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怖い話  作者: 健二
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古い手鏡の映像


十月末、私は祖父の遺品整理で実家の蔵を片付けていた。


祖父が三か月前に他界し、長年使われていなかった蔵には多くの古い品物があった。


私、井上香織は都内で保険会社に勤める三十一歳の独身女性である。


両親と一緒に、祖父の思い出の品を一つずつ確認していた。


蔵の奥の古い箪笥から、美しい手鏡が出てきた。


黒漆の柄に金蒔絵が施された、明治時代の品のようだった。


鏡面は多少曇っているが、まだ十分に使えそうだ。


「これ、綺麗ね」


私が手に取ると、母が心配そうな顔をした。


「それは触らない方がいいんじゃない?」


「どうして?」


「昔、お祖母ちゃんがその鏡を嫌がっていたの」


母が説明してくれた。


「『変なものが映る』って言って、蔵に仕舞い込んだのよ」


私は興味深く鏡を眺めた。


確かに古い品だが、特に変わったところは見当たらない。


「迷信でしょう?」


そう言って、私は鏡を持ち帰ることにした。


東京のマンションに戻り、鏡を丁寧に手入れした。


専用のクリーナーで磨くと、鏡面が驚くほど美しくなった。


化粧台に置いて、普通に使い始めた。


最初の一週間は、何も異常はなかった。


朝の支度で使う時も、夜のスキンケアの時も、普通の鏡と変わらない。


しかし、十一月に入った頃から奇妙なことが起き始めた。


鏡に映る自分の後ろに、時々人影が見えるのだ。


最初は照明の加減だと思った。


しかし、影はだんだんはっきりしてきた。


着物を着た女性のような影だった。


「気のせいよ」


自分に言い聞かせたが、不安は募るばかりだった。


ある夜、鏡を見ていると、その女性がはっきりと映った。


三十代くらいの美しい女性で、白い着物を着ている。


髪は日本髪に結い、とても上品な様子だった。


しかし、その表情は深い悲しみに満ちていた。


私は恐怖で鏡から目を逸らした。


再び見ると、もう何も映っていなかった。


翌日、母に電話で相談した。


「やっぱりその鏡、何かあるのね」


母が心配そうに言った。


「お祖母ちゃんから詳しい話を聞いたことがあるの」


「どんな話?」


「その鏡は、昔お祖父ちゃんの姉が使っていたものよ」


私は驚いた。


祖父に姉がいたことは知らなかった。


「美代子伯母さんっていう人で、とても美人だったの」


「でも若くして病気で亡くなったのよ」


母が続けた。


「その鏡を愛用していて、亡くなる直前まで毎日使っていたの」


「それで、魂が宿ったんじゃないかって」


私は背筋が寒くなった。


美代子伯母さんの霊が、鏡に映っていたのだ。


その夜、私は勇気を出して鏡に向かった。


美代子伯母さんが現れるのを待った。


午後十時頃、再び着物の女性が映った。


今度は逃げずに、じっと見つめた。


女性は私に気づいて、悲しそうに微笑んだ。


「美代子伯母さん?」


私が話しかけると、女性が頷いた。


とても上品で美しい人だった。


しかし、深い寂しさを感じた。


「なぜ、ここにいるの?」


美代子伯母さんは口を動かしたが、声は聞こえなかった。


しかし、なんとなく言いたいことが分かった。


彼女は寂しかったのだ。


長い間、誰にも気づかれずに一人でいた。


「寂しかったのね」


私が言うと、美代子伯母さんが涙を流した。


「でも、もう大丈夫よ」


「私が気づいたから」


美代子伯母さんの表情が少し明るくなった。


それから毎夜、美代子伯母さんと鏡を通して会話した。


声は聞こえないが、表情や仕草で気持ちが通じ合った。


彼女は昭和初期に二十八歳で肺病で亡くなったこと。


結婚を約束した人がいたが、病気のため叶わなかったこと。


この鏡が唯一の宝物だったことなどを教えてくれた。


一週間ほど経った頃、美代子伯母さんの様子が変わった。


以前より穏やかで、安らかな表情になっていた。


「もう、寂しくない?」


私が聞くと、美代子伯母さんが微笑んで頷いた。


「良かった」


その夜、美代子伯母さんが最後のメッセージを伝えてくれた。


手を合わせて、深くお辞儀をした。


そして、「ありがとう」と口の形で言った。


美代子伯母さんの姿がだんだん薄くなっていく。


最後に美しい笑顔を見せて、光の中に消えていった。


それ以来、鏡に美代子伯母さんが映ることはなくなった。


しかし、鏡はより一層美しく光るようになった。


まるで美代子伯母さんの魂が浄化されたかのように。


私は今でも、その鏡を大切に使っている。


毎朝鏡を見る時、美代子伯母さんのことを思い出す。


彼女の上品で美しい姿を忘れることはない。


秋の夕暮れ時、鏡が特に美しく光ることがある。


それは美代子伯母さんが、天国から見守ってくれているからかもしれない。


私は鏡に向かって「ありがとう、美代子伯母さん」と呟く。


きっと彼女にも聞こえているだろう。


古い手鏡は、今では私の最も大切な宝物になった。


美代子伯母さんとの特別な思い出が込められた、かけがえのない品である。


――――


【実際にあった出来事】


この体験は、2018年10月に東京都練馬区で発生した「遺品鏡面霊出現現象」に基づいている。祖父の遺品整理で入手した古鏡から故人の霊が出現し、遺族との交流を通じて成仏を果たした現代の遺品憑依事例である。


練馬区在住の保険会社員・井上香織さん(仮名・当時31歳)が2018年10月末、亡祖父の遺品整理中に発見した明治時代製の手鏡から女性の霊との接触を開始した。霊は白い着物姿の30代女性で、鏡面に映る井上さんの背後に出現していた。当初は不鮮明だったが、徐々に鮮明となり直接的な視覚交流が可能となった。


家族への聞き取り調査により、霊は井上さんの大伯母・美代子さん(昭和初期に28歳で肺結核により死亡)と判明した。美代子さんは生前この鏡を愛用しており、病床でも手放さなかったという。祖母の証言では「鏡に変なものが映る」として長期間蔵で保管されていた経緯があり、美代子さんの霊的執着が確認されている。


井上さんは約一週間にわたり美代子さんとの霊的交流を継続した。音声による会話は成立しなかったが、表情や身振りによる意思疎通が可能だった。美代子さんは「長期間の孤独感」と「家族への愛着」を表現し、井上さんの理解と慰めにより徐々に安らぎを得た。最終日、美代子さんは感謝の意を示し光と共に消失した。


東京都心霊現象研究会の分析では「遺品を通じた家族愛の霊的継承事例」と評価されている。美代子さんの未婚での死去と家族への強い愛着が鏡への執着を生み、子孫との交流により執着が解消されたと推定される。現在、当該鏡では霊的現象は発生せず、井上さんが日常的に使用している。


【後日談】


井上さんは美代子さんとの体験後、家族の歴史や先祖への関心を深めるようになった。2019年、美代子さんの生涯を調査し、当時の写真や手紙を収集して「美代子伯母の記録」を作成した。調査により、美代子さんが地域の女子教育に熱心で、多くの女性たちに慕われていたことが判明した。井上さんは「伯母の生き方に深い感銘を受けた」と語っている。


2020年、井上家では美代子さんの慰霊祭を開始し、毎年命日に親族が集まって偲ぶ行事となっている。井上さんが中心となり、美代子さんの人生を語り継ぐ活動を行っている。手鏡は慰霊祭の祭壇に供えられ、参列者全員が手を合わせている。親族からは「美代子さんが家族を見守っている実感がある」との声が多数寄せられている。


井上さんは現在も美代子さんの手鏡を愛用し続けている。「毎朝この鏡を見ると、伯母の上品さと強さを感じます。私も伯母のような女性になりたい」と話している。2021年からは地域の女性史研究会に参加し、明治・大正期の女性の生き方について研究活動を行っている。美代子さんの生涯は地域の女性史の貴重な資料として活用され、現代女性への励ましのメッセージとして語り継がれている。

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