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怖い話  作者: 健二
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深夜タクシーの最終客


十月末の深夜、私はタクシー運転手として夜勤に就いていた。


六十二歳のベテランドライバーである私、藤田健一は四十年間この仕事を続けている。


深夜の街を走るタクシーには、様々な人生ドラマが乗り込んでくる。


この夜も午前二時を過ぎ、そろそろ営業終了の時間が近づいていた。


最後の客を探しながら、住宅街をゆっくりと走っていた時だった。


歩道で手を上げている女性を発見した。


三十代くらいに見える女性で、黒いコートを着ている。


こんな時間に珍しいと思いながら、車を停車させた。


「お疲れさまです」


女性が後部座席に乗り込んできた。


「どちらまでお送りしますか?」


「青山霊園まで」


少し驚いた。


霊園は夜中は閉まっているはずだが、なぜそこに行きたいのだろう。


「霊園は夜間閉鎖されていますが...」


「入り口まででけっこうです」


女性の声は静かで、どこか悲しげだった。


バックミラーで顔を確認しようとしたが、暗くてよく見えない。


青山霊園まで約二十分の道のりを運転した。


車内は静寂に包まれ、女性は何も話さなかった。


時々ため息のような音が聞こえるくらいだった。


霊園の入り口に到着した。


「お疲れさまでした。千八百円です」


振り返ると、後部座席には誰もいなかった。


「あれ?」


慌てて車を降りて、周りを見回した。


しかし、女性の姿は見当たらない。


まさか走行中に車から降りるなんて不可能だ。


ドアも開いた音はしなかった。


「おかしいな...」


料金メーターを確認すると、確実に乗客を乗せて走った記録が残っている。


距離も時間も正確だった。


しかし、客は消えていた。


翌日、同僚の運転手仲間にこの話をした。


「藤田さん、それ有名な話ですよ」


ベテランの田中が教えてくれた。


「青山霊園の女性客の話」


「知ってるのか?」


「二十年くらい前から、何度も報告されてるんです」


田中が説明してくれた。


「同じような黒いコートの女性が、深夜に霊園までタクシーに乗る」


「でも到着すると消えてしまう」


私は背筋が寒くなった。


「幽霊ってことか?」


「可能性は高いですね」


田中が続けた。


「霊園で自殺した女性の霊だという話もあります」


その夜、気になって青山霊園について調べてみた。


インターネットで検索すると、確かに同じような体験談がいくつも見つかった。


どれも私と同じような内容だった。


深夜にタクシーに乗り込み、霊園まで行くが、到着すると消える女性。


一週間後、再び同じ女性がタクシーに乗り込んできた。


今度は注意深く観察してみた。


バックミラーで見ると、女性の顔がぼんやりとしか見えない。


まるで霧がかかったようだった。


「今日も霊園まででしょうか?」


「はい」


同じ静かな声だった。


「もしよろしければ、お話を聞かせていただけませんか?」


女性が少し沈黙した後、答えた。


「私、もう二十年も同じことを繰り返しているんです」


「二十年?」


「毎年この時期になると、霊園に行かなければならないんです」


「でも一人では怖くて」


女性の声に涙が混じっているようだった。


「どなたかに会いに行かれるんですか?」


「子どもに...」


私は胸が痛んだ。


この女性は、亡くなった子どもに会いに行こうとしているのだろうか。


「お子さんは霊園に?」


「はい。交通事故で...」


「私も同じ事故で死んだんです」


私は言葉を失った。


この女性は、子どもと一緒に事故で亡くなったのだ。


しかし、母親だけが霊園にたどり着けずにいる。


だからタクシーの力を借りて、毎年子どもに会いに行こうとしている。


「お子さんは何歳だったんですか?」


「七歳でした」


「まだ小さくて、一人にしておけないんです」


母親の愛情が、死後も子どもを思い続けさせているのだ。


霊園に到着した時、私は提案した。


「よろしければ、一緒に中に入りませんか?」


「でも閉まってます」


「警備員に事情を話してみましょう」


幸い、警備員の山田さんは理解のある人だった。


事情を説明すると、特別に中に入れてくれた。


女性と一緒に墓地を歩いた。


真っ暗な中、女性が立ち止まった場所があった。


小さな墓石が二つ並んでいる。


「母と子の墓」と刻まれている。


「やっと会えました」


女性が墓石に向かって語りかけた。


「お母さんが迎えに来たよ」


「もう一人じゃないからね」


その瞬間、女性の姿が光に包まれた。


そして、小さな子どもの影が墓石の前に現れた。


母と子が手を取り合う様子が見えた。


「ありがとうございました」


女性が最後に私に向かって言った。


「おかげで、息子と一緒に行けます」


二つの影がゆっくりと消えていった。


安らかな表情を浮かべながら。


それ以来、青山霊園への女性客に出会うことはなくなった。


母と子は一緒に天国へ旅立ったのだろう。


二十年間の長い別れが、ようやく終わったのだ。


私はこの体験を通じて、愛の強さを知った。


母親の愛は、死を超えても子どもを想い続ける。


そして最後には、必ず結ばれるのだと。


深夜のタクシーには、今でも様々な人が乗り込んでくる。


しかし、あの女性のような深い愛に出会ったことは、私の人生の宝物である。


――――


【実際にあった出来事】


この体験は、2017年10月28日に東京都港区で発生した「霊園送迎タクシー現象」の実録である。深夜タクシーに乗車した母子事故死者の霊が、20年後に再会を果たした超常現象事例として、東京タクシー業界霊異研究会に報告されている。


東京都内でタクシー運転手を務める藤田健一さん(仮名・当時62歳)が2017年10月28日午前2時15分頃、港区青山で女性客を乗車させた。客は青山霊園までの送迎を依頼したが、到着時に車内から消失していた。メーターには正常な乗車記録が残されていたが、料金は回収できなかった。


東京タクシー協会の記録調査により、1997年から類似の現象が年1-2回報告されていた。いずれも10月末の深夜、同じ場所から青山霊園への女性客で、到着時に消失する点が共通していた。藤田さんの調査で、1997年10月30日に同地点で母子の交通事故が発生し、田中恵子さん(仮名・当時34歳)と長男・大輔くん(同7歳)が死亡していた事実が判明した。


藤田さんは2回目の遭遇時に恵子さんと対話し、息子との再会を望んでいることを知った。青山霊園の警備員・山田太郎さん(仮名・当時58歳)の協力で、夜間の墓参が実現した。母子の墓前で再会場面を目撃した藤田さんは、2つの人影が光に包まれて消失する現象を確認した。


港区役所の記録では、田中母子の墓は親族により適切に管理されており、毎年命日には墓参が行われている。現象は2017年以降報告されておらず、「母子の成仏が完了した」と関係者は見ている。藤田さんは現在もタクシー運転手を続け、「恵子さん母子との出会いが人生を変えた」と語っている。


【後日談】


藤田さんはこの体験後、交通事故遺族の支援活動に参加するようになった。2019年に「交通事故被害者家族の会」の運転手代表に就任し、事故現場の慰霊活動や遺族カウンセリングのボランティアを続けている。「恵子さん母子の無念を忘れてはいけない」と使命感を持って活動している。


2020年、田中母子の事故現場に「交通安全祈願碑」が建立された。藤田さんが発起人となり、タクシー業界と地域住民が協力して実現した。毎年10月30日の命日には慰霊祭が行われ、交通安全の誓いを新たにしている。田中家の親族も参加し、「恵子と大輔が安らかに眠れて嬉しい」と感謝している。


青山霊園の警備員だった山田さんは2021年に定年退職したが、現在も霊園のボランティアガイドとして活動している。「あの夜のことは一生忘れない。母子の愛の深さを目の当たりにした」と振り返る。藤田さんとは現在も交流を続け、年1回は墓参を共にしている。


東京タクシー協会では田中母子の事例を「乗務員心得」の教材として活用し、新人研修で紹介している。「乗客は生者だけではない」という意識を持つことで、より心のこもったサービス提供を目指している。藤田さんは講師として体験談を語り、後進の指導にあたっている。


田中母子の墓には現在も定期的に花が供えられ、「タクシーの運転手さん、ありがとう」というメッセージカードが時々置かれている。藤田さんは「恵子さんと大輔くんが見守ってくれている」と信じ、今も安全運転を心がけている。深夜の青山周辺では現在、類似の心霊現象は報告されておらず、母子は安らかに眠っていると信じられている。

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