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怖い話  作者: 健二
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古い写真現像所


十一月初旬、私は祖母の遺品整理で古いフィルムを大量に発見した。


未現像のまま放置されていた三十本ほどのフィルムだった。


私、川島美穂は東京でグラフィックデザイナーをしている三十二歳の独身女性である。


祖母は写真が趣味で、昭和の時代から膨大な量の写真を撮り続けていた。


しかし、晩年は認知症が進み、撮影したフィルムを現像せずに仕舞い込んでいたらしい。


デジタル全盛の現在、フィルム現像をしてくれる店は少ない。


インターネットで探すと、神奈川県の住宅街に老舗の現像所があることが分かった。


「田中写真現像所」という昭和三十年創業の店だった。


電話で問い合わせると、八十歳の店主が丁寧に対応してくれた。


「古いフィルムでも大丈夫ですよ。お持ちください」


翌日、電車を乗り継いで現像所を訪れた。


商店街の一角にある小さな店で、昭和の雰囲気が色濃く残っていた。


店主の田中さんは温和な表情の老人で、長年の経験を感じさせた。


「これはかなり古いフィルムですね」


田中さんがフィルムを丁寧に確認してくれた。


「昭和五十年代から六十年代のものが多いようです」


「現像できますか?」


「時間はかかりますが、大丈夫でしょう」


一週間後、現像が完了したとの連絡があった。


再び現像所を訪れ、大きな封筒に入った写真を受け取った。


「懐かしい写真がたくさんありますよ」


田中さんが微笑んでいた。


「お祖母さんは、本当に写真がお好きだったんですね」


帰宅してから写真を一枚ずつ確認した。


祖母の若い頃の写真、家族旅行の記録、季節の風景など、貴重な思い出が蘇った。


しかし、最後のフィルムの写真を見て、私は凍りついた。


そこには見覚えのない人物が写っていたのだ。


家族写真の中に、知らない男性が混じっている。


三十代くらいの男性で、古い背広を着ていた。


しかし、その男性だけが異様に薄く写り、透けて見える。


まるで二重露光のような不自然な写り方だった。


他の家族写真にも、同じ男性が写り込んでいる。


いつも家族の後ろに立ち、寂しそうな表情を浮かべていた。


私は不安になって、田中現像所に電話した。


「現像の際に、何か異常はありませんでしたか?」


田中さんが少し考えてから答えた。


「実は、そのフィルムを現像している時、奇妙なことがあったんです」


「どのような?」


「暗室で作業中、誰かに見られているような気配を感じました」


田中さんが小声で続けた。


「振り返っても誰もいないのですが、確実に人の気配があったんです」


私は背筋が寒くなった。


「その男性について、何か分かりませんか?」


「実は、以前にも同じような写真を現像したことがあります」


田中さんが説明してくれた。


「十年ほど前、別のお客様のフィルムにも同じ男性が写っていました」


「その時も、現像中に不思議な体験をしました」


私は震えながら聞いた。


「どんな体験ですか?」


「暗室で『ありがとう』という声が聞こえたんです」


「男性の声でした」


その夜、私は問題の写真を詳しく調べた。


拡大鏡で見ると、男性の表情がはっきり分かった。


深い悲しみを湛えた目をしている。


まるで、何かを訴えかけているようだった。


翌日、祖母の親戚に写真を見せて回った。


すると、祖母の妹である大叔母が驚いた反応を見せた。


「この人、もしかして良夫さんじゃない?」


「良夫さん?」


「お姉ちゃんの初恋の人よ」


大叔母が説明してくれた。


「戦争で亡くなった人なの」


私は息を呑んだ。


「佐藤良夫さんって言って、とても優しい人だったの」


「お姉ちゃんは、その人のことを生涯忘れなかった」


大叔母が続けた。


「結婚してからも、時々その人のことを話していたわ」


「『いつか再会したい』って」


私は胸が詰まった。


良夫さんは祖母を想い続け、写真に写り続けていたのだ。


その夜、私は良夫さんについて調べた。


戦死者名簿で確認すると、確かに佐藤良夫という名前があった。


昭和十九年、フィリピンで戦死、享年二十八歳だった。


祖母と同世代の青年だった。


翌日、良夫さんの墓を探した。


市内の墓地で見つけた時、涙が出そうになった。


「佐藤良夫 昭和十九年戦死 享年二十八歳」


墓石は古く、長い間手入れされていない様子だった。


私は花を供えて手を合わせた。


「良夫さん、祖母はあなたのことを忘れていませんでした」


風が吹いて、近くの木々が揺れた。


まるで良夫さんが答えているようだった。


その後、問題の写真をもう一度確認した。


すると、良夫さんの表情が変わっているように見えた。


以前より穏やかで、安らかな顔をしている。


まるで、祖母との再会を果たして安心したかのようだった。


私は写真を額に入れて、祖母の仏壇の前に飾った。


祖母と良夫さんが、天国で再会できたことを願って。


田中現像所に報告すると、田中さんも喜んでくれた。


「良かった。これで安心されたでしょう」


「暗室での気配も、感謝の印だったんですね」


それ以来、良夫さんが写真に写り込むことはなくなった。


しかし、祖母の写真を見るたびに、二人の深い愛を感じる。


時代に翻弄された恋人たちの物語。


写真という記録に残された、永遠の想い。


秋の夕暮れ、仏壇の前でその写真を見つめることがある。


きっと二人は、今頃天国で幸せに過ごしているだろう。


古い写真現像所は、そんな奇跡を呼び起こす場所だった。


――――


【実際にあった出来事】


この体験は、2018年11月に神奈川県藤沢市で発生した「戦死者霊写真出現現象」に基づいている。遺品整理中の女性が祖母の未現像フィルムから戦時中の恋人の霊的映像を発見し、供養を通じて成仏を促した現代の写真霊現象事例である。


東京都在住のグラフィックデザイナー川島美穂さん(仮名・当時32歳)が2018年11月上旬、亡祖母の遺品から発見した未現像フィルム30本を藤沢市の田中写真現像所で現像依頼した。現像された写真の中に、家族の誰も知らない男性が透けた状態で複数枚に写り込んでいることが判明した。男性は1940年代の服装で、常に家族の後方に寂しそうな表情で立っていた。


現像所の田中店主(80歳)の証言では、該当フィルムの現像中に「人の気配」と「ありがとう」という男性の声を聞いたという。過去にも類似の現象を経験しており、同じ男性と思われる人物が別の顧客の写真にも出現していた記録がある。川島さんの親族への聞き取り調査により、写真の男性は祖母の初恋の人「佐藤良夫さん」(昭和19年戦死・享年28歳)と特定された。


良夫さんは川島さんの祖母と恋人関係にあったが、太平洋戦争でフィリピンにて戦死していた。祖母は結婚後も良夫さんを忘れず、「いつか再会したい」と話していたことが親族の証言で確認されている。川島さんが良夫さんの墓参りを行った後、写真内の男性の表情が穏やかに変化し、以降の写真への出現は停止した。


神奈川県心霊現象研究所の分析では「未完成恋愛による写真媒体出現の稀少事例」と評価されている。戦死による恋愛の未完成と祖母への強い執着が、写真という記録媒体への霊的出現を促したと推定される。現在、良夫さんと祖母の写真は川島家の仏壇で大切に祀られ、両者の魂の安息が確認されている。


【後日談】


川島さんは良夫さんとの体験後、戦争の記憶と平和の大切さについて深く考えるようになった。2019年、地域の戦争体験継承活動に参加し、祖母と良夫さんの物語を語り継ぐ活動を開始した。毎年8月15日の終戦記念日には、良夫さんの墓参りを欠かさず行っている。「良夫さんの無念さと祖母の愛を後世に伝えたい」と川島さんは語っている。


2020年、川島さんは祖母と良夫さんの恋愛を題材とした写真展「永遠の愛~戦争に引き裂かれた恋人たち~」を開催した。会場には問題の写真も特別展示され、多くの来場者が感動の涙を流した。写真展は全国5都市を巡回し、約3万人が観覧した。戦争の悲劇と愛の尊さを伝える企画として高く評価されている。


田中写真現像所も川島さんの物語に感銘を受け、「平和の記録継承プロジェクト」に協力している。戦時中の貴重なフィルム現像を無償で行い、歴史的記録の保存に貢献している。川島さんは現在も定期的に現像所を訪れ、田中さんとの交流を続けている。「良夫さんが結んでくれた縁」として大切にしている。地域では「良夫さんと祖母の奇跡」として語り継がれ、平和学習の教材としても活用されている。写真に込められた想いの深さを多くの人に伝え続けている。

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