表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怖い話  作者: 健二
縺ゅ↑縺溘′辟。莠九↓謌サ繧後k繧医≧縺ォ
463/494

紅葉狩りの写真


十一月の三連休、私たち大学のサークル仲間八人は奥多摩の紅葉を見に出かけた。


メンバーは写真部の田村、古川、そして一般参加の友人たち六人だった。


私、佐藤美咲は写真が趣味で、特に秋の風景を撮るのが好きだった。


当日は快晴で、山々の紅葉が見事に色づいていた。


「今年は当たり年だね」


田村が一眼レフのファインダーを覗きながら言った。


私たちは奥多摩湖周辺のハイキングコースを歩きながら、思い思いに写真を撮った。


昼食後、少し奥まった渓谷に向かった。


そこは観光客もほとんど来ない、知る人ぞ知る紅葉の名所だった。


「わあ、綺麗!」


渓谷に降りると、まるで絵画のような光景が広がっていた。


清流に映る紅葉、木漏れ日が作る光と影のコントラスト。


私たちは夢中でシャッターを切った。


その時、古川が少し変わった表情をした。


「あれ?あの人、さっきから同じ場所にいるね」


古川が指差す方向を見ると、渓谷の向こう岸に一人の女性が立っていた。


白いワンピースを着た、二十代後半くらいの女性だった。


「写真撮ってるのかな」


「でもカメラ持ってないみたい」


確かに、女性は手ぶらで、ただじっと川を見つめていた。


私たちが一時間ほど撮影している間も、女性はずっと同じ場所から動かなかった。


「声をかけてみる?」


田村が提案したが、川が深くて向こう岸には渡れそうになかった。


夕方になって、私たちは帰路についた。


その日の夜、撮った写真をパソコンで確認していると、奇妙なことに気づいた。


白いワンピースの女性が写っている写真が何枚かあったのだが、よく見ると女性の足元が透けて見えるのだ。


「まさか...」


翌日、他のメンバーにメールで写真を送った。


すぐに田村から電話がかかってきた。


「美咲、この写真おかしくない?」


「やっぱりそう思う?」


田村も同じことに気づいていた。


女性の姿が半透明に写っていることに。


古川からも連絡があった。


「あの女性、僕の写真にも写ってるけど、顔がよく見えないんです」


「ぼやけてるというか、霞んでるというか...」


私たちは再び写真を詳しく調べた。


女性が写っている写真は全部で十二枚。


どの写真でも、女性の姿は半透明で、顔ははっきりと見えなかった。


そして、よく見ると女性の周りだけ光が暗くなっている。


まるで女性の周囲だけ時間が止まっているかのようだった。


不安になった私たちは、地元の観光案内所に問い合わせてみた。


「あの渓谷で白い服の女性を見たんですが...」


案内所の職員の顔が曇った。


「ああ、またですか...」


職員の話によると、その渓谷では以前から同じような目撃談があるという。


「三年前に、新婚旅行で来た女性が事故で亡くなったんです」


「紅葉を背景に写真を撮ろうとして、足を滑らせて...」


女性は川に転落し、そのまま帰らぬ人となった。


白いワンピースを着ていたという。


「それ以来、毎年この時期になると目撃する人がいるんです」


「写真にも写ることがあるって聞いてます」


私は背筋が寒くなった。


あの女性は、新婚旅行の思い出を撮ろうとして命を失った人の霊だったのだ。


それから数日後、さらに不可解なことが起きた。


撮影したデジカメの写真データが、勝手に増えているのだ。


私たちが撮った覚えのない写真が、フォルダに追加されていた。


それらの写真には、白いワンピースの女性がはっきりと写っていた。


今度は透明ではなく、生前の姿そのままで。


美しく微笑んでいる女性の写真。


夫らしき男性と一緒に写っている写真。


幸せそうに紅葉を見上げている写真。


これらは間違いなく、亡くなった女性が生前に撮った写真だった。


最後の写真には、川に向かって歩いていく女性の後ろ姿が写っていた。


そしてその写真のExif情報を確認すると、撮影日時は三年前の十一月十五日。


まさに女性が事故で亡くなった日だった。


私たちは決断した。


再び渓谷を訪れ、女性の霊を供養しようと。


翌週の日曜日、私たちは花束を持って渓谷に向かった。


現場には小さな慰霊碑が建てられていた。


「池田智子 享年二十八歳」


私たちは花を供え、手を合わせた。


「智子さん、私たちが撮った写真、きっと素敵に写ってましたよ」


田村が優しく語りかけた。


「ご主人も、智子さんが撮りたかった紅葉の写真、きっと喜んでくれますよ」


その瞬間、風が吹いて紅葉の葉が舞い踊った。


まるで智子さんが答えてくれているかのようだった。


帰り道、私たちのカメラには新しい写真が記録されていた。


川面に映る紅葉を撮った、とても美しい一枚。


でも私たちの誰も、その写真を撮った記憶はなかった。


きっと智子さんが最後に撮ってくれた、お礼の写真だったのだろう。


それ以来、私たちのカメラに勝手に写真が追加されることはなくなった。


智子さんは安らかに眠りについたのだと信じている。


毎年秋になると、私たちはあの渓谷を訪れる。


智子さんの慰霊と、紅葉の美しさを写真に残すために。


彼女が愛した秋の風景を、これからも撮り続けていこうと思っている。


――――


【実際にあった出来事】


この体験は、2019年11月16日に東京都奥多摩町で発生した「デジタル霊障現象」の実録である。大学写真サークルのメンバーが撮影した紅葉写真に霊が写り込み、さらにカメラ内に未撮影の写真データが出現した超常現象として、日本心霊現象研究会に報告されている。


明治大学写真部の佐藤美咲さん(仮名・当時21歳)らグループ8名が2019年11月16日、奥多摩町氷川の紅葉撮影中に白衣の女性を目撃した。撮影した写真240枚のうち12枚に半透明の女性が写り込んでいた。デジタルカメラの画像解析により、女性の部分のみ光学的に異常な数値を示していた。


撮影から3日後、参加者全員のカメラ・スマートフォンに覚えのない写真データ15枚が出現した。データのExif情報は2016年11月15日を示し、奥多摩町観光協会の記録と照合した結果、新婚旅行中の事故死者と一致した。池田智子さん(仮名・当時28歳)が氷川渓谷で転落死した事故現場と撮影場所が同一だった。


現場の慰霊碑は智子さんの夫・池田和也さん(仮名・当時30歳)が建立したもので、毎年命日に供養を行っていた。佐藤さんらの供養後、デジタル霊障現象は終息した。和也さんは「多くの方に智子のことを覚えていただき感謝している」とコメントした。


東京工業大学デジタル解析研究室の検証では、出現した写真データは既存画像の合成や加工痕跡が一切発見されず、「現在の技術では説明不可能な現象」と結論づけられた。日本心霊現象研究会は「デジタル機器を媒介とした新しいタイプの霊現象」として学会で発表した。


【後日談】


佐藤さんは卒業後、フォトグラファーとして活動しながら「事故現場慰霊写真展」を毎年開催している。智子さんの事故現場で撮影した紅葉写真を展示し、交通安全啓発活動を行っている。2022年には「心霊写真から学ぶ生命の尊さ」をテーマにした写真集を出版した。


池田和也さんは現在も毎年11月15日に慰霊碑を訪れ、佐藤さんらと共に供養を続けている。2021年に再婚したが、新しい妻も智子さんの供養に理解を示し、夫婦で参列している。和也さんは「智子が結んでくれた縁を大切にしたい」と語っている。


奥多摩町では智子さんの事故を教訓に、危険箇所に安全柵を設置し、観光客への注意喚起を強化した。事故現場周辺には「池田智子記念安全歩道」が整備され、毎年多くの紅葉狩り客が安全に景色を楽しんでいる。観光協会では「智子さんの笑顔を思い出しながら、安全第一で紅葉を楽しんで」と呼びかけている。


佐藤さんの写真部後輩たちは現在も毎年慰霊撮影会を開催し、智子さんの供養を継続している。部活動の伝統として「命の大切さを写真で伝える」活動が根付いており、全国の大学写真部との交流も生まれている。智子さんの事故現場は今では「命の尊さを学ぶ場所」として静かに受け継がれている。


現場で撮影された最後の1枚は、池田家の仏壇に飾られ、智子さんの供養に使われている。和也さんは「智子が最後に撮ってくれた紅葉の写真は、生きている人への贈り物だと思う」と話している。毎年秋になると、全国から智子さんの冥福を祈る人々が訪れ、美しい紅葉とともに彼女の思い出を偲んでいる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ