開放的に感じられる。青空がなくても私の心はドピーカンに晴れ渡っていた。


「うんうん、これひょっとしたら合格出来るかも!」

「そうだね。隊員だけじゃなく隊長を二人も倒したわけだし」

「あれ、ダンディな人の他に隊長いたっけ?」


 同じくルンルン気分なミカンにエマは不思議な事を言ってしまう。私の知る限り試験に参加している隊長はヨンアとダンディさん、ローブを着た女の人だけだったはずだけど……?


「わわっ、うん、私の気のせいだったね。でももう隠す必要あるのかなあ」

「?」


 しかしエマはどうせわかっているくせに、と言いたそうな笑みを浮かべた。そこには最初出会った時の様なおどおどとした雰囲気は感じられず、私は急激な変化に首をかしげてしまう。


 うーん、なんだかさっきからずっと置いてけぼりな気がするんだけど、私の知らない所で何が起こっているんだろう。


「油断大敵だぞ。敵はまだたくさんいるだろうし。脱出経路はこっちだったな」

「うん、早く行こうか!」


 そう言いつつユルグもまた上機嫌だ。例えこの後別の隊員に捕まって脱落しても私達は既に隊長を一人撃破するという大金星をあげたのだから。


 いくらなんでもこれで合格しないわけがない。もちろんうっかりトレンタを爆破したり、マイナスになりそうな要素はあったけど。


「落ちない様に気を付けろよ」


 ユルグを先頭に、私は事前に用意した丈夫な看板を橋にして隣のビルに慎重に移動する。ただ看板は本来橋ではないので、移動するたびにミシミシと嫌な音を奏でてしまう。


「はいはーい。結構高いなあ。押さないでね、絶対に押さないでよ」

「押さないけど。何言ってるの?」


 高所での訓練は慣れているけど命綱や安全ネットもないしもし落ちたら怪我じゃすまない。ミカンは場違いな発言にキョトンとしていたけど、ネタとかそういうのじゃなく絶対に押したら駄目だね、これは。


 ヒュッ!


「え」


 けれど私は強い衝撃を感じ、ふわりと身体が宙に浮かんでしまう。


 戦場では攻撃された事に気付かないまま最期を迎える事がよくあるけど、今のこの状況はまさしくそれに当てはまるのかもしれない。


「あぐッ!?」


 ほんの少しの間空中浮遊を楽しんだ後、壊れた看板と共に私の身体はアスファルトの地面に叩きつけられてしまう。私は咄嗟に受け身を取ったけど、それでもかなりのダメージを受けてしまった。


「ジョセフ!?」

「ジョセフちゃん!?」

「ジョセフさん!」


 皆は口々にジョセフと知らない誰かの名前を口にする。ジョセフって誰だろう。


 ああそっか、私の名前だっけ。すっかり自分の設定を忘れていたよ。とにかく立ち上がらないと……。


「何故貴女がここにいるのですか。ここは貴女の様な方が来る場所ではないというのに」

「……?」


 どうにか這って前に進むと、黒いローブの女性がゆらりと現れた。


 自らの背丈を優に超える十文字槍の様な銃剣からは寒月を思わせる銀の光が煌めき、死にぞこないの獲物の命を刈り取ろうとゆっくりと近付いてくる。


「何をしているんですか、イスキエルダさん!?」

「あなたは……?」


 エマは声を荒らげて彼女の名前を呼んだ。私はその名前を聞いた事がないはずなのに、その響きに何故か違和感を覚えてしまった。


 違う。彼女はそんな名前じゃない。違う名前だったはずだ。ううん、そんなわけない。彼女とは今日初めて会ったのだから。


「殺しはしません。ですが当分の間は戦えない程度に痛めつけさせていただきます。どうかお許しを」


 顔に大きな傷のある彼女は機械仕掛けの瞳孔を開き、一筋の黒い涙を流す。


 こんなに怖い事を言っているのに、彼女はどうしてこんなに悲しそうな顔をしているんだろう。どうしてこんなに嬉しそうなんだろう。


「よくわかんないけど……やるっきゃないよね……!」


 だけど戦わなければやられてしまうし、大怪我をしてしまえば入隊試験も不合格になってしまう。


 私はスパイ大作戦を成功させ、イルマを助けるために最後の試練に挑む覚悟を決めたんだ。

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