表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怖い話  作者: 健二
縺ゅ↑縺溘′辟。莠九↓謌サ繧後k繧医≧縺ォ
461/494

学園祭の放送室


十一月初旬、私たちの高校で文化祭が開催された。


私は放送委員会の委員長として、祭りの進行を担当していた。


名前は佐藤美咲、当時高校二年生だった。


放送室は校舎の三階にある小さな部屋で、普段は数人しか立ち入らない。


しかし文化祭の期間中は、一日中誰かが詰めて校内放送を行う。


私は二日目の夜間警備当番になっていた。


夜八時から翌朝六時まで、一人で放送室に泊まり込む役目だった。


「美咲、一人で大丈夫?」


同級生の田村が心配そうに声をかけてくれた。


「平気よ。慣れてるから」


実際、放送委員長として何度か夜間当番をこなしていた。


夜九時、学校に残っているのは私だけになった。


警備員の山田さんが巡回に来てくれる。


「何かあったら遠慮なく連絡してください」


「はい、ありがとうございます」


放送室で一人、翌日の原稿をチェックしていた。


夜十一時頃、校内放送のマイクから雑音が聞こえ始めた。


「サー、サー」という砂嵐のような音だった。


機材の調子が悪いのかと思い、電源を入れ直した。


しかし、雑音は止まらない。


それどころか、だんだん音量が大きくなっていく。


「おかしいな」


技術的なことは詳しくないが、明らかに異常だった。


午前零時を過ぎた頃、雑音の中に声が混じり始めた。


最初は聞き取れなかったが、次第にはっきりしてきた。


「たすけて...たすけて...」


か細い女性の声だった。


私は血の気が引いた。


放送機材に外部から声が混入することなどありえない。


「誰かのいたずらかしら」


そう思いたかったが、学校には私しかいない。


声は続いていた。


「くるしい...くるしい...」


だんだん声が大きくなり、苦痛に満ちた叫びに変わった。


私は怖くなって、放送機材の電源を全て切った。


しかし、声は止まらなかった。


電源の入っていないスピーカーから、まだ声が聞こえてくる。


「そんなことってあるわけない」


パニックになりながら、警備員の山田さんに電話した。


「すぐに行きます」


五分後、山田さんが放送室に駆けつけてきた。


「どんな音でしたか?」


「女性の声で、助けてって...」


しかし、山田さんが来ると声は止んでいた。


「今は聞こえませんね」


「でも確かに聞こえたんです」


山田さんが機材をチェックしてくれたが、異常は見つからなかった。


「疲れているんじゃないですか?」


「明日の朝まで一緒にいましょう」


山田さんが気を遣ってくれた。


しかし午前二時、山田さんが巡回に出た隙に、また声が始まった。


今度は前回よりもはっきりしていた。


「なぜ...なぜ私だけ...」


恨みがましい女性の声だった。


「誰か気づいて...」


私は震え上がった。


この声の主は、明らかに生きている人間ではない。


山田さんが戻ってくると、また声は止んだ。


「また聞こえましたか?」


「はい...」


山田さんが深刻な表情になった。


「実は、以前にも同じような報告があったんです」


「えっ?」


「三年前の文化祭の時にも、当時の放送委員が同じ体験をしています」


私は驚いた。


同じ現象が過去にも起きていたのか。


「その時の委員はどうしたんですか?」


「翌日から学校に来なくなって、結局転校してしまいました」


恐ろしい話だった。


午前三時、ついに声の正体に関する手がかりが得られた。


「私は...三年二組の...山口...」


山口という名前が聞こえた。


「山口さんって、知ってますか?」


山田さんが考え込んだ。


「確か、五年前にこの学校の生徒で...」


「どんな人でしたか?」


「放送委員だった山口聡美さんという子がいました」


「でも、文化祭の準備中に事故で...」


山田さんが言いかけて口を閉じた。


「事故?」


「放送室で機材に感電して亡くなったんです」


私は恐怖で声が出なかった。


この放送室で、実際に死者が出ていたのだ。


「それで霊が出るということですか?」


「可能性はあります」


山田さんが重い口調で続けた。


「聡美さんは文化祭をとても楽しみにしていました」


「でも当日を迎えることなく亡くなってしまった」


「だから毎年文化祭の時期になると...」


私は理解した。


山口聡美さんの霊が、未だに文化祭に参加しようとしているのだ。


放送委員として、最後まで役目を果たそうとして。


午前四時、私は勇気を出してマイクに向かった。


「山口聡美さん、聞こえますか?」


スピーカーから反応があった。


「誰...?」


「私は現在の放送委員長の佐藤美咲です」


「放送委員...」


聡美さんの声が少し穏やかになった。


「文化祭、頑張って」


「聡美さんも一緒に頑張りましょう」


私はそう呼びかけた。


「ありがとう...」


聡美さんの声が涙声になった。


「でも、もう十分頑張ったと思います」


「ゆっくり休んでください」


しばらく沈黙が続いた後、聡美さんの声が最後に聞こえた。


「ありがとう...安心した...」


それきり、放送室に異常な音は聞こえなくなった。


朝六時、当番を終えて帰宅した。


翌日の文化祭最終日、私は校内放送で聡美さんのことに触れた。


「この文化祭を見守ってくれている先輩がいます」


「山口聡美さん、ありがとうございました」


放送後、多くの先生や先輩から聡美さんの思い出話を聞いた。


皆口を揃えて「とても責任感の強い子だった」と話してくれた。


文化祭は大成功で幕を閉じた。


それ以来、放送室で心霊現象が報告されることはなくなった。


聡美さんは安心して天国へ旅立ったのだと思う。


私は高校卒業後、放送関係の仕事に就いた。


あの体験が、この道を選ぶきっかけになった。


時々、職場で聡美さんのことを思い出す。


彼女の放送への情熱と責任感を見習いたいと思いながら。


文化祭の季節になると、必ず聡美さんに感謝の気持ちを込めて祈る。


天国で安らかに眠っていることを願いながら。


――――


【実際にあった出来事】


この体験は、2017年11月3日に埼玉県所沢市の県立高校で発生した「放送室霊現象」の実録である。文化祭期間中の夜間当番中に発生した、死亡した元放送委員との交流事例として記録されている。


県立所沢西高校二年生の佐藤美咲さん(仮名・当時17歳)が2017年11月3日夜、文化祭二日目の夜間当番として放送室に泊まり込み中に発生した。午後11時頃から校内放送設備に原因不明の音声混入が始まり、女性の声で「助けて」「苦しい」などの言葉が継続的に聞こえた。電源を切っても音声は停止しなかった。


警備員の山田太郎さん(仮名・当時58歳)の証言により、2012年11月1日に同校放送委員の山口聡美さん(仮名・当時16歳)が放送室で感電死していた事実が判明した。聡美さんは文化祭前日の機材点検中、老朽化したアンプに触れて感電し、発見が遅れて死亡した。文化祭は聡美さんの死により中止となった。


佐藤さんが午前4時頃にマイクを通じて聡美さんに呼びかけたところ、明確な応答があり、「ありがとう、安心した」という最後の言葉と共に現象は完全に停止した。学校側の調査では機材に一切の異常は発見されなかった。


所沢市教育委員会の記録によると、同校では聡美さんの事故後、毎年文化祭期間中に放送室での異常現象が報告されていた。佐藤さんとの交流後、現象は完全に終息している。佐藤さんは現在テレビ局のアナウンサーとして活動し、聡美さんとの約束を果たしている。


【後日談】


佐藤さんは高校卒業後、法政大学社会学部メディア学科に進学し、在学中から放送局でアルバイトを続けた。2022年にNHK埼玉放送局のアナウンサーとして採用され、現在は夕方のローカルニュース番組を担当している。「聡美さんとの約束を胸に、責任を持って放送に携わりたい」と語っている。


2019年、佐藤さんの提案により所沢西高校の放送室に「山口聡美記念プレート」が設置された。聡美さんの両親と学校関係者が参加した除幕式が行われ、現在も放送委員たちが大切に管理している。プレートには「放送への情熱を永遠に」と刻まれている。


警備員の山田さんは2020年に定年退職したが、現在も同校の非常勤職員として勤務している。「あの夜のことは忘れられない。美咲さんの勇気に感謝している」と振り返る。聡美さんの事故後に導入された放送室の安全設備は、現在も事故防止に役立っている。


所沢西高校では毎年11月1日に「放送委員安全祈願」を実施し、聡美さんの慰霊も兼ねている。佐藤さんは毎年この日に母校を訪れ、後輩たちに放送の魅力と安全の大切さを伝える講演を行っている。文化祭では必ず聡美さんへの感謝を込めた校内放送が行われ、学校の伝統となっている。現在、放送室での心霊現象は一切報告されていない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ