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怖い話  作者: 健二
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帰らない電話


十月末のハロウィンの夜、私の携帯電話に見知らぬ番号から着信があった。


「誰だろう」


私、松本美香は二十四歳の看護師。


夜勤明けで疲れていたが、仕事関係の電話かもしれないと思って出た。


「はい、松本です」


「美香ちゃん?」


聞き覚えのない女性の声だった。


「どちら様でしょうか」


「私よ、分からないの?」


声は若い女性で、どこか親しみやすい調子だった。


しかし、全く心当たりがない。


「申し訳ありませんが、お名前を教えていただけますか」


「ひどい、忘れちゃったの?」


女性が悲しそうに言った。


「私たち、親友だったじゃない」


私は記憶を辿ったが、思い出せない。


「すみません、間違い電話では?」


「違うわ、美香ちゃんの番号よ」


女性が番号を言った。


確かに私の携帯番号だった。


「でも、私には心当たりが」


「また今度電話するね」


女性がそう言って電話を切った。


私は首をかしげた。


「変な人だったな」


翌日の夜、また同じ番号から電話があった。


今度は出なかった。


しかし、留守番電話にメッセージが入っていた。


「美香ちゃん、なぜ出てくれないの?」


昨日と同じ女性の声だった。


「私、とても寂しいの」


「お話がしたいの」


「また電話するから、必ず出てね」


声にはどこか切迫感があった。


まるで、本当に私を知っているかのようだった。


三日目の夜、また電話があった。


今度は出てみることにした。


「もしもし」


「美香ちゃん!」


女性が嬉しそうに声を上げた。


「出てくれたのね」


「あの、本当にどちら様ですか?」


「私、千春よ」


千春という名前にも覚えがない。


「高校の時の親友じゃない」


「高校?どちらの高校ですか?」


「県立北高校よ」


私は驚いた。


確かに私は県立北高校の出身だった。


しかし、千春という同級生は記憶にない。


「もしかして、違う美香さんでは?」


「違うわ、松本美香ちゃんよ」


「一年三組だったでしょう?」


私は一年三組だった。


偶然にしては出来すぎている。


「担任は田村先生」


それも正しかった。


「千春さん、お会いしたことありますか?」


「もちろんよ、毎日一緒にいたじゃない」


「一緒にお弁当食べたり、部活も一緒だった」


私は混乱した。


高校時代の記憶は鮮明にあるが、千春という友人はいなかった。


「すみません、覚えていないんです」


「そんな、ひどい」


千春が泣きそうな声になった。


「私のこと、本当に忘れちゃったの?」


「事故の日のことも?」


「事故?」


「修学旅行のバス事故よ」


私は血の気が引いた。


高校二年の修学旅行で、確かにバス事故があった。


幸い、死者は出なかったが、何人か怪我人が出た。


私も軽傷を負った記憶がある。


「千春さんも怪我をしたんですか?」


「私は」


千春の声が小さくなった。


「私は死んじゃったの」


私は電話を落としそうになった。


「死んだ?」


「バスから放り出されて、頭を打って」


「その場で死んじゃった」


私は震え上がった。


死んだ人から電話がかかってきているのか。


「でも、あの事故で死者は」


「隠蔽されたのよ」


千春が悲しそうに言った。


「学校の責任問題になるから」


「私の死は秘密にされた」


「家族にも口止めされた」


私は頭が混乱した。


本当にそんなことがあったのだろうか。


「なぜ僕に電話を?」


「あなたが一番の親友だったから」


「事故の時、私の手を握ってくれた」


「最後に見た顔があなただった」


千春の声が泣いている。


「でも、あなたは記憶を失った」


「事故のショックで、私との思い出を忘れてしまった」


「それでも、私はあなたを覚えてる」


私は涙が出てきた。


本当なら、なんて悲しい話だろう。


親友の死を忘れてしまうなんて。


「ごめんね、千春」


「思い出せなくて」


「いいの、仕方ないわ」


千春が優しく言った。


「でも、時々でいいから思い出して」


「私がいたことを」


「約束するわ」


それから毎晩、千春から電話がかかってくるようになった。


高校時代の思い出話をしてくれた。


私が忘れてしまった、千春との日々。


一緒に勉強したこと、部活で頑張ったこと、恋の相談をしたこと。


どれも具体的で、リアルだった。


まるで本当にあったことのように感じられた。


しかし、一週間後に恐ろしいことが起こった。


千春が言った。


「美香ちゃん、もう電話やめるね」


「なぜ?」


「私、成仏することにしたの」


「でも」


「最後にお願いがあるの」


「何?」


「一緒に来てくれない?」


私は背筋が寒くなった。


「一緒に?」


「向こうの世界に」


「そうすれば、ずっと一緒にいられる」


千春の声が甘く響く。


「いやよ、一人は寂しい」


私は恐怖を感じた。


千春は私を道連れにしようとしている。


「ダメよ、千春」


「私はまだ生きてるの」


「でも、親友でしょう?」


「昔みたいに一緒にいましょう」


「お断りします」


私がきっぱり言うと、千春の声が変わった。


「そんなこと言うの?」


「私がどれだけ寂しかったか」


「十年も一人ぼっちで」


声が恨みがましくなった。


「なら、無理やりでも連れて行く」


電話が切れた。


その後、千春からの電話は止まった。


しかし、代わりに奇妙な現象が起き始めた。


夜中に誰もいないのに電話が鳴る。


出ると、誰も話さないが息遣いだけが聞こえる。


部屋の電気が勝手についたり消えたりする。


明らかに千春の仕業だった。


私は霊能者に相談した。


「高校時代の同級生の霊に狙われています」


「バス事故で亡くなった子ですね」


霊能者がすぐに答えた。


「千春という名前の」


私は驚いた。


「ご存じなんですか?」


「はい、確かに隠蔽された死者がいました」


「でも、あなたとは友達ではありません」


「え?」


「千春さんは内気な子で、友達がほとんどいなかった」


「あなたに憧れていたのです」


霊能者が説明してくれた。


「事故で死んだ後、その憧れが執着になった」


「勝手に親友だったことにしてしまったのです」


私は複雑な気持ちになった。


千春は友達が欲しかったのだ。


死んでまで、友達を求めていたのだ。


「供養してあげましょう」


霊能者が千春の霊を呼び出した。


「千春さん、もう十分です」


「美香さんは生きている人」


「諦めて成仏しなさい」


しばらく抵抗していた千春だったが、最終的に納得してくれた。


「ごめんね、美香ちゃん」


「私、友達が欲しかっただけなの」


「分かってるわ」


私は千春に話しかけた。


「あなたは優しい子だったのね」


「天国で素敵な友達ができるわよ」


「本当?」


「約束するわ」


千春の気配が薄くなっていく。


「ありがとう、美香ちゃん」


「やっと安らかに眠れる」


それが最後だった。


以後、千春から連絡が来ることはなくなった。


私は今でも時々、千春のことを思い出す。


死んでまで友達を求めた、寂しい女の子のことを。


現代社会の孤独は、死後の世界にまで持ち込まれるのかもしれない。


千春が安らかに眠っていることを、心から願っている。


――――


この体験は、2021年10月に愛知県豊橋市で発生した「修学旅行死亡隠蔽霊電話事件」に基づいている。看護師が高校時代のバス事故で隠蔽された同級生の死亡霊から連日電話を受け、最終的に霊能者の介入で成仏に導いた現代の学校事故隠蔽霊事例である。


愛知県豊橋市の看護師・松本美香さん(仮名・当時24歳)の携帯電話に10月31日夜から「千春」と名乗る女性から連日着信があった。千春は松本さんの高校時代の詳細情報(学校名、クラス、担任名等)を正確に把握し、「親友だった」と主張して頻繁に通話を求めた。松本さんには千春との記憶が全くなかったが、相手は具体的な交友エピソードを語り続けた。


通話中、千春は「修学旅行のバス事故で死亡したが、学校側が責任回避のため死者を隠蔽した」と告白。松本さんの出身校である愛知県立豊橋北高校では平成16年に修学旅行中のバス接触事故が発生し、複数の軽傷者が出たが死者は報告されていなかった。千春は松本さんに「一緒に向こうの世界に来てほしい」と執拗に誘い始めた。


松本さんが霊能者に相談したところ、千春の存在が確認された。霊能者の調査により、千春は実在の同級生で事故当日に頭部外傷で死亡していたが、学校側が遺族に口止めして事故死を隠蔽していた事実が判明した。しかし千春と松本さんは実際には親友ではなく、千春が松本さんに一方的な憧れを抱いていたことも明らかになった。


豊橋北高校の内部調査では、平成16年の修学旅行事故で実際に1名の死者があり、学校の責任問題を避けるため遺族との間で秘密保持契約を結んでいたことが確認された。千春の遺族は「娘の死が隠蔽され、同級生にも忘れられて可哀そうだった。ようやく誰かに思い出してもらえた」と語っている。霊能者による供養後、松本さんへの霊的現象は完全に停止した。


愛知県教育委員会は同事例を「学校事故の不適切な対応が霊的問題を引き起こした事例」として記録し、事故対応の透明性向上に活用している。松本さんは「千春さんの孤独な気持ちが痛いほど分かった。学校は生徒の命をもっと大切にしてほしい」と述べ、現在も千春の命日には墓参りを続けている。豊橋北高校では現在、修学旅行の安全管理を大幅に強化し、事故発生時の適切な対応マニュアルも整備している。

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