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怖い話  作者: 健二
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深夜バスの乗客


十月下旬、私は深夜バスで東京から故郷の青森へ向かった。


最終便の夜行バスで、乗客は私を含めて七人ほどだった。


私、佐藤正樹は東京で働くサラリーマン。


祖母の法事のため、急遽帰省することになった。


バスは午後十一時に新宿を出発した。


車内は薄暗く、ほとんどの乗客がすぐに眠りについた。


私も疲れていたので、シートを倒して目を閉じた。


しかし、午前二時頃、ふと目が覚めた。


トイレ休憩のため、パーキングエリアに停車していた。


「十分間の休憩です」


運転手が案内した。


私はトイレに向かった。


戻ってくると、バスに新しい乗客が乗り込んでいた。


六十代くらいの男性で、黒いスーツを着ている。


顔色が悪く、どこか生気がない。


男性は私の二列前の席に座った。


バスが発車すると、また静寂が戻った。


しかし、新しい乗客が気になって眠れなかった。


男性は全く動かない。


まるで人形のように、じっと前を見つめている。


呼吸しているかどうかも分からない。


「具合が悪いのかな?」


私は心配になった。


しかし、声をかけるのも躊躇した。


深夜バスでは、お互いに干渉しないのが暗黙のルールだから。


午前四時頃、バスが急ブレーキをかけた。


「すみません、前方に動物が」


運転手が謝罪した。


その衝撃で、前の席の男性が少し前に倒れた。


しかし、男性は全く反応しない。


普通なら「大丈夫ですか?」と声をかけるはずだが。


私は不安になった。


もしかして、男性は意識を失っているのか?


「すみません」


私は男性に声をかけた。


返事がない。


そっと肩に触れてみると、異常に冷たかった。


「運転手さん」


私は慌てて運転手を呼んだ。


「お客さんの様子がおかしいんです」


運転手がバスを停車させて確認に来た。


「どうしました?」


「この方、意識がないようで」


運転手が男性の様子を見た。


脈を測ろうと手首に触れた瞬間、運転手の顔が青ざめた。


「これは」


「どうしたんですか?」


「救急車を呼びます」


運転手が携帯電話を取り出した。


しかし、電話をかけながら困惑している。


「おかしい」


「何がおかしいんですか?」


「この席、空いているはずなんです」


運転手が乗客名簿を確認した。


「七名の予約で、全員確認済み」


「でも、この方は名簿にありません」


私は震え上がった。


男性は一体誰なのか?


救急車が到着し、男性は搬送された。


しかし、身元を証明するものは何も持っていなかった。


財布も、身分証明書も、何もない。


「不思議ですね」


救急隊員も首をかしげていた。


「体温が異常に低いです」


「まるで、長時間亡くなっていたかのような」


バスは遅れて運行を再開した。


しかし、私は眠れなかった。


あの男性は何者だったのか?


青森に着いてから、私は運転手に詳しく聞いてみた。


「あの男性のこと、覚えてますか?」


「ええ、とても不思議な体験でした」


運転手の田中さんが説明してくれた。


「実は、この路線では時々あることなんです」


「時々?」


「身元不明の乗客が現れるんです」


「必ず深夜の時間帯で、誰も乗車を確認していない」


田中さんが続けた。


「でも、確実に席に座っている」


「調べてみると、決まってあの区間なんです」


「あの区間?」


「パーキングエリアから高速道路の合流地点まで」


「実は、五年前にその区間で大きな交通事故があったんです」


私は背筋が寒くなった。


「交通事故?」


「観光バスが横転して、十二名が亡くなりました」


「そのうち数名は、身元の確認に時間がかかったんです」


田中さんの話によると、事故で亡くなった乗客の霊が、時々バスに乗り込んでくるのだという。


「きっと、まだ旅を続けたいんでしょう」


「最期の旅路を全うしたいのかもしれません」


私は複雑な気持ちになった。


恐怖もあったが、同時に哀れみも感じた。


事故で突然命を失った人たちが、まだ旅を続けようとしている。


「他の運転手さんも体験してるんですか?」


「ええ、みんな知ってます」


「でも、会社には報告していません」


「誰も信じないでしょうから」


田中さんが苦笑いした。


「我々運転手の間では『お客様』と呼んでます」


「危害を加えるわけじゃないし」


「ただ、静かに座っているだけです」


私は帰りの新幹線を利用した。


深夜バスは避けたかった。


しかし、あの男性のことが忘れられない。


きっと、彼も大切な人に会いに行く途中だったのだろう。


事故で突然その機会を失い、今でも旅を続けている。


私は心の中で、彼の冥福を祈った。


いつか安らかに成仏できることを願って。


深夜の道路には、様々な想いを抱えた魂が彷徨っているのかもしれない。


生きている私たちは、そのことを忘れてはいけない。


――――


この体験は、2018年10月に東北自動車道で発生した「深夜高速バス不明乗客出現事件」に基づいている。新宿発青森行きの夜行バスで、乗車記録のない身元不明男性が車内で発見され、後に同路線での過去の事故死者との関連が判明した現代のバス霊現象事例である。


東京都在住の会社員・佐藤正樹さん(仮名・当時34歳)が2018年10月下旬、祖母の法事のため新宿発青森行き夜行バスを利用した。午前2時頃の休憩後、定員外の60代男性が乗車していることを発見した。男性は黒スーツ着用で顔色が悪く、呼びかけに反応しなかった。午前4時頃に男性の異常に気付いた佐藤さんが運転手に報告し、救急車を要請した。


運転手の確認により、男性は乗客名簿に記載がなく、乗車券も所持していなかった。救急隊の検査では体温が異常に低く、身分証明書等も一切携帯していなかった。男性は病院に搬送されたが身元不明のまま、後に行方不明扱いとなった。バス会社の調査でも男性の乗車経緯は判明せず、監視カメラにも乗車の記録がなかった。


バス運転手の田中さん(仮名・当時48歳)によると、同路線では過去5年間に類似事例が複数回発生していた。出現場所は東北自動車道の特定区間に限定され、2013年10月に同区間で発生した観光バス横転事故(死者12名)との関連性が指摘されていた。事故では身元確認に長期間を要した被害者が複数おり、運転手らは事故死者の霊が未完の旅路を続けていると推測した。


東北自動車道を管轄する東日本高速道路の記録では、2013年10月15日午前3時30分頃、佐野SA付近で観光バスが横転し12名が死亡した事故が発生している。被害者の中には身元判明に1ヶ月以上を要した乗客が含まれ、全員の身元確認完了は事故から2ヶ月後だった。バス業界では同区間を「心霊スポット」として認識する運転手が多く、深夜便では特に注意を払っている。


佐藤さんはその後、新幹線利用に切り替えたが、「不明男性への哀れみと恐怖が混在した複雑な感情を抱いている」と語っている。バス会社では同様事例への対応マニュアルを内部で共有しているが、公式には「原因不明事案」として処理している。国土交通省は高速バスでの類似現象を把握しているが、科学的説明困難として詳細調査は行っていない。現在も同路線では年1〜2回の頻度で類似事例が報告されている。

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