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怖い話  作者: 健二
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廃病院の闇の窓


 真夏の深夜。大学の先輩が「ここはヤバい」と評判の廃病院へ肝試しに行くと言い出した。私と友人は半ば好奇心で、半ば強制的に連れられることになった。その廃病院は、駅からバスで三十分ほど離れた山あいの町はずれにあり、既に建物の壁面は汚れや落書きだらけ。ガラスの割れた窓からは、不吉に夜風が吹き込んでいた。


 門も柵も壊れていて、侵入は容易だったが、辺り一面に漂う空気は重苦しい。建物に足を踏み入れると、湿気と消毒液が混ざったような跡臭が鼻につく。暗がりの廊下には、人工照明の代わりに月明かりだけが線のように差し込んでいた。


「懐中電灯、ちゃんと持ってるか?」

 先輩が確認する声すら、やけにこだまする。廊下を進むごとに、生活をしていた痕跡のない荒涼とした空間が続く。何かが擦れるような音、コツン……と床をたたくような音が、どこかからか聞こえるたびに全員が息を飲んだ。


 三階まで階段を上がると、“病室”と書かれたプレートのかかった扉があった。カーテンが半端に引きちぎれた病室の中は、月明かりが差し込むせいか外よりはっきりと見える。ベッドらしきものがいくつか並んでいたが、どれもベッドフレームだけが錆びついて残るばかりで、不気味なほど静かだった。


 そのとき、一番奥の窓から、かすかに「トン…トン…」という音が聞こえた。私たちは何だろうと耳を澄ませながら、そっとその窓に近づく。そして、ガラスがほぼ割れ落ちている窓枠の向こうを覗き込んだ。


 窓の外は真っ暗な林。けれど外壁に面したわずかなスペースに、光の加減で薄白く何かが浮かんでいるように見えた。それがまるで人の顔のようにも見えた瞬間、友人が押し殺した声で言った。

「見た……今、誰かこっちを見てた……」

 思わず息を飲む。先輩も何かを感じ取ったのか、無言のまま後ずさった。


 外には人が立てるような足場はない。落ちかけのコンクリートに大きく亀裂が走っており、とても人が踏ん張れるようには思えないのだ。それにもかかわらず、音は規則的に続き、まるで窓からこちらを覗き込む者が、合図をするかのごとく「トン…トン…」と叩いているかのようだった。


 寒気に襲われた私たちは、その場から駆け出した。階段を飛ぶように駆け下り、一階の廊下を抜けるまで一度も振り返らなかった。外に出ても、病院の割れ窓からの視線が追いかけてくるような感覚がまとわりつき、誰も声を発さなかった。

 そして車に乗り込んだ瞬間、あろうことか全員の携帯電話が一斉に圏外になる。駅前までは問題なくつながっていたはずなのに、まるで何かが妨害しているかのようで、そのときは背筋が凍った。エンジンを急いでかけると、ようやくその場から逃げ出すことができたが、車の窓に映る病院の姿が、まるでこっちへ手を伸ばしているように歪んで見えた。


<実際にあったできごと>

 2000年代前半、関東近郊のある廃病院で「夜中に窓の外から人の顔が見える」「窓ガラスを叩く音が聞こえる」などの噂がネットや地元のSNSで広まり、心霊スポットとして一時期注目を浴びた。中には、病室の窓から外を撮影した写真に、人の顔のような白い影が写り込んでいたとして話題になったこともある。その後、建物の老朽化が進んで危険という理由もあり、一部の階で入り口が封鎖されたり取り壊しが進められているが、未だ完全には撤去されていないらしい。そこに実際足を踏み入れた何人もの若者が、高確率で謎の窓の音や気配を感じているという報告があるため、地元では今も「廃病院の闇の窓」と呼ばれ敬遠されているようだ。

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