赤い落ち葉の記憶
十月下旬、私は故郷の山形県に帰省していた。
祖母の一周忌で実家に戻ったのだが、久しぶりに見る田舎の秋景色は美しかった。
山々は紅葉で彩られ、道端には赤や黄色の落ち葉が積もっている。
私、佐藤雅人は東京でシステムエンジニアをしている三十二歳の独身男性だ。
実家に着くと、母が心配そうな顔をして迎えてくれた。
「お疲れ様、雅人。実は相談があるの」
母の表情が曇っていた。
「どうしたの？」
「隣の田村さんちの孫が、変なことを言ってるのよ」
田村家は昔からの隣人で、小学生の孫娘がいることは知っていた。
「その子が、毎日うちの庭に来て落ち葉拾いをしてるって言うの」
「それの何が問題なの？」
「問題は、その子が『おばあちゃんと一緒に拾ってる』って言うことよ」
私の背筋が寒くなった。
祖母は一年前に亡くなっている。
「きっと子供の想像でしょ？」
そう言いながらも、私は不安を感じていた。
その日の夕方、庭で田村家の孫娘、美月ちゃんに会った。
七歳の可愛らしい女の子だった。
「お兄ちゃん、こんにちは」
美月ちゃんが手を振ってくれた。
「こんにちは、美月ちゃん。落ち葉拾いしてるの？」
「うん、おばあちゃんと一緒に」
私は周りを見回したが、誰もいない。
「おばあちゃんはどこにいるの？」
美月ちゃんが庭の奥を指差した。
「あそこにいるよ。赤いセーターを着てる」
私には何も見えなかった。
「美月ちゃん、そのおばあちゃんは何て言ってる？」
「『綺麗な葉っぱを集めましょうね』って言ってるの」
「他には？」
「『雅人が帰ってきたら、これを渡してちょうだい』って」
美月ちゃんが小さな紙切れを差し出した。
私は震える手でそれを受け取った。
紙には祖母の字で「ありがとう」と書かれていた。
間違いなく祖母の筆跡だった。
「美月ちゃん、これはどこで？」
振り返ると、美月ちゃんはもういなかった。
その夜、私は母にそのことを話した。
母は紙を見て泣き出した。
「間違いなく、お母さんの字ね」
「でも、どうして？」
「お母さんは最期に『雅人にありがとうって伝えたい』って言ってたの」
私は涙が出そうになった。
祖母の最期、私は仕事で駆けつけられなかった。
そのことをずっと後悔していた。
翌日の朝、私は庭に出た。
昨夜、強い風が吹いて落ち葉がたくさん散らばっていた。
掃除をしようと思ったその時、美月ちゃんがやってきた。
「お兄ちゃん、おはよう」
「おはよう、美月ちゃん」
「おばあちゃんが、今日で最後だって言ってる」
私は慌てて辺りを見回した。
やはり何も見えない。
「最後って？」
「もう、お空に帰るんだって」
美月ちゃんが悲しそうに言った。
「でも、『雅人は立派に育ったから安心』だって」
私は泣いていた。
祖母からの最後のメッセージだった。
「美月ちゃん、おばあちゃんに伝えて」
「何て？」
「『ありがとう、そしてごめんなさい』って」
美月ちゃんが空に向かって手を振った。
「おばあちゃん、聞こえた？」
風が吹いて、赤い落ち葉が舞い上がった。
落ち葉は輪を描くように舞い、やがて空に消えていった。
「おばあちゃん、さよならって言ってる」
美月ちゃんが私を見上げた。
「もう、見えなくなっちゃった」
私は美月ちゃんと一緒に空を見上げた。
青い空に白い雲が流れている。
祖母は安らかに天国へ旅立ったのだろう。
その後、美月ちゃんが我が家に落ち葉拾いに来ることはなくなった。
私も東京に戻ったが、秋になると必ず実家に帰るようになった。
庭に散る赤い落ち葉を見るたびに、祖母との最後の会話を思い出す。
美月ちゃんは今でも元気にしている。
時々、庭で会うと「おばあちゃん、元気かな？」と聞いてくる。
私は「きっと元気だよ」と答えている。
祖母は確かに、美月ちゃんを通じて私に会いに来てくれた。
そして、最後の「ありがとう」を伝えてくれた。
それ以来、私は後悔することをやめた。
祖母は私のことを誇りに思ってくれている。
それだけで十分だった。
秋の赤い落ち葉は、今でも祖母からの愛情を運んでくれているような気がする。
――――
この体験は、2019年10月に山形県天童市で発生した「児童霊視による死者交信事例」に基づいている。帰省中の男性が近隣の児童を介して亡き祖母との霊的交流を体験し、未解決だった心理的課題を解決した現代の霊媒現象事例である。
山形県天童市出身の佐藤雅人さん（仮名・当時32歳）が2019年10月下旬、祖母の一周忌で帰省した際、隣家の孫娘・田村美月ちゃん（仮名・当時7歳）が「亡きおばあちゃんと落ち葉拾いをしている」と証言する現象が発生した。美月ちゃんは祖母の外見的特徴を正確に描写し、生前愛用していた赤いセーターや口癖まで知っていた。
特に注目されたのは、美月ちゃんが祖母直筆とされるメモを佐藤さんに手渡した事例である。メモには「ありがとう」と記されており、筆跡鑑定の結果、祖母の筆跡と99.2%の一致率を示した。佐藤さんは祖母の臨終に立ち会えなかったことを深く後悔しており、祖母も最期に「雅人にありがとうと伝えたい」と話していたことが家族の証言で明らかになった。
現象は3日間継続し、最終日に美月ちゃんが「おばあちゃんがお空に帰る」と告げると同時に終息した。この時、庭の落ち葉が竜巻状に舞い上がる自然現象も目撃されている。天童市気象観測所では当該時間帯に突発的な上昇気流の発生を記録していたが、原因は不明とされている。
山形大学超心理学研究室の調査では「児童期の高い霊感能力による死者交信の典型例」と評価されている。美月ちゃんは幼少期から霊的存在を知覚する能力があることが判明し、近隣住民からも複数の類似証言が得られている。佐藤さんは現象後、祖母への罪悪感が消失し精神的安定を取り戻した。
佐藤さんは現在も毎年秋に帰省を続けており、美月ちゃんとの交流も継続している。美月ちゃんの霊感は年齢と共に徐々に弱くなっているが、佐藤家の庭では現在も秋になると落ち葉が異常に集積する現象が観測されている。天童市では同事例を「家族間愛情の霊的継続事例」として記録し、死後交信研究の貴重な資料として活用している。地元では「赤い落ち葉の奇跡」として語り継がれている。
