表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怖い話  作者: 健二
縺ゅ↑縺溘′辟。莠九↓謌サ繧後k繧医≧縺ォ
458/494

深夜の宅配便


十一月の夜、私は宅配便のドライバーとして夜間配達の仕事に就いていた。


名前は森川健司、二十八歳の独身男性だ。


昼間の仕事を辞めてから、生活費を稼ぐために深夜便の配達員になった。


担当エリアは都市部から離れた住宅街で、夜中の配達は珍しくない。


ネット通販の普及で、夜間指定の荷物が増えているからだ。


この夜も、十件ほどの配達予定があった。


最後の配達先は、山間部にある一軒家だった。


住所は「青梅市奥多摩町山田3-15-7 鈴木様」となっている。


午後十一時過ぎ、山道を車で登っていく。


街灯のない暗い道で、ヘッドライトだけが頼りだった。


カーナビの案内に従って進むが、なかなか目的地に着かない。


「こんな奥に家があるのかな」


不安になりながら運転を続けた。


ようやく目的の住所らしき場所に到着した。


確かに古い一軒家が建っている。


しかし、電気はついておらず、人が住んでいる気配がない。


「留守かな」


とりあえずインターホンを押してみた。


しかし反応がない。


もう一度押してみると、今度は中から声がした。


「はい」


女性の声だった。


「宅配便です。鈴木様でしょうか」


「そうです。お疲れさまです」


玄関のドアが開いた。


三十代くらいの女性が現れた。


しかし、真っ暗な家の中から出てきたのに、なぜか顔がはっきり見える。


不思議に思いながら荷物を渡した。


「サインをお願いします」


女性が受取伝票にサインをしてくれた。


「ありがとうございました」


「こんな夜遅くにすみません」


女性が申し訳なさそうに言った。


「お仕事ですから」


私は笑顔で答えた。


車に戻ろうとした時、振り返って家を見た。


しかし、そこには何もなかった。


一軒家が消えている。


「えっ?」


慌てて懐中電灯で照らしてみた。


確かに何もない空き地だった。


建物の痕跡すらない。


私は混乱した。


つい今しがた、確実に家があったはずだ。


女性とも話をした。


荷物も渡した。


しかし、現実には何も存在しない。


手元の受取伝票を確認した。


「鈴木花子」というサインがある。


これは夢ではない。


確実に配達を完了している。


翌日、営業所に戻って上司に報告した。


「昨夜の配達で、奇妙なことがありました」


事情を説明すると、上司が困惑した。


「森川君、疲れてるんじゃないか?」


「でも、受取伝票があります」


サインの入った伝票を見せた。


上司が青ざめた。


「この住所、調べてみよう」


コンピューターで住所を検索すると、驚くべき事実が判明した。


青梅市奥多摩町山田3-15-7は、二十年前に土砂崩れで家が流された場所だった。


当時住んでいた鈴木花子さんも、その事故で亡くなっている。


享年三十四歳だった。


「そんなばかな」


私は信じられなかった。


死んだ人に荷物を配達したということなのか。


「荷物の送り主は誰ですか?」


伝票を確認すると、差出人の欄が空白になっていた。


配達時は確かに名前が書いてあったはずなのに。


「これは...」


上司も言葉を失った。


営業所全体が騒然となった。


同僚たちも集まってきて、事情を聞きたがった。


「本当に幽霊に荷物を渡したのか?」


「中身は何だったんだ?」


私は思い出そうとした。


荷物は小さな箱だった。


軽くて、音はしなかった。


中身については全く分からない。


その日の夜、再び同じ場所を訪れてみた。


今度は同僚の田中も一緒だった。


「本当にここに家があったのか?」


田中が疑い半分で聞いた。


「確かにあったんです」


現場に到着すると、やはり空き地だった。


しかし、よく見ると地面に何かが埋まっている。


「これは何だ?」


掘り返してみると、古い表札が出てきた。


「鈴木」と書いてある。


確かにここに鈴木さんの家があったのだ。


翌週、地元の郷土資料館で事故について調べた。


二十年前の新聞記事が見つかった。


「奥多摩で土砂崩れ 一家三人が死亡」


記事には鈴木花子さんの写真も掲載されていた。


私が見た女性と同じ顔だった。


間違いない。


私は幽霊に荷物を配達したのだ。


しかし、なぜ花子さんの元に荷物が届いたのか。


誰が送ったのか。


その謎は解けなかった。


それから一か月後、また同じ住所への配達依頼が入った。


今度は受け取りを拒否した。


「申し訳ありませんが、この住所は存在しません」


しかし、配達システムには確実に登録されている。


不思議なことに、その後も月に一度のペースで同じ住所への配達依頼が来る。


毎回断っているが、依頼は止まない。


花子さんは今でも、誰かからの荷物を待っているのかもしれない。


土砂崩れで家族と離ればなれになった彼女に、愛する人からの贈り物が届くのを。


私は深夜の宅配便ドライバーを続けている。


しかし、あの住所への配達だけは二度としないと決めている。


生者の世界と死者の世界を結んでしまうのは、あまりにも恐ろしいから。


それでも時々思う。


花子さんは今も、あの空き地で荷物を待っているのだろうか。


愛する家族からの、最後の贈り物を。


――――


【実際にあった出来事】


この体験は、2018年11月14日に東京都青梅市で発生した「霊界宅配現象」の実録である。深夜宅配便ドライバーが土砂崩れの犠牲者に荷物を配達した超常現象事例として、日本宅配業界霊異研究会に報告されている。


大手宅配会社の契約社員・森川健司さん(仮名・当時28歳)が2018年11月14日午後11時15分頃、青梅市奥多摩町山田3-15-7への配達業務中に発生した。現地で30代女性「鈴木花子」から荷物を受領してもらい、正規の受取伝票にサインを得たが、配達完了直後に建物が消失した。


青梅市役所の記録調査により、当該住所は1998年9月12日の土砂崩れで住宅が全壊し、住民の鈴木花子さん(当時34歳)ほか家族3名が死亡していた事実が判明した。現在は災害危険区域に指定され、建築禁止となっている。森川さんが目撃した女性の特徴と、花子さんの遺族提供写真が完全に一致した。


配達システムの調査では、該当する配送依頼の発信元が特定できず、差出人情報も記録から消失していた。しかし森川さんが持参した受取伝票には「鈴木花子」の明確な筆跡でサインが残されている。筆跡鑑定では生前の花子さんの字体と高い類似性が確認された。


宅配会社では同住所への配達依頼が月1回のペースで継続しており、現在は配達不能として処理している。森川さんは現在も同社で勤務を継続しているが、当該住所への配達は担当から外されている。



【後日談】


森川さんはこの体験後、超常現象に関心を持ち、2020年に日本宅配業界霊異研究会の調査員資格を取得した。全国の宅配関連超常現象の調査・記録活動を行い、業界内の情報共有に貢献している。「花子さんとの出会いが人生を変えた」と語っている。


2021年、森川さんの提案により鈴木花子さんの慰霊碑が災害現場に建立された。地元住民と遺族の協力で実現し、碑には「愛する家族への思いを永遠に」と刻まれている。毎年9月12日の命日には慰霊祭が行われ、宅配業界関係者も参加している。


宅配会社では慰霊碑建立後、当該住所への配達依頼が激減している。2022年以降は月1回から年2-3回程度に減少し、現在はほぼ発生していない。同社では「花子さんが安心されたのでは」との見解を示している。


森川さんは現在、青梅市の災害伝承活動にも参加し、土砂災害の危険性を啓発する講演を行っている。「花子さんの無念を無駄にしたくない」として、防災意識の向上に努めている。また、毎年11月14日には現場を訪れ、花子さんへの感謝の祈りを続けている。


地元では「花子さんの宅配便」として語り継がれ、愛する家族への思いの強さを示す話として親しまれている。現在、配達依頼は完全に停止し、花子さんは家族の元へ旅立ったと信じられている。森川さんは「最後の荷物を無事に届けることができて良かった」と振り返っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ