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ゆめのおちかた~終わりに向かう二つの世界、小説家とアニメーターを目指す何者かになりたい若者と、夢破れたTSダメ親父が紡ぐ英雄のいない物語~  作者: 高山路麒
第二章 暗き世界で光輝く太陽【第一部2】

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202/219

2-72 BAKATONO堂島ジョセフ平八郎

 長崎の県庁所在地、崎陽市にあるキンデルデパートは外資系のデパートで、扱っている商品も基本的に高級路線であり、庶民より下のランクにいる私にとっては縁遠い存在どころか空想上の建物だ。


 いつ見てもお城みたいで立派な建物だけど流石に今は客足が遠のいている。きっとこのお店で買うレベルにお金を持っている人はとっくに故郷に帰っているか、比較的安全な田舎に避難しているんだろう。どれだけお金があっても命だけは買えないからね。


「ねえ、ノミコちゃん。偽造電子マネーなんて使って大丈夫なのかな」


 ただ小市民の私はお店に入る事すら出来なかった。入口には一定以上の信用スコアが必要で、その条件は先ほどのタクシーの支払いで満たしているけど、もしGメン的な人に捕まったら……と思うとどうにも二の足を踏んでしまう。


「まあアウトかセーフかって言ったら物凄くアウトだけどね。ただ偽造電子マネーでも普通にバレずに使えるし、相手の人が困る事は無いからそこは安心して。それに言っちゃあなんだけど、どうせすぐにお金なんてものはなんの役にも立たなくなるだろうから」

「むう……そっか」


 私は釈然としないものはあったけどノミコちゃんの意見をいったん受け入れる事にした。もちろん悪い事をしている事には違いないし、どんな言い訳をしたところで許されるわけじゃないけど。


「でもそれはそれとして私みたいなちんちくりんがこんなハイソなお店に入っていいのかな。一応ブランド物のスーツとか時計はつけたけど、似合わなさすぎてアナフィラキシーショックになりそう」


 なお私は潜入にあたって総額一千万の品々を身にまとっていた。鳳仙からは特に説明されずポン、と渡されたけどもし汚してしまったらとんでもない事になる。私は今更になってその事に気付いて手足がガクガクと震えてしまった。


「完全に服に着られてるよね、コレ。テメェどう見てもおかしいだろってツッコまれて逮捕されないよね?」

「大丈夫、大丈夫。堂々としていれば何とかなるよ。昔一般人が好奇心から官公庁の建物に偽の議員バッチを付けて入って、何度繰り返しても誰にも気付かれなかったって事件もあったし。あ、これ割と最近の事だよ」

「いや、確かに一昔前の日本のその辺の警備体制とかはガバガバだったけどさ、今は時代が違うから」


 なおノミコちゃんが語ったトンデモエピソードはリアルにあった出来事だ。昔の日本は監視社会の今じゃ考えられない程自由だったんだよね。その気になれば私も国会議事堂に入れたのかな。


「今の時代人の価値を決めるものは見た目じゃない。電子化された信用スコアだよ。だからこんな事をしても大丈夫さ」

「うおう?」


 ノミコちゃんは私を励ますために黄金の鼻眼鏡を無理矢理装着させる。そしてその眼鏡を付けた瞬間、私は不思議と全身から力がみなぎってきたんだ。


「さらにはおまけにドォーン!」

「うおう!」


 続けて彼女は往年のコメディアン愛用の、あるいは宮城が誇るネタ枠レスラーの代名詞とも言える白鳥スーツ(豪華版)をプレゼントする!


「パワーアップしてるけどクローゼットにあった奴だよね! なんだろうこれ。凄くしっくりくるよ! なんかオンリーワンって感じがするね!」


 私は迷わず早着替えでプラチナや宝石をあしらった白鳥スーツを身にまとった。もうこれはダサいとかそういう次元ではない。しかし悪趣味でもない。そう、これはきっと世界の未来を切り開く新たな一種の前衛芸術に違いない!


「そうだ! ヒカリィ! 行ってこいッ! 世界観ァンをぶち壊せッ!」

『うん? ねぇ今何したの?』


 私は鳳仙に指示を仰ぐ事をすっかり忘れデパートに突撃する。高級ブランドスーツとかいろいろ用意してくれたのになんかごめんなさい。


「ぅおい!? ドレスコードの概念が存在しない星の住人がやって来たぞ!? おい止まれ!」


 当然珍獣が現れ警備の人はギョッとし制止するけど、私はビシィ! と身分証代わりに偽造電子マネーのカードを見せつけた!


「アイム、BAKATONO! でーじ富裕層じんむっちゃあ! アイルビーバァック! ユーオーケイ!?」

「のぉお!? なんて信用スコアだ!」

「道を開けろ、BAKATONO様のお通りだ!」


 バン! 私の信用スコアを認識した彼らは即座にVIP待遇の体制になり、一糸乱れぬ動きでレッドカーペットを引いて王者が進む道を用意した!


「それじゃあ……このデパートにあるものを儂が全部買ってやるぞい!」

「ぜぜ、全部!?」


 私は金持ちっぽい事を言うとデパートの偉い人は唖然としてしまう。きっと未だかつてこんなアホなお金の使い方をした人間は誰もいないだろう。


 さあ、パーティーの始まりだ!



 白鳥スーツを愛用した往年のコメディアンの有名なネタの原曲はその曲調からわかる様に沖縄の曲だ。もっとも曲を作った人は諸事情により沖縄の偉い人達に嫌われていたから自治体もあまり推してくれず、知名度がちょっと低かったりするけど。


「~~~~~」

「イーヤーサッサー!」


 ただそんな大人の事情なんてなんのその、デパートの商品を全て買い占めた私は沖縄の魂をその身に宿し口笛を吹き、どこからともなく名曲が流れその場にいた人たちと一緒に手を頭の上でかき回しカチャーシーを踊る。


「ヒャッハー! 私はでーじじんむっちゃあだあ!」

「はい! お客様はでーじじんむっちゃあでございます!」

「これだけ金があれば故郷に帰れるぞー!」


 お店の人も結構ノリがよく見よう見まねでカチャーシーを踊ってくれた。中には私より上手い人もいたし、きっと何人かは沖縄出身だったのかもしれない。見た目が完璧に外国人で名前も外国風でも国籍は日本人、っていう人は沖縄にはその辺にいるからね。


『え、ナニコレ』

「悪ふざけの成れの果て。ごめん、調子に乗ってやらかした」

『うん。僕は何も見なかったよ。気にしないでおくね』


 様子をうかがっていた鳳仙は何かしらの手段でカオスなこの状況を認識したのだろう、ノミコちゃんから端的に経緯を教えてもらい、彼はぶっ壊れた世界観から眼を逸らし現実逃避をした。


「ほらほらノミコちゃんも踊り狂えぇ! スピードを倍速に!」

「のおお!? 私も巻き込まないで!? ギャー!」


 私はそーっと逃げようとしたノミコちゃんを捕まえ一緒に倍速カチャーシー(パリピver)を踊る。その圧倒的な陽の波動に怪異である彼女は耐えきれず、危うく成仏しそうになってしまった。


 けどもちろんそうなる前に冥界から連れ戻し、最終的にはこの状況を受け入れ恥ずかしそうに踊ってくれたよ。

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