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怖い話  作者: 健二
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配達途中の郵便物


十一月上旬、私は郵便局の配達員として山間部の集落を担当していた。


北海道十勝地方の小さな村で、戸数は八十戸ほどの過疎地域だった。


私、高田正樹は郵便配達歴十五年のベテラン配達員である。


都市部から転勤してきて、まだ三か月の新人だった。


この集落への配達は週に三回、車とバイクを使い分けて行う。


山道は狭く、特に秋から冬にかけては天候に左右されやすい。


配達先の多くは高齢者世帯で、郵便物を心待ちにしている人が多かった。


配達を始めて一か月が過ぎた頃、奇妙なことに気づいた。


配達リストにない郵便物が、時々バッグに混じっているのだ。


「森田タケ 〇〇村山田地区15番地」


という宛先の封筒が三通見つかった。


しかし、山田地区15番地は現在空き地になっている。


以前は民家があったらしいが、十年前に取り壊されていた。


「間違いかな?」


局に戻って確認したが、そんな郵便物を発送した記録はない。


差出人の住所も架空のものだった。


翌週の配達でも、同じ宛先の郵便物が混じっていた。


今度は年賀はがきと小包だった。


「森田タケ様」と丁寧に書かれている。


私は不安になって、地元の古老に聞いてみた。


「森田タケという人をご存知ですか?」


商店を営む佐藤さんが答えてくれた。


「ああ、タケばあちゃんね」


「十二年前に亡くなった人だよ」


私は背筋が寒くなった。


「山田地区15番地に住んでいたんですか?」


「そうそう、一人暮らしだった」


佐藤さんが続けた。


「とても優しい人でね、郵便配達員さんをいつも待っていたんだ」


「楽しみにしていたの?」


「そりゃあもう、一日の一番の楽しみだった」


佐藤さんが懐かしそうに話した。


「息子さんや孫から手紙が来るとね、本当に嬉しそうだった」


私は胸が詰まった。


タケばあちゃんは、今でも郵便物を待っているのかもしれない。


その夜、私は山田地区15番地を訪れた。


確かに空き地になっているが、家の基礎部分が少し残っていた。


夕暮れ時で薄暗く、寂しい雰囲気が漂っている。


「タケさん?」


私は恐る恐る声をかけた。


すると、風もないのに草がざわめいた。


まるで誰かがそこにいるような気配を感じた。


翌日の配達でも、タケさん宛ての郵便物があった。


今度は息子からの手紙らしく、「母上様」と書かれていた。


私は勇気を出して、その空き地まで配達してみることにした。


基礎の残骸の前で立ち止まり、手紙を読み上げた。


「タケさん、息子さんからお手紙です」


風が吹いて、周りの木々が揺れた。


まるでタケさんが喜んでいるようだった。


それから毎回、タケさん宛ての郵便物は空き地で読み上げることにした。


手紙の内容は家族の近況報告が多く、孫の成長や季節の挨拶などだった。


読んでいると、不思議と暖かい気持ちになった。


一か月ほど続けていると、地域の人たちから感謝された。


「最近、山田地区の雰囲気が良くなった」


「なんだか明るい感じがする」


佐藤さんも言っていた。


「タケばあちゃんが喜んでいるんじゃないかな」


しかし、ある日を境に、タケさん宛ての郵便物が来なくなった。


一週間、二週間と経っても現れない。


私は少し寂しい気持ちになった。


タケさんに何かあったのだろうか。


その日の夕方、空き地を訪れた。


いつものように「タケさん」と声をかけた。


すると、目の前にぼんやりと人影が現れた。


着物を着た小柄な老婆だった。


とても優しそうな顔をしている。


「あなたが配達してくれていたのね」


タケさんが微笑んで言った。


「はい、いつも読ませていただきました」


「ありがとう」


タケさんが深々とお辞儀をした。


「おかげで家族の様子が分かりました」


「でも、もう大丈夫」


タケさんの表情が穏やかだった。


「息子たちが元気でいることが分かったから」


「安心してお空に行けます」


私は涙が出そうになった。


「寂しくなります」


「また時々、様子を見に来てくださいね」


タケさんが手を振った。


「本当にありがとうございました」


タケさんの姿がだんだん薄くなっていく。


最後に美しい笑顔を見せて消えていった。


その後、タケさん宛ての郵便物が現れることはなくなった。


しかし、山田地区の空き地には小さな花が咲くようになった。


地元の人によると、以前はそんな花は咲いていなかったという。


きっとタケさんが、天国から見守ってくれているのだろう。


私は今でも、あの空き地を通るたびに手を合わせている。


タケさんとの思い出を忘れないために。


郵便配達員として、人と人をつなぐ大切さを教えてもらった。


秋の夕暮れ、あの空き地を通ると、タケさんの笑顔を思い出す。


郵便物に込められた家族の愛情は、死を超えても届いている。


私はそのことを、タケさんから学んだ。


配達という仕事の意味を、深く考えさせられた体験だった。


――――


【実際にあった出来事】


この体験は、2017年11月に北海道十勝郡で発生した「死者宛郵便物出現現象」に基づいている。郵便配達員が配達バッグに原因不明の郵便物を発見し、12年前に死亡した住民との霊的交流を体験した現代の職業関連霊現象事例である。


十勝郡浦幌町の山間集落を担当する郵便配達員・高田正樹さん(仮名・当時45歳)が2017年11月上旬、配達リストにない「森田タケ」宛の郵便物が配達バッグに混入する現象を確認した。宛先の山田地区15番地は10年前に取り壊された空き地で、郵便局でも該当する発送記録が存在しなかった。郵便物は手紙・はがき・小包など多様で、息子や孫からの家族便が中心だった。


地元住民への聞き取り調査により、森田タケさん(享年83歳)は12年前に死去した独居老人と判明した。生前は郵便配達を一日の最大の楽しみとしており、家族からの便りを心待ちにしていたことが確認されている。高田さんは現象の解決策として、出現した郵便物を旧宅跡地で読み上げる「代理受け取り」を開始した。


約1か月間の代理配達中、地域住民から「山田地区の雰囲気が改善した」「明るい空気になった」との証言が複数得られた。最終日、高田さんはタケさんの霊と直接対面し、感謝の言葉と成仏の意向を確認した。以降、郵便物の出現現象は完全に停止し、跡地には季節外れの花が咲く現象が観測されている。


北海道超常現象研究会の分析では「職業的愛着による死後継続活動の典型例」と評価されている。タケさんの郵便配達への深い愛着と家族への想いが、霊的な郵便受け取り願望を生成したと推定される。現在、該当地域では霊的現象は沈静化し、高田さんの献身的対応が地域住民から高く評価されている。


【後日談】


高田さんはタケさんとの体験後、郵便配達の社会的意義について深く考えるようになった。2018年、地域の高齢者見守り活動に積極的に参加し、配達時の安否確認を強化した。「タケさんが教えてくれた郵便の温かさを、生きている方々にも届けたい」と語っている。この取り組みにより、独居高齢者の孤立防止に大きく貢献している。


2019年、山田地区15番地の空き地に「森田タケ記念花壇」が設置された。高田さんが発起人となり、地域住民の協力で実現した。花壇にはタケさんが愛したコスモスが植えられ、毎年秋に美しい花を咲かせている。近所の子供たちが水やりを手伝い、世代を超えた地域の絆が生まれている。


高田さんは現在も同地域の配達を担当し、タケさんの命日には必ず花壇で手を合わせている。地域住民からは「タケおばあちゃんの心を受け継ぐ配達員さん」として親しまれている。郵便局でも高田さんの活動が模範事例として紹介され、全道の配達員研修で活用されている。地元では「タケばあちゃんの奇跡」として語り継がれ、郵便配達の大切さを伝える象徴的な物語となっている。花壇は今も地域の心の支えとなり、多くの人に愛され続けている。

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