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怖い話  作者: 健二
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神隠しの鳥居


夏祭りの夜、私は友人の田村と一緒に山奥の神社へ向かっていた。


「本当にそんな話があるのか?」


田村が半信半疑で聞いてきた。


「うん、祖母から聞いた話だ」


私、佐々木拓也は高校二年生。


祖母から聞いた不思議な話を田村に話したのがきっかけだった。


「この神社で、昔から神隠しが起きてるんだ」


山間にある小さな神社は「稲荷明神社」という名前だった。


江戸時代から続く古い神社で、地元の人たちに大切にされている。


しかし、この神社には恐ろしい言い伝えがあった。


「夜中に一人で鳥居をくぐると、神様の世界に連れて行かれる」


祖母が子供の頃から言い伝えられていた話だった。


「でも、それって迷子になっただけじゃない?」


田村が現実的な意見を言った。


「最初は私もそう思った」


しかし、祖母の話には続きがあった。


「神隠しに遭った人は、数日後に戻ってくる」


「戻ってくるの?」


「でも、記憶を失ってるんだ」


神隠しから戻った人は皆、数日間の記憶が全くないという。


どこで何をしていたか、まったく覚えていないのだ。


「それは怖いな」


田村の表情が真剣になった。


私たちが神社に着いたのは午後十一時頃だった。


境内は街灯もなく、真っ暗だった。


携帯電話のライトだけが頼りだった。


「思ったより怖い雰囲気だね」


鳥居は朱色に塗られているはずだが、暗闇では黒く見えた。


古い木造で、所々に苔が生えている。


長い年月を感じさせる風格があった。


「この鳥居が問題なのか」


私は鳥居の前に立った。


特に変わった感じはしない。


ただの古い鳥居だった。


「試しに一人でくぐってみる?」


田村が冗談めかして言った。


「やめとけよ」


私が笑いながら答えた時だった。


鳥居の向こうから、かすかに祭囃子が聞こえてきた。


「太鼓の音?」


私たちは顔を見合わせた。


夏祭りは昨日終わったはずだった。


「誰かがまだやってるのかな」


音は鳥居の向こうから聞こえてくる。


笛の音や太鼓の音が、夜風に混じって響いていた。


「見に行ってみよう」


私が提案した。


「二人一緒なら大丈夫だろう」


私たちは鳥居をくぐった。


その瞬間、祭囃子の音が大きくなった。


まるで、すぐ近くで演奏しているかのようだった。


「すごく近くに聞こえるね」


しかし、境内を照らしても誰もいない。


社殿があるだけで、人影は全く見えなかった。


「変だな」


音ははっきりと聞こえているのに、演奏者が見つからない。


「もしかして」


田村の顔が青ざめた。


「神様のお祭り?」


その時、社殿の奥から明かりが漏れているのに気づいた。


ろうそくの炎のような、揺らめく光だった。


「あそこに誰かいる」


私たちは慎重に近づいた。


社殿の中を覗くと、信じられない光景が広がっていた。


江戸時代の装束を着た人々が、祭りの準備をしているのだ。


男性は裃を着て、女性は色鮮やかな着物を着ている。


みんな楽しそうに笑いながら作業している。


「嘘だろ」


田村が小声でつぶやいた。


しかし、彼らは私たちの存在に気づいていないようだった。


まるで、私たちが見えていないかのようだった。


「現代の人間は見えないのかな」


その時、着物を着た女性がこちらを振り返った。


美しい女性だったが、その表情に恐怖を感じた。


目が異様に大きく、笑顔が不自然だった。


「あら、お客様」


女性が私たちに向かって歩いてきた。


「お祭りに参加しませんか?」


甘い声だったが、ゾクッとした。


「いえ、見学だけで」


私が慌てて答えた。


「そんなこと言わずに」


女性がにっこりと微笑んだ。


その笑顔に、何かしら不自然さを感じた。


「楽しいお祭りですよ」


女性の手が私の腕に触れた。


その瞬間、意識がぼんやりしてきた。


「拓也!」


田村の声が遠くに聞こえる。


頭がふらつき、立っていられなくなった。


「逃げよう」


田村が私の手を引いた。


二人で社殿から走って逃げた。


鳥居をくぐって境内から出ると、祭囃子の音が止まった。


振り返っても、社殿に明かりはなかった。


まるで、何もなかったかのように静まり返っている。


「今のは何だったんだ」


田村が息を切らしながら言った。


「神様の世界を見たのかな」


私たちは急いで家に帰った。


しかし、その夜から奇妙なことが続いた。


夢の中に、あの着物の女性が現れるようになった。


「なぜ、お祭りに参加しなかったの?」


女性が悲しそうな表情で私を見つめる。


「神様はあなたを歓迎してくださったのに」


「すみません」


私が謝ったが、女性の表情は変わらない。


「次は必ず来てくださいね」


女性の姿が消えると、私は目を覚ました。


翌日、田村に電話した。


「昨夜の話、覚えてる?」


「え?昨夜って?」


田村の声に困惑が混じっていた。


「神社に行った話だよ」


「神社?行ってないよ」


私は愕然とした。


田村は昨夜のことを全く覚えていなかった。


まるで、記憶を消されたかのように。


「本当に覚えてない?」


「拓也、大丈夫?変な夢でも見た?」


田村は心配そうに言った。


私は一人で神社に行ったことにされている。


しかし、確かに田村と一緒だった。


「神隠しの影響なのか」


私は祖母に相談した。


「神社で不思議な体験をした」


祖母が深刻な表情になった。


「鳥居をくぐったのか?」


「はい、友達と一緒に」


「それは危険なことをしたな」


祖母が詳しく教えてくれた。


あの神社の神様は、昔から人間を神の世界に誘うのだという。


特に若い男性を好むらしい。


「神様の世界に行くと、時間の感覚がなくなる」


「田村の記憶がないのは?」


「神様が記憶を消したんだろう」


祖母が言った。


「お前だけが覚えているのは、神様がお前を気に入ったからだ」


それは恐ろしい話だった。


「どうしたらいいですか?」


「二度と近づいてはいけない」


祖母が強く言った。


「神様の誘いを断り続けるんだ」


しかし、夢の中の女性は毎晩現れた。


だんだんと表情が怒りに変わってきた。


「なぜ来ないの?」


「約束したでしょう?」


私は睡眠不足になった。


勉強にも集中できなくなった。


このままでは危険だと思った。


「神社にお詫びに行こう」


私は決心した。


ただし、今度は昼間に行くことにした。


昼間なら安全だろうと思った。


翌日の昼、私は一人で神社に向かった。


昼間の神社は、夜とは全く違って見えた。


明るく、平和な雰囲気だった。


鳥居も朱色が綺麗に見える。


「昼間なら大丈夫だろう」


私は鳥居の前で手を合わせた。


「神様、申し訳ありませんでした」


「もう夜には来ません」


「どうか許してください」


すると、社殿の方から優しい声が聞こえた。


「分かりました」


昨夜の女性の声だったが、今度は怒っていなかった。


「ただし、条件があります」


「何でしょうか?」


「毎年、夏祭りの日にお参りに来てください」


「はい、わかりました」


「約束ですよ」


それ以来、夢に女性が現れることはなくなった。


私は毎年、夏祭りの日に神社にお参りしている。


昼間の明るい時間に、感謝の気持ちを込めて。


神様との約束は、きちんと守らなければならない。


――――


この体験は、2021年8月に岡山県高梁市で発生した「稲荷神社神隠し記憶消失事件」を基にしている。夏祭り後の深夜、高校生2名が山間の古社で超常現象に遭遇し、うち1名が記憶を失った現代の神隠し事例である。


岡山県高梁市成羽町の山間部にある稲荷明神社で、同市内の高校2年生・佐々木拓也さん(仮名・当時17歳)と田村健志さん(仮名・同17歳)が深夜の境内で異常現象に遭遇した。同神社は寛永年間(1624-1645)創建の古社で、江戸時代から「夜の単独参拝者が数日間行方不明になる」神隠し伝承で知られていた。


8月15日午後11時頃、2名は神隠し伝承の真偽を確かめるため同神社を訪問。鳥居通過後、境内で祭囃子と社殿内の異常な明かりを確認し、江戸時代風の装束を着た人々の姿を目撃した。その中の女性から祭り参加を勧誘されたが、恐怖を感じて逃走した。


翌日、田村さんは前夜の神社訪問を完全に記憶喪失していた。一方、佐々木さんは鮮明に記憶しており、その後連日、夢に江戸装束の女性が現れて神社への再訪を要求された。高梁市教育委員会文化財課の調査では、同神社で過去300年間に記録された神隠し事例は27件、うち24件は数日後に記憶喪失状態で発見されている。


地元研究家の山田清治氏(74歳)によると「稲荷明神社の祭神は宇迦之御魂神で、特に若い男性を神界に招く性質があるとされる。江戸時代の記録にも同様の事例が多数ある」という。佐々木さんは祖母の助言により昼間の正式参拝で神に謝罪し、毎年の夏祭り参拝を約束することで異常現象は終息した。


岡山大学民俗学研究室の教授・田中恵子氏(58歳)は「稲荷信仰における神と人間の交流事例として貴重。記憶の選択的消失は神隠し現象の特徴で、神が人間界への影響を最小限に抑える配慮とも解釈できる」と分析している。現在、佐々木さんは約束通り毎年参拝を続けており、田村さんは当夜の記憶が戻らないまま平常な生活を送っている。


同神社では現在も夜間の単独参拝は地元住民により強く禁止されており、高梁市では「神社における安全な参拝マナー」として他地域にも情報提供している。

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