1-17 砂漠で自由な風になって
さて、陰鬱な思考はこの辺にしておこう。ピヨタンのおかげで快適に移動は出来るもののアシュラッドまでは結構距離がある。
地元民のモリンさんの基準からすればすぐかも知れないが、このペースだと二時間弱はかかるだろうな。
太陽の高さでおおよその時間はわかるがここは異世界、そもそも一日が二十四時間なのかもわからない。ただ時間は有限だしもう少しペースを上げたほうがいいか。
「モリンさん、スピード上げられます? こいつの扱いにも慣れてきたので」
「え? 私は問題ないですけど大丈夫ですポ?」
「大丈夫ですよ! お前もいけるよな!?」
「ピィ!」
俺は現実世界で培った軍用バイクの運転技術を思い出しスピードを上げる。ピヨタンも元来走るのが好きな性格なのか嬉しそうに全力疾走をしてくれた。
「わー、凄いですポン! なんで私よりも上手なんですポ!?」
競馬場のピヨタンはサラブレッドよりもずっと速かったしその気になればもっと速くなるはずだが、モリンさんに配慮しなければいけないのでスピードは七十キロくらいでいいか。
もし落っこちても下は砂地だし受け身のスキルもある俺なら大怪我はしないだろう。現実世界の演習では山奥にある死人が出るレベルの悪路で走った事もあるからな。
(でもそっか、異世界なんだな、ここって)
目的地が定まった所で俺は風景を楽しむ心の余裕が出来た。虚無の砂漠は何もないからこそ美しく、風紋に刻まれたピヨタンの足跡はすぐに砂に飲み込まれ消えていく。
時折見かける半分ほど砂に埋まった遺跡らしき建造物はかつて人がいた時代の名残だろうか。
よく見れば北九州の港に存在していた明治くらいから存在する有名な建物もあるし、きっとこのあたりは昔海だったのだろう。朽ち果てたレトロな建築物が実に物悲しくワビサビを感じるよ。
熱風はどこか心地よく爽やかで生命力を感じ、病に侵された俺の全身から噴き出る汗は太陽の光で煌めいた。
澄んだ青空には穏やかに白雲が流れ、永遠の静寂と雄大な自然が共存する景色は、終末の世界というにはあまりにも美しすぎる絶景だったのだ。
無論今までも軍用バイクや車に乗った事はあるがそんなものとはわけが違う。
延々と遥か彼方まで続く砂漠を走り続けていると次第に無我の境地に至り、それはただただ爽快でこのまま死んでもいいと思えるほど心地よかったのだ。
もしも俺が小説家ならばこの想いを作品にしていたんだろうけど、少なくとも今はそんな事をする余裕はないだろう。
まずはアシュラッドで持病の薬の代替品になりそうなものを最優先で探し、同時進行で愛理も探さないとな。




