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怖い話  作者: 健二
★☆★
80/118

深夜のトンネルに響く声


 大学の夏休み、友人の誠治が免許を取ったばかりの車を走らせ、心霊スポットと噂される山奥の古いトンネルへ向かった。トンネルは全長が短いわりに内部は薄暗く、水滴が天井から絶えず落ちている。吸い込まれそうな闇の奥からは冷たい風が吹きつけ、外の夏の空気とはまるで別世界のようだった。


 誠治は「ただの肝試しだよ」と笑いながらも、ハンドルを握る指先はわずかに震えている。助手席に座る自分も、嫌な胸騒ぎが押し寄せてくるのを抑えられなかった。車のライトは天井や壁のひび割れを照らし出し、細かい水滴が鈍い光を放つ。


 トンネルの中ほどまで進むと、不意にエンジンが息継ぎしたかのように音を立て、スピードが落ちてきた。誠治が焦るようにアクセルを踏み込むが、車は思うように加速せず、しまいにはとうとうエンストを起こしてしまう。トンネル内は車のヘッドライトとわずかな非常灯以外に明かりがないため、車内に不気味な緊張感が漂った。


 ドアを開ける勇気など出るはずもない。エアコンも止まり、湿気が絡みつくような息苦しさが増してくる。「早く…動いてくれ…」と誠治がエンジンを再始動しようとするが、キーを回しても甲高い空回りの音が響くだけ。すると、窓越しに何かがささやくような声がかすかに聞こえた気がした。


 振り向いても、そこには車内の暗がりとトンネルの壁だけがある。けれど、その“誰か”の声は確かに耳元をかすめ続け、意味をなさない言葉を低く繰り返しているように感じる。友人と目を合わせ、無言で身をすくめる。もしドアを開けて外に出たら、その声の正体と対面してしまうのではないか――そんな不安が頭をよぎった。


 何回目かのトライで奇跡的にエンジンがかかると、誠治はアクセルを踏んづけ、車はようやくトンネルを抜け出した。外に出た途端、恐ろしさが一気に噴き出し、ふたりとも手の震えが止まらなかった。振り返るとトンネルからはまるで深い闇が追いかけてくるようで、頭の片隅にはあの得体の知れない囁きが今もこびりついて離れない。


――――――――――――――――――――――――――――

■実際にあったできごと


 日本各地の山間部や海沿いには、老朽化が進んだ昔のトンネルが多く残されており、そこでは「夜中にエンジンが突然止まる」「不可解な声を聞いた」という目撃談が後を絶ちません。特に古い工事現場では事故死が多かったとされる場所もあり、「供養されていない霊が出る」という噂が長年語り継がれています。実際にテレビ番組や雑誌の取材で、同様の怪奇現象の報告があったケースもあるようですが、トンネル内の温度変化や湿度による車の不調など、物理的な原因と結論付けられる場合が多いのも事実です。それでもなお、夏の夜にトンネルへ向かう人々の間では、不気味な怪談として今も話題になり続けています。

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