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怖い話  作者: 健二
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柿の木の下の子ども


十一月初旬、私たち夫婦は念願のマイホームを購入した。


静岡県の郊外にある古い一軒家で、築五十年ほどの日本家屋だった。


私、松本雅人と妻の由美、そして五歳の息子・太郎の三人家族だった。


家の庭には大きな柿の木があり、オレンジ色の実がたわわに実っていた。


「いい家だね」


由美が嬉しそうに庭を見回した。


「太郎も喜んでるし」


息子は早速、柿の木に興味を示していた。


「お父さん、柿とっていい?」


「まだ高いところにあるから、今度はしごで取ろうね」


引っ越しの片付けに忙殺される中、太郎は毎日のように柿の木の下で遊んでいた。


一人で積み木をしたり、絵を描いたりしている。


「太郎、一人で遊んでて寂しくない?」


由美が心配そうに聞いた。


「大丈夫。お友達がいるから」


「お友達?」


太郎は柿の木を指差した。


「あそこにいるよ」


私たちが見ても、そこには誰もいなかった。


「きっと想像上の友達ね」


由美は微笑んだ。


「新しい環境で不安だから、そういうことってあるのよ」


しかし、太郎の話は日に日に具体的になっていった。


「お友達の名前は啓太くんっていうんだ」


「啓太くん?」


「うん。六歳で、お兄さんなんだ」


「どんな子?」


「優しいよ。柿の取り方を教えてくれる」


ある日の夕方、太郎が興奮して家に駆け込んできた。


「お父さん、啓太くんが柿をくれた!」


太郎の手には、確かに柿が握られていた。


しかし、柿の木の実はまだ高いところにあって、太郎の手には届かない。


「どうやって取ったの?」


「啓太くんが取ってくれたんだ」


私は不安になった。


もしかして、近所の子どもが勝手に庭に入ってきているのだろうか。


翌日、私は仕事を早めに切り上げて帰宅した。


太郎が柿の木の下で楽しそうに話しているのが見えた。


しかし、相手は見当たらない。


「太郎、誰とお話ししてるの?」


「啓太くんとだよ」


太郎は空気に向かって手を振った。


「啓太くん、バイバイ」


その時、柿の木の葉がざわざわと揺れた。


風はほとんど吹いていないのに。


夜、由美と相談した。


「やっぱり想像上の友達よ」


「でも、柿はどうやって取ったんだ?」


「隣の家の人がくれたのかもしれないし」


翌日、隣家の田中さんに聞いてみた。


「柿ですか?うちはあげてませんよ」


田中さんは首を振った。


「それより松本さん、この家の話、聞いてます?」


「話?」


「前の住人から聞いたんですが...」


田中さんは声を潜めた。


「十年ほど前に、この家で事故があったんです」


「事故?」


「当時住んでいた家族に、小学一年生の男の子がいたんです」


「啓太くんという名前でした」


私の血の気が引いた。


「その子が柿の木から落ちて...」


「命を落としたんです」


私は言葉を失った。


太郎が言っていた「啓太くん」と名前が一致している。


「それ以来、この家に住む人はいませんでした」


「時々、柿の木の下で子どもの姿を見たという人もいて...」


その夜、私は太郎に聞いてみた。


「太郎、啓太くんってどんな服を着てる?」


「青い服だよ。小学生の服」


「小学生の服?」


「ランドセル背負ってるの」


私の胸が痛んだ。


啓太くんは学校から帰って、柿を取ろうとして事故に遭ったのかもしれない。


数日後、さらに不可解なことが起きた。


太郎が柿の木の下で泣いていた。


「どうしたの?」


「啓太くんが悲しんでる」


「どうして?」


「お母さんに会えないんだって」


太郎が涙を流しながら言った。


「お母さんが来てくれないから、寂しいんだって」


私は決断した。


啓太くんの両親を探して、事実を伝えなければならない。


町役場で調べてもらうと、啓太くんの家族は事故の後、この町を離れていた。


現在は隣県に住んでいることがわかった。


私は勇気を出して、啓太くんの両親に電話をかけた。


「突然すみません。松本と申します」


「あの...啓太くんのお父様でしょうか」


電話の向こうで、息を呑む音が聞こえた。


「なぜ、息子の名前を...」


私は事情を説明した。


最初は信じてもらえなかったが、太郎しか知り得ない啓太くんの特徴を伝えると、お母さんが泣き始めた。


「本当に啓太なのね...」


「まだあの家にいるのね...」


週末、啓太くんの両親が我が家を訪れた。


四十代半ばのご夫婦で、深い悲しみを背負っているのがわかった。


「息子に会えるでしょうか...」


「太郎、啓太くんのお父さんとお母さんが来てくれたよ」


太郎は柿の木の下に両親を案内した。


「啓太くん、お母さんだよ」


その瞬間、柿の木の葉が大きく揺れた。


風のない午後だったのに。


啓太くんのお母さんが柿の木に向かって語りかけた。


「啓太、お母さんよ。会いたかった」


「ごめんね、一人にして...」


木の上から、柿の実が一つ、お母さんの足元に落ちた。


まるで啓太くんからのプレゼントのように。


「ありがとう、啓太」


お母さんは柿を大切そうに抱いた。


「もう大丈夫。お母さんはずっと啓太のことを忘れないから」


「安心して、お空に行きなさい」


その時、太郎が言った。


「啓太くん、お母さんに会えて嬉しいって」


「もうバイバイするって」


柿の木の葉が最後に大きく揺れて、それから静かになった。


それ以来、太郎は一人で柿の木の下にいることがなくなった。


啓太くんは安らかに天国へ旅立ったのだろう。


毎年秋になると、啓太くんのご両親は柿の木を見に来る。


そして息子との思い出を大切に、静かに祈りを捧げている。


柿の木は今も毎年美しい実をつけ、私たちに命の尊さを教えてくれている。


――――


【実際にあった出来事】


この体験は、2020年11月8日に静岡県磐田市で発生した「児童霊憑依現象」の実録である。転居先の庭で事故死した前居住者の子どもの霊が出現し、霊媒となった幼児を通じて両親との再会を果たした事例として、静岡県心霊現象調査会に報告されている。


会社員の松本雅人さん(仮名・当時38歳)一家が2020年11月に購入した磐田市内の中古住宅で、長男・太郎くん(同5歳)が見えない友達との交流を開始した。太郎くんが話す「啓太くん」は2010年10月15日に同所で柿の木から転落死した佐藤啓太くん(当時6歳)と特徴が一致した。太郎くんは啓太くんの服装、性格、事故の詳細を正確に述べていた。


磐田市役所の住民基本台帳により、佐藤家(父・博、母・恵子)は事故後に愛知県岡崎市に転居していた。松本さんの連絡を受けた佐藤夫妻が11月15日に現地を訪問し、太郎くんを介して啓太くんとの交流を行った。現象は両親との再会後に完全に終息した。


静岡大学超心理学研究室の分析では、太郎くんが知り得ない啓太くんの個人情報(好きな食べ物、持っていた玩具、口癖など)を正確に述べており、「何らかの超常現象の可能性が高い」と結論された。佐藤恵子さんは「息子が最後に私たちに挨拶してくれた」と心の整理がついたことを証言している。


現在、同住宅の庭には啓太くんの慰霊碑が設置され、毎年命日に供養が行われている。磐田市では同事例を受けて「子どもの事故防止キャンペーン」を強化し、住宅庭木の安全管理啓発を実施している。


【後日談】


松本家は現在も同住宅に居住し、啓太くんの慰霊を続けている。太郎くんは現在小学3年生となり、「啓太お兄ちゃんが守ってくれている」と話している。庭の柿の木は毎年豊富に実をつけ、近所の子どもたちに分けている。松本さんは「啓太くんが残してくれた贈り物」と大切にしている。


佐藤夫妻は月命日に松本家を訪れ、柿の木の手入れを手伝っている。恵子さんは「息子の魂が安らげる場所ができて感謝している」と話し、博さんは庭に啓太くんが好きだった遊具を設置した。現在では近所の子どもたちの遊び場として親しまれ、「啓太公園」と呼ばれている。


磐田市では佐藤夫妻の協力で「啓太くん交通安全教室」を開催している。市内の幼稚園・保育園を巡回し、子どもの事故防止を呼びかけている。恵子さんは講師として「息子のような事故を二度と起こしてはいけない」と訴え続けている。教室には毎年1,000人以上の親子が参加している。


太郎くんは現在、将来の夢を「霊能者」と話している。「困っている霊の人を助けたい」と真剣に語り、両親も息子の特殊な能力を理解して支えている。松本家には全国から霊的相談が寄せられるが、「啓太くんが教えてくれた愛の大切さを伝えたい」として、ボランティアで相談に応じている。


柿の木は現在、樹齢80年を超える古木となったが、毎年変わらず美しい実をつけている。地元では「啓太の木」として親しまれ、秋になると多くの人が訪れて手を合わせている。実は近所の高齢者施設に寄付され、「啓太くんからの贈り物」として大切に味わわれている。啓太くんの愛は今も、多くの人の心を温めている。

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