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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第二章 暗き世界で光輝く太陽【第一部2】

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2-76 実技テストに備える脳筋ゴリラ

「ウホー!」

「うお!?」


 難問にも程がある筆記試験を終え、頭の使い過ぎで原始人になった私はモヤモヤを発散する事も兼ねて身体能力テストで暴れまくった。


「ウホホー!」


 脳筋の私にとってはこんなのしりとりでリンゴの次はゴリラと言うよりも簡単だ。私は背筋を測定する機械を盛大にぶっ壊し、持久力を量るランニングマシンも最初から全力疾走した。


「や、やなぎさん、僕の気のせいですかね? あの入隊希望者余裕で百メートルの世界記録越えてるんですが」

「ふむ、堂島ジョセフ平八郎か。健康診断の結果では女性と出ているが、彼女は私のおナカマかな? それとも……」


 遠くから見物していたNARO隊員の人はぶっ壊れ性能の私を見てドン引きしていた。妖艶な柳というオネエさんの手元にはタブレット端末があるのであの人も試験官の一人なのだろう。


 でもNAROにもああいうフェロモンムンムンな人っているんだ。ゴリラな私にはああいう色気なんて欠片もないから羨ましいよ。でもおナカマってどういう意味なのかな?


「いろいろな意味でなかなか興味深い子だ。よし、今のうちに最終の試験の仕込みをしておくか。さて、今年は死人が出ないといいんだがな」

「了解しました」


 柳さんは他の隊員と話し合いどこかに去っていく。出来れば何をするのか聞きたかったけど、流石にそれはちょっとずるいよね。



 ちょっとやり過ぎた気もするけどさっくり身体能力テストを合格し、ひと汗かいた私はシャワーを浴びて更衣室に向かい訓練着に着替えた。


 またその時何故か試験担当の隊員さんはやや戸惑っていたけど、しばらくして私が今は男性という扱いだという事を思い出した。


 ただ今のポリコレの基本方針としては身体的特徴で選ぶか多目的トイレ等どちらでも問題ない両性対応の物を選ぶ事になっているので、私のした事が問題視される事は無いだろう。


「はあ~。絶対落ちた。うん、あんなの無理だって」


 もちろんトランスジェンダーの人の扱いは現在進行形で揉めているし、今後その方針が変わる可能性もあるけど今はそんな事はどうでもいいだろう。最後の試験を前に私はトイレの鏡の前で深いため息をついてしまった。


「まあまあ、実技試験でカバーすればいいじゃん。それに一応合格したからまだここにいるわけで」

「そのつもりだったけどさー。でも実技試験って何するんだろう」


 ノミコちゃんは誰もいない事を確認してから私と会話をする。もしもこんなのを誰かに見られたらヤバい人認定されて一発アウトだからその辺りも慎重にしないと。


 二つの試験を無事に終え、私は二次試験を受ける資格を手にした。ただし最終的には一次試験の結果も反映されるらしいので手放しで喜ぶ事は出来ない。NAROに限った事じゃないけど、同じくらいの成績なら好ましい思想の人間を選ぶに決まっているからだ。


 思想で合否を選ぶ。それは一見理不尽な様に見えるけど、今の時代はどこもそんなものだ。確かにポリコレや多様性にまつわる表現は徹底されているけど現実はそうじゃない。でもこんな事を口にしたら一発アウトなんだろうな。


「……ととっ、誰か来た。っていうかいた」


 そう思っていると早速誰かの気配を察知し、ノミコちゃんは私の影の中に隠れてしまう。ありゃりゃ、次の試験について話をしたかったのに残念だ。でもいたってどういう意味だろう。


 しばらく間をおいてトイレの個室から純朴そうな黒髪の女の子が現れる。年齢は私よりちょっと上くらいでそばかすがなんとも愛らしい。ほんのり西洋っぽい顔立ちもしているからアジア系と白人系の血が流れているのかな?


 でも個室から出て来たって事は最初からいたって事だよね。全然気付かなかったけどもしかしたらノミコちゃんとの話を聞かれていたのかな。でも聞かれて困る事は話してないから大丈夫だよね?


「……………」


 洗面台で手を洗う女の子は不審そうにチラチラとこちらの様子をうかがう。うーん、これ怪しまれてるかも。よし、誤魔化す事も兼ねてこの子とお話してみるか。


「ねえねえ、あなたも入隊希望者?」

「え、いや私は、はい……まあ」


 女の子はいきなり話しかけられておどおどしてしまう。なんだろうこれ、小動物的な愛らしさがたまらないよ。


「次の実技試験ってどんな事をするのかなあ。あなたは知ってる?」

「え、知らなかったんですか? ええと試験官の隊員の人と集団で勝負する感じですが……一応そのための特訓も入隊希望者は普通しているはずですけど」

「ふむ、つまりシンプルにフルボッコにすれば一発合格って事?」


 どうやら試験内容は誰でも知っている様なものだったらしい。下調べくらいしておけばよかった気もするけど、とても単純でわかりやすい試験だから問題ないだろう。


「は、はい。負けても問題ないですけど、引き分けに持ち込めば上出来だと思います。なんなら逃げ回ってもクリア出来るので」


 女の子は自信満々な様子の私にやや呆れていた。鳳仙の時に戦ったモブ隊員さんは普通の隊員なのにかなり強かったし、あのレベルの手練れの隊員が試験官なら確かに素人は絶対に勝てないだろう。


「そっかー、教えてくれてありがとう! あなたも頑張ってね!」

「は、はい」


 情報を入手した所でボロが出る前に私はとっととその場を離れた。だけどあんなひ弱そうな女の子でも入隊試験を受けるのかあ。


 どんな事情があるのかはわからないけど私も負けてられないね。よし、それじゃあ張り切って行こう!

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