1-99 夢の異世界、崎陽ムゲンパレスへようこそ
安全を確認した所で空港内部の探索を開始するが、ここでひとつ大きな問題が生じてしまう。
「アニキ、まずはどこを見て回るでヤンスか?」
「見て回るっつっても、そもそも空港は観光する場所じゃないからなあ。元々この街自体ベッドタウンであんまり観光に特化してないし」
サスケは探索が楽しみで仕方がなかった様だが、俺からすれば廃墟になった地元の施設なので別に何の感情も抱かなかった。せめて初めて見る廃墟ならまだ楽しめたんだけど。
「空港の中には一応鐘がある展望デッキとか、飛行機の玩具の展示とか、後はレストランと……近くには砂浜と天正遣欧使節団の像があったはずだが、どれもわざわざ見に行くものじゃないな。あと飛行機のタイヤの展示もあるがそんなものを見る奴、」
「おお! そいつは最高ダネ! 早速探してくるヨ!」
「うちも行くヨー!」
「いたなあ」
「あはは、迷子にならない様に僕が見ておきます」
リンドウさん一家はその話に即座に食いつき、一家を引き連れ飛行機系の展示を探しに向かった。
現代人にとってはあえて見る様なものではない展示でも、この世界の人間にとっては神の叡智が記された値段がつけられないレベルのお宝だ。早速資料が見つかって彼女にとっては幸先のいいスタートになっただろう。
「なー、腹減って来たし食い物探そうぜ。メシ食えるとこあるんだろ?」
「あるけど俺たちの世界の話であって、こっちで営業してるかどうかはわからないぞ」
「別にこの際食えればなんでもいいけど……およ?」
リアンと俺がまず何を探すべきか話し合っていると車の走行音が聞こえる。
おそらくバスの音と思われるが、ここが移動の拠点として今でも機能しているのなら特段不自然な事ではないだろう。
だが一応マップ機能で確認するとビルの前に青い観光バスが停車、バスガイドの服を着た若い少女が慌てた様子で降車しこちらに向かってビル内部に入り、そのまま肉眼で俺は彼女の姿を確認してしまう。
「っ」
バスガイドの少女は俺と目が合いしばらく硬直していたが、すぐに姿勢を正し、
「夢の異世界、崎陽ムゲンパレスにようこそ!」
「あ、お邪魔します」
と、素敵な笑顔で微笑みながら奇妙な事を口走ったのだ。
予想外の反応に俺はどうすればよかったのかわからなかったが、とりあえずようこそと言われたのでそう返答する。
「えーと、どちら様? あんたはアンジョなのか?」
ザキラは訝し気にバスガイドの少女を眺める。
彼女の見た目は高校生から大学生くらいの人間の女性だったが、上手く説明出来ないが微妙に挙動に違和感がある。
もっともさっきから空港内部をうろついているロボットを見れば、大体彼女が何者なのかは察しがつくけど。
「はい、私は崎陽ムゲンパレス総務部長代理兼崎陽観光バス運転手兼バスガイドロボのオトハと申します」
「崎陽ムゲンパレス……ってここの事か?」
「はい、崎陽ムゲンパレスはアラディア王国によって作られた長崎を模した大型アミューズメント施設です。現在は通常の営業を行っておりませんが、精いっぱいお客様をおもてなしさせていただきます」
「大型アミューズメント施設って。大型にも程がありませんかね?」
彼女の言葉が事実ならばムゲンパレスは長崎を丸々一個再現している事になる。
崎陽空港のあるこの市は長崎の中でもマイナーで影が薄いというのに、そんな場所ですら細かい部分まで再現しているという事は長崎のほぼすべてのエリアを網羅しているのだろう。
「それに来る途中明らかに娯楽用途じゃないものもあった気もしますが。思いっきり敵を迎撃してくれましたが、あれもアトラクションの一環なんですか?」
「防衛システムの事ですね。あの防衛システムはアトラクションではございません。またそれについての詳細な説明は禁則事項となっております」
「あらそう。ならつつかないでおくよ」
オトハはニコニコしながらほんのり恐怖を感じる説明をしたので、俺は藪蛇を避けこの事について関わらない様にする事に決めた。いつの時代も余計な事には首を突っ込まない事が長生きの秘訣だからな。
「よくわかんないけど、ならメシが食えるところに案内してくれるか? もう腹が減ってて」
「はい、承知いたしました。ではご案内いたします」
リアンはすぐに受け入れオトハに依頼、彼女はレストランのある場所に移動する。
これがバスガイドの仕事かどうかは不明だが、道案内をしてくれるというのならば快く受け入れよう。




