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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第二章 暗き世界で光輝く太陽【第一部2】

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2-82 ガキ大将トレンタ・バレンティーノ

 スタート地点から一歩も動かず籠城を続け、私は五感を研ぎ澄ましフィールドの様子を探る。


 日常生活において人間は主に視覚情報に依存する。しかし引きこもっている以上、その感覚はあまり役に立たない。


 だけど原始の野獣が身に着けていた鋭敏な聴覚と嗅覚は、戦場に存在する全ての情報を教えてくれた。


 あそこの警察署では十人くらいの入隊希望者が警戒している。だけど既にNAROに囲まれており、小窓からスタングレネードを放り投げられ何も出来ずにすぐに制圧されてしまった。


 あちらでは入隊希望者のグループ同士で揉めている。何かトラブルになる事でもあったのだろうか。でも喧嘩をするにしてもガラス張りの自動車販売店で見せつける様にするもんじゃないね。


 予想通り彼らは喧しくしていたせいで敵の接近に気付かず、あえなくこちらもテーザーガンで電流を流された後拘束されてしまう。あちゃー。


 路上では二十人くらいの入隊希望者の集団が車をトーチカにして銃撃戦を繰り広げていたけど、ヨンア率いる別動隊に建物の窓から狙撃されあっさりこちらも拘束される。流石私のマブダチ、いい動きをしているね。


 そして――とうとう雑居ビルの一階に侵入者が現れる。どうやら私達にもその時が訪れてしまった様だ。


「来たよ。行くよ皆!」

「ああ!」

「うん!」

「は、はい!」

(ガンバ、ヒカリ)


 ノミコちゃんからもこっそりエールをもらい、私達は事前に用意した狙撃ポイントに移動する。勝てなくてもいいから善戦出来るといいんだけど。


 縦に細長く狭い階段にはこれでもかとバリケードが積まれ容易に進む事は出来ない。だけど上からはいくらでも攻撃し放題で、私達は早速迎撃態勢に入った。


「ポーイ」

「うお!?」


 人影を確認した私はすぐに煙幕弾を放り投げ、下のフロアは煙で充満してしまった。殺傷能力はないとはいえもろに煙を吸い込んじゃったし流石にこれは効いただろう。


「撃つな、俺だ! てめぇいきなりなにしやがる!」

「あ、ハゲの人だ」

「だからスキンヘッドだ!」


 だけど追撃をしようとして私達は襲撃者がトレンタだという事に気が付いた。おそらく仲間と一緒にNAROから逃げてきたのだろう。


「こいつは確か……ああ、さっきの無線の奴か。何の用だ? お前が他の入隊希望者を信用すべきじゃないって言ったからその通りにしているんだが」


 ユルグはNAROではないと理解してもなお銃口を向けていた。その理由はあえて説明するまでもない。無線でも本人が妨害をするかもと匂わせていたし、トレンタが味方である根拠なんてなかったからだ。


「つれない事言うなよぉ。俺達も上にあげてくれ。一緒に戦ってやるからさ」

「だってさ。どうする?」


 小悪党っぽい彼は甘えた声で媚び、ミカンはどうすべきか私に判断を仰いだ。おそらく彼女も一切信用していないはずだ。


「ゾンビモノなら確実にやらかして最後の最後で痛い目を見るタイプか、もしくは最終的に心の友になるタイプだね。きっと国民的アニメのガキ大将が海外で映画化されて実写化したらこんな感じになるだろうし」

「ガキ大将……ふふっ」

「おい笑うな!」


 私の絶妙な例えにエマは思わずふいてしまう。だけどトレンタに怒られ彼女は慌てて怯えた仕草をする。


「エマはそうでもないのか。じゃいいよ。頑張って早く上って」

「え?」

「え?」


 なんとなくだけど私はエマがさほど怖がっていないと判断してトレンタを上げる事を許可し、その不可思議な判断にその場にいる全員が驚いてしまう。


「えーと、いいのか?」

「銃を下ろしなよ、ユルグ。だって一番ビビりっぽいエマが全然怖がってないし、ならいいかなって。ね? ひょっとしてトレンタと試験を受ける前から知り合いだったり?」

「そ、そう……ううん、初対面だよ」

「ったく。ならそっちに行くぞ」


 私がニコッと笑うとエマはぎこちない笑みを浮かべた。反応から察するにもしかしたら顔見知りかな、と思ったけど本人達が否定しているからやっぱり違うのだろう。


 トレンタ一行はバリケードを乗り越え上のフロアに移動し、全員が上り終えてから彼はニヤリと笑いこう告げた。


「ああそうそう、俺達は今逃げている最中でな。もうすぐ追っ手が来るだろう。だからせいぜい逃げる時間を稼いでくれよな」

「は?」

「うん、いいよー」

「はぁ!?」


 ただ彼は悪役っぽくしたつもりだったんだろうけど、能天気な私にはそんなものは通用しなかった。


 呆気にとられる皆をよそに、私はこの後の戦闘に備え身体をぐにぐにと動かし準備体操を始める。


「どうするよ、エマ。これ続けるか?」

「一応続けようか」

「?」


 なおその間トレンタとエマはこそこそと内緒話をしていた。エマはやっぱり怖がる事無く困った様に笑ってたし、やっぱり彼とは知り合いだったのかも。


 ザッザッザッ!


 トレンタの言葉通り一糸乱れぬ統率の取れた足音が聞こえる。さあ、私達の力を見せつけるためにも思う存分胸を借りさせてもらおうか!

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