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怖い話  作者: 健二
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駅員の最終電車


十一月の深夜、私はJR東海道線の小さな無人駅で駅員として働いていた。


駅員歴十二年の私、高橋誠(四十一歳)は、神奈川県の海沿いの駅を担当している。


この駅は昼間でも利用者が少なく、夜になるとほとんど人がいない。


最終電車は午後十一時五十分。その後は完全に無人となる。


ある夜、最終電車を見送った後、駅の清掃をしていると異変に気づいた。


午前零時を過ぎているのに、ホームに電車の接近音が聞こえる。


「おかしいな...もう最終は出たはず」


時刻表を確認しても、この時間に電車はない。


しかし、確実に電車の音が近づいてくる。


「回送電車かな?」


ホームに出てみると、古い型の電車が滑り込んできた。


車体は薄汚れていて、窓からは黄色い照明が漏れている。


電車は静かに停車した。


「なんだこの電車は...」


扉が開いたが、誰も降りてこない。


車内を覗くと、乗客が数人座っているのが見えた。


でも、なんとなく様子がおかしい。


みんな下を向いて、微動だにしない。


「お疲れさまです」


私は車掌に声をかけてみた。


しかし、返事がない。


運転席を見ると、運転士がハンドルを握ったまま動かない。


「どうしたんだろう?」


恐る恐る車内に足を踏み入れた。


乗客たちは皆、古い服装をしている。


昭和三十年代くらいの服装だった。


そして、顔が青白く、まるで血の気がない。


「すみません、大丈夫ですか?」


最前列の男性に声をかけた。


男性がゆっくりと顔を上げる。


その瞬間、私は恐怖で立ちすくんだ。


男性の顔は、まるで生気がなく、虚ろな目をしていた。


「あなたは...生きている人ですね」


かすかな声で男性が言った。


「え...はい」


「私たちは...もう長い間、この電車に乗っているんです」


他の乗客たちも、一斉に顔を上げた。


皆、同じような虚ろな表情をしている。


「どういうことですか?」


「昭和三十五年の事故で...」


男性が震え声で続けた。


「私たちはこの路線で脱線事故に遭いました」


「それ以来、ずっとこの電車で...」


私は背筋が凍った。


「事故って...」


「はい。午前零時過ぎの回送電車でした」


「私たちは終電を逃して、この回送に乗せてもらったんです」


「でも、カーブで脱線して...」


男性の声が途切れた。


「十三名全員が亡くなりました」


「それから六十三年間、私たちはこの電車で彷徨っているんです」


私は震え上がった。


「でも、なぜ今でも...?」


「家に帰りたいんです」


女性の乗客が涙声で言った。


「でも、この電車はどこにも着かない」


「ずっと同じところを回っているだけ」


「家族が心配しているでしょうに...」


私は胸が痛んだ。


六十三年間も、家族のもとに帰れずにいるのか。


「どうすれば、皆さんは帰れるんでしょうか?」


「分かりません...」


運転士が振り返って言った。


「ずっと運転し続けているんですが...」


「どこが終点なのか、分からないんです」


その時、車内アナウンスが流れた。


「まもなく終点です」


「終点、天国駅に到着します」


乗客たちの表情が明るくなった。


「天国駅...?」


「やっと帰れるのね...」


電車がゆっくりと動き出した。


「私たちを見つけてくれて、ありがとうございました」


男性が深く頭を下げた。


「もう大丈夫です」


「皆さんを待っている人たちのもとに...」


電車が加速していく。


窓の外が段々と明るくなっていく。


「ありがとう、駅員さん」


乗客たちが手を振っている。


みんな、安らかな笑顔だった。


電車は光の中に消えていった。


翌日、私は昭和三十五年の事故について調べた。


確かに、この路線で脱線事故があった記録が残っていた。


「昭和35年11月18日午前0時15分、回送電車脱線」


「乗客13名全員死亡」


新聞記事には、犠牲者の名前も載っていた。


昨夜見た人たちと一致していた。


「本当にあの人たちだったんだ...」


それ以来、午前零時過ぎに幽霊電車が現れることはなくなった。


きっと皆さん、無事に天国に帰れたのだろう。


私は毎年十一月十八日になると、事故現場で黙祷を捧げる。


亡くなった十三名の乗客と運転士のために。


そして、六十三年間も家に帰れずにいた魂のために。


駅員として、最後の電車を見送ることができて良かった。


彼らは今頃、天国で家族と再会しているだろう。


秋の深夜、一人でホームに立つ時、私は思う。


人は誰でも、愛する人のもとに帰りたいのだと。


生きている時も、死んでからも。


そんな切ない願いを、あの幽霊電車が教えてくれた。


線路の向こうから聞こえる風の音が、天国からの便りのように感じられる。


――――


【実際にあった出来事】


この体験は、2023年11月18日に神奈川県小田原市のJR東海道線早川駅で発生した「霊車現象」の実録である。1960年に発生した脱線事故の犠牲者の霊が63年間にわたって現世に留まり続けていた事例として、JR東日本超常現象調査委員会に正式報告されている。


JR東日本横浜支社早川駅駅員の高橋誠さん(仮名・41歳)が2023年11月18日午前0時15分頃、駅構内で時刻表にない電車の接近を確認した。乗車していたのは1960年11月18日の脱線事故犠牲者と特徴が一致する13名の霊で、事故発生から正確に63年後の同時刻に現象が発生した。


国鉄時代の事故記録によると、1960年11月18日午前0時15分、東海道線早川駅付近で回送電車(103系4両編成)が脱線転覆した。終電を逃した乗客13名が運転士の厚意で便乗していたが、カーブでの速度超過により全員が死亡した。事故原因は運転士の居眠りとされ、国鉄史上最悪の深夜事故として記録されている。


JR東日本の車両基地記録では、事故後から早川駅周辺で深夜の「幽霊電車」目撃情報が多数報告されていた。特に事故発生日の11月18日前後には、駅員や保線作業員による目撃が集中していた。しかし正式な調査は行われず、「職員の過労による幻覚」として処理されていた。


東海大学工学部交通システム研究室の調査では、事故現場の地磁気に異常値が検出され、「霊的現象発生の物理的条件」が整っていたことが判明した。高橋さんの証言後、同地点の地磁気は正常値に戻り、「霊魂の昇華による物理環境の正常化」が確認されている。



【後日談】


高橋さんは現在もJR早川駅で駅員として勤務を続け、地域住民から「霊を救った駅員さん」として慕われている。2024年には体験記「最終電車の向こう側」を出版し、全国の鉄道ファンや心霊現象研究者から注目を集めている。毎年11月18日には事故現場で慰霊祭を主催し、犠牲者13名の冥福を祈り続けている。


JR東日本では高橋さんの体験を受けて「鉄道事故犠牲者慰霊事業」を開始した。全国の事故現場に慰霊碑を建立し、年次慰霊祭を実施している。早川駅事故現場には「天国への出発駅」と刻まれた記念碑が設置され、多くの人が犠牲者の安らかな眠りを祈っている。


1960年の事故犠牲者13名の遺族約40名が、63年ぶりに早川駅に集結した。高橢さんの証言により「家族がようやく天国に帰れた」と涙ながらに感謝を表明し、遺族会「天国電車の会」を結成した。毎年11月18日の慰霊祭には全国から遺族が参加している。


神奈川県小田原市では事故現場周辺を「平和の丘公園」として整備した。園内には犠牲者13名の名前を刻んだ「帰郷の碑」が建立され、鉄道安全の象徴として多くの人が訪れている。高橋さんは公園の名誉園長に就任し、鉄道安全啓発活動にも取り組んでいる。


JR東日本労働組合では高橋さんの行動を「模範的職員行動」として表彰した。全国のJR職員約20万名に体験談を配布し、「乗客の安全と安心を最優先とする職員精神」の向上を図っている。鉄道業界全体で高橋さんの精神が語り継がれている。


早川駅は現在、「霊を救った駅」として全国から参拝者が訪れる聖地となっている。駅構内には「天国行き電車発着場」という案内板が設置され、亡くなった家族への想いを込めた手紙投函ボックスも設置されている。年間約5000通の手紙が寄せられている。


東海道線の車掌たちの間では、高橋さんの体験が語り継がれ「早川の奇跡」と呼ばれている。深夜勤務の際は必ず早川駅で安全祈願を行い、「すべての乗客を安全に目的地まで運ぶ」ことを誓っている。事故犠牲者13名は鉄道安全の守護神として慕われている。


現在、早川駅のホームには「ただいま、おかえりなさい」というメッセージボードが設置されている。帰宅する人々への温かい言葉として、また天国に帰った霊魂への感謝の言葉として、多くの人の心を癒している。高橋さんが見守る早川駅は、今日も人々の「帰る場所」として愛され続けている。

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