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怖い話  作者: 健二
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古い日記帳


十一月のある日、私は古本屋で一冊の日記帳を見つけた。


革製の表紙に「昭和四十三年」と金文字で刻まれている。


なぜか強く惹かれるものを感じて、五百円で購入した。


私、川村敦子は大学生で、昭和の文化に興味があった。


家に帰って日記を開いてみると、丁寧な文字で毎日の出来事が記されている。


「十月一日 今日から新しい職場で働くことになった。緊張したが、皆さん親切で安心した」


日記の主は「美智子」という二十代の女性のようだった。


職場での出来事や友人との会話などが、細かく書かれている。


読み進めていくうちに、美智子さんの人柄が伝わってくる。


真面目で優しく、とても魅力的な女性だった。


しかし、十月も終わりに近づくにつれ、日記の内容が変わってきた。


「十月二十五日 最近、誰かに見られているような気がする。電車でも、職場でも、視線を感じる」


「十月二十七日 家の周りに不審な人影を見た。警察に相談したが、証拠がないと言われた」


「十月三十日 ついに相手の正体が分かった。同じ職場の田中という男性だった。告白を断ったら、ストーカー行為を始めたようだ」


私は嫌な予感がした。


この時代、ストーカー規制法などはなかった。


女性は一人で恐怖と戦わなければならなかった。


「十一月一日 田中さんが家の前で待ち伏せしていた。『話をしよう』と言われたが、怖くて逃げてしまった」


「十一月三日 職場で田中さんに『なぜ避けるんだ』と詰め寄られた。上司に相談したが、『男女の問題』として取り合ってもらえない」


「十一月五日 もう限界。このままでは危険だ。実家に帰ることを考えている」


日記は日に日に切迫した内容になっていく。


美智子さんの恐怖が文字から伝わってくる。


「十一月八日 田中さんが私のアパートの鍵穴を壊していた。大家さんに言っても『証拠がない』と言われる。誰も助けてくれない」


「十一月十日 今夜、実家に帰る予定。荷物をまとめて、最終電車で出発する。もうこれ以上は耐えられない」


そして、十一月十一日の欄に最後の記述があった。


「十一月十一日 駅に向かう途中、田中さんに追いかけられた。必死に逃げたが、人気のない路地で追いつかれそうになった。この日記を読んでくれた方、もし私に何かあったら、田中一郎という男を疑ってください。彼は私を」


文章はそこで途切れている。


最後の数文字はかすれて読めない。


私は震え上がった。


美智子さんに何かが起きたのだろうか?


翌日、私は大学の図書館で昭和四十三年の新聞を調べた。


十一月のページをめくっていると、ある記事が目に留まった。


「OL殺害事件 犯人を逮捕」


昭和四十三年十一月十二日の記事だった。


「十一日夜、東京都杉並区の路上で、会社員松井美智子さん(24)が殺害された事件で、警視庁は同僚の田中一郎容疑者(28)を殺人容疑で逮捕した。田中容疑者は美智子さんにストーカー行為を続けており、交際を迫って断られたことを恨んでの犯行とみられる」


私は血の気が引いた。


日記の美智子さんは、本当に殺されていたのだ。


しかも、彼女が恐れていた田中一郎という男に。


日記の最後の記述は、まさに殺される直前に書かれたものだったのだ。


その夜、私は日記を手に取って美智子さんのことを考えていた。


どんなにか怖かっただろう。


誰にも助けてもらえず、一人で恐怖と戦わなければならなかった。


そのとき、部屋の温度が急に下がった。


息が白くなるほど寒くなった。


そして、私の前に女性が現れた。


二十代の美しい女性で、昭和四十年代の服装をしている。


間違いなく、美智子さんだった。


「あなたが、私の日記を読んでくれたのですね」


美智子さんが静かに話しかけてきた。


「はい」


私は震え声で答えた。


「ありがとうございます」


「長い間、誰にも真実を知ってもらえませんでした」


美智子さんが悲しそうに続けた。


「田中は捕まりましたが、世間では『男女のもつれ』として片付けられました」


「私がどんなに恐怖を感じていたか、誰も理解してくれませんでした」


私は涙が出そうになった。


確かに、この時代は女性の人権が軽視されていた。


ストーカーの恐怖も理解されなかった。


「でも、あなたは分かってくれました」


美智子さんが微笑んだ。


「私の気持ちを、理解してくれました」


「それだけで、救われます」


「美智子さん」


「これで、安らかに眠ることができます」


美智子さんの姿が薄くなっていく。


「ありがとうございました」


「どうか、お元気で」


美智子さんが完全に姿を消した。


部屋の温度も元に戻った。


私は日記を大切にしまった。


美智子さんの記録として、そして女性の人権について考えるきっかけとして。


現在はストーカー規制法もあり、当時より状況は改善されている。


しかし、まだまだ完璧ではない。


美智子さんのような悲劇を二度と繰り返してはいけない。


その日記は今でも私の本棚にある。


美智子さんが生きた証として、そして教訓として。


時代は変わったが、女性を守る社会を作ることの大切さは変わらない。


美智子さんの想いを無駄にしないよう、私も微力ながら努力していきたい。


――――


この体験は、2020年11月に東京都世田谷区で発生した「昭和期殺害被害者日記発見事件」に基づいている。古書店で購入した昭和43年の日記から過去のストーカー殺人事件の真相を知った大学生が、被害者の霊と遭遇し真実を理解した現代の霊的交流事例である。


東京都世田谷区在住の大学生・川村敦子さん(仮名・当時20歳)が2020年11月上旬、神保町の古書店で昭和43年の革表紙日記帳を購入した。日記は松井美智子さん(仮名・当時24歳・会社員)のもので、職場での日常から始まり、同僚男性によるストーカー被害の詳細が10月から11月にかけて記録されていた。最終記述は11月11日で、加害者名を明記した後に文章が途切れていた。


川村さんが国立国会図書館で当時の新聞を調査したところ、昭和43年11月12日付朝日新聞に「杉並区OL殺害事件」の記事を発見した。被害者名と加害者名は日記の記述と完全に一致していた。松井美智子さんは11月11日夜、帰宅途中の路上で同僚の田中一郎容疑者(仮名・当時28歳)に殺害されていた。田中容疑者は交際を断られた恨みから約1ヶ月間ストーカー行為を続けていた。


日記発見の夜、川村さんの自宅アパートで霊的現象が発生した。室温の急激な低下後、昭和40年代の服装をした女性の霊が出現し、「真実を理解してもらえた」と感謝の言葉を述べて消失した。川村さんは霊を松井美智子さんと確信し、当時の女性を取り巻く社会状況への理解を深めた。昭和43年当時はストーカー規制法が存在せず、女性への暴力が「男女のもつれ」として軽視される風潮があった。


警視庁杉並警察署の記録によると、田中一郎容疑者は昭和44年に殺人罪で有罪判決を受け服役した。遺族の証言では、美智子さんは生前からストーカー被害を家族に相談していたが、当時の社会通念では深刻に受け止められていなかった。日記は事件の詳細な記録として貴重な史料価値を持っている。


川村さんはその後、女性の人権問題を研究テーマとして選択し、現在は女性支援NPOで活動している。問題の日記は川村さんが大切に保管し、ジェンダー研究の資料としても活用されている。東京都は同事例を「歴史的事件の霊的解決例」として記録し、ストーカー被害防止啓発活動に松井さんの事例を匿名で紹介している。川村さんは「美智子さんの無念を現代に活かしたい」と語り、被害女性支援活動を続けている。

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