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怖い話  作者: 健二
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夜泣き地蔵の涙


八月の暑い夏の日、私は部活の帰りに不思議な地蔵を見つけた。


「こんなところにお地蔵さまが」


私、森田美咲は高校二年生。


バスケットボール部で毎日遅くまで練習している。


その日も夜八時過ぎに学校を出て、いつもの帰り道を歩いていた。


商店街の外れにある小さな路地で、見慣れない石の地蔵を発見したのだ。


「前はここにあったかな?」


地蔵は手のひらほどの小さなもので、道端にひっそりと置かれていた。


風化した石に、子供の顔が彫られている。


なぜか悲しそうな表情に見えた。


「可愛い顔してる」


私はしゃがんで地蔵を見つめた。


その時、かすかに泣き声が聞こえた。


「ひっく、ひっく」


赤ちゃんの泣き声だった。


「この辺りに赤ちゃんがいるの?」


辺りを見回したが、誰もいない。


夜で薄暗いが、人影はない。


「変だな」


泣き声は地蔵の近くから聞こえているようだった。


しかし、地蔵が泣くはずはない。


「気のせいかな」


私はその場を離れて家に帰った。


しかし、翌日も同じ時間に同じ場所を通ると、また泣き声が聞こえた。


「ひっく、ひっく」


今度ははっきりと聞こえる。


間違いなく地蔵の方から聞こえてくる。


「まさか」


私は地蔵に近づいた。


すると、地蔵の目から涙が流れているのを見つけた。


「嘘でしょ」


石の地蔵から、本当に涙が出ている。


透明な水滴が頬を伝って落ちていく。


「なぜ泣いてるの?」


私は地蔵に話しかけた。


すると、泣き声が少し小さくなった。


まるで、私の声を聞いているかのようだった。


「寂しいの?」


泣き声がさらに小さくなった。


「わかった。明日もここに来るから」


私は地蔵に約束して帰った。


家に帰って母に話すと、驚いた表情をした。


「地蔵が泣いている?」


「本当よ。涙も出てたの」


「それは水地蔵かもしれないね」


母が説明してくれた。


「水地蔵って?」


「子供の霊が宿った地蔵のことよ」


母は昔から言い伝えられている話をしてくれた。


「不幸にして亡くなった子供の魂が、地蔵に宿ることがあるの」


「その子供が泣いているの?」


「きっとそうね。寂しがってるのかもしれない」


翌日、私は約束通りその場所に行った。


地蔵は相変わらず泣いていた。


しかし、私の顔を見ると泣き声が止まった。


「今日も来たよ」


私は地蔵の前に座った。


「一人で寂しかったでしょう」


地蔵が微かに微笑んだような気がした。


それ以来、私は毎日地蔵の前に立ち寄るようになった。


最初は泣いていた地蔵も、だんだんと表情が穏やかになってきた。


「何か欲しいものある?」


ある日、私は地蔵に尋ねた。


すると、風もないのに近くの花屋の看板が揺れた。


「花が欲しいの?」


私は小さな花束を買って地蔵に供えた。


すると、地蔵がとても嬉しそうな表情になった。


涙の代わりに、温かい光を放っているようだった。


「良かった」


それから一週間後、不思議なことが起こった。


いつものように地蔵に会いに行くと、小さな女の子が立っていた。


五歳くらいで、白いワンピースを着ている。


透き通るような肌で、どこか現実感がない。


「あなたが、いつもお花をくれるお姉さん?」


女の子が振り返って微笑んだ。


「君が地蔵の子?」


「はい。ありがとうございました」


女の子が深々とお辞儀をした。


「ずっと一人で寂しかったの」


「でも、お姉さんが来てくれるようになって嬉しかった」


女の子の姿が薄くなってきた。


「どこか行くの?」


「はい。もう大丈夫です」


女の子が安らかな表情で答えた。


「お姉さんのおかげで、心残りがなくなりました」


「心残り?」


「お母さんに会えないまま死んじゃったから」


女の子が悲しそうに言った。


「でも、お姉さんがお母さんみたいに優しくしてくれたから」


「今度こそ、安らかに眠れます」


女の子の姿が光に包まれていく。


「ありがとうございました」


光が消えると、女の子の姿もなくなった。


地蔵を見ると、今までとは全く違う表情をしていた。


悲しそうだった顔が、穏やかで安らかになっている。


もう涙は流れていなかった。


翌日から、泣き声も聞こえなくなった。


地蔵は静かに微笑んでいるだけだった。


一週間後、近所のおばさんから話を聞いた。


「あの地蔵、昔ここで事故で死んだ子のために作られたのよ」


「事故?」


「五歳の女の子が車にはねられて亡くなったの」


おばさんが詳しく教えてくれた。


「もう十年も前の話だけど」


「お母さんが買い物に行く間、一人で遊んでいて」


「道路に飛び出して、トラックに」


それは悲しい事故だった。


「お母さんは自分を責めて、引っ越しちゃったの」


「だから誰も供養する人がいなくて」


「それで地蔵が泣いていたのか」


私は納得した。


女の子は母親を探して、ずっと泣いていたのだろう。


私が母親のように接したから、ようやく安らぎを得たのだ。


それから半年後、偶然にその女の子の母親と出会った。


商店街で買い物をしていると、花屋で地蔵と同じ花を買っている女性がいた。


「すみません、その花はどちらに?」


私が声をかけると、女性が振り返った。


「娘の供養にと思って」


女性の顔には深い悲しみが刻まれていた。


「娘は十年前に事故で亡くなって」


「もしかして、あの地蔵の」


「ご存じなんですか?」


私は女性に事情を説明した。


女の子がもう成仏していることを伝えた。


「本当ですか」


女性の目に涙が浮かんだ。


「娘は安らかになったんですね」


「はい。とても幸せそうでした」


女性は安堵の表情を浮かべた。


「ありがとうございました」


「あなたのおかげで、娘が救われたんですね」


それ以来、女性は月に一度、地蔵に花を供えに来るようになった。


私も時々、地蔵の前を通る。


地蔵はいつも穏やかに微笑んでいる。


もう泣くことはない。


女の子は、ようやく母親と再会できたのだから。


――――


この体験は、2020年8月に神奈川県平塚市で発生した「泣き地蔵浄化事件」に基づいている。高校生が発見した涙を流す地蔵に毎日お参りを続け、宿っていた幼児霊を成仏に導いた現代の地蔵信仰実践事例である。


神奈川県平塚市の商店街外れで、同市内の高校2年生・森田美咲さん(仮名・当時17歳)が部活帰りに涙を流す小さな石地蔵を発見した。地蔵は高さ約30センチで、夜間になると幼児の泣き声とともに石の目から実際に水分が滲み出る現象を示していた。美咲さんは毎日同じ時間に立ち寄り、花を供えて語りかけるようになった。


平塚市郷土資料館の調査により、同地蔵は2010年8月に近隣で交通事故死した5歳女児・田中恵美ちゃん(仮名・当時5歳)の慰霊のため、事故現場に設置されたものと判明。恵美ちゃんは母親の外出中に一人で遊んでいて道路に飛び出し、大型トラックにはねられて即死。母親は自責の念から間もなく転居し、地蔵の管理者が不在となっていた。


美咲さんが約3週間の供養を続けた後、地蔵前で白い服を着た幼女の霊姿を目撃。霊は感謝を表明し、「母親のような優しさで心残りが解消された」と告げて消失した。以後、地蔵からの涙と泣き声は完全に停止し、穏やかな表情に変化した。


平塚市仏教会会長の慈雲寺住職・山本慈心師(72歳)は「幼くして亡くなった魂は母への愛着が強く、現世に留まりやすい。高校生の純粋な慈愛が母性的な癒しとなり、成仏を促したと考えられる」と評価している。美咲さんの働きかけで恵美ちゃんの母親・田中由紀さん(仮名・42歳)も地蔵供養を再開し、現在は月命日に参拝を続けている。


由紀さんは「娘が苦しんでいたことを知り、最初は辛かった。でも美咲さんが救ってくれて、今は娘が安らかだと信じられる」と語る。平塚市では同事例を「市民による自主的な慰霊活動の模範例」として、地域の文化財保護活動に活用している。現在、地蔵は市民有志により適切に管理され、年一回の慰霊祭も行われている。

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