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怖い話  作者: 健二
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願いの代償


夏休みの終わり、私は絶望的な状況に追い込まれていた。


「もうダメだ」


私、山下健一は高校三年生。


大学受験を控えているが、成績が全く上がらない。


模擬試験の結果は散々で、志望校合格は絶望的だった。


「このままじゃ浪人確定だ」


両親は期待しているが、応えられそうにない。


友人たちは順調に成績を伸ばしているのに、私だけが取り残されている。


そんな時、同級生の田所から奇妙な話を聞いた。


「願いを叶えてくれる神社があるんだって」


「願いを叶える?」


「うん、山の奥にある小さな祠でね」


田所が詳しく教えてくれた。


「正しい方法でお願いすれば、絶対に願いが叶うらしい」


「そんなことあるわけない」


私は半信半疑だった。


しかし、藁をもつかむ思いで興味を持った。


「どこにあるの?」


「市の北側の山の中だよ」


田所が地図を見せてくれた。


登山道を外れた奥地に、小さな祠のマークがある。


「誰から聞いたの?」


「先輩から。その先輩も受験の時に使ったって」


「本当に効果あったの?」


「第一志望に合格したよ」


その話に心を動かされた。


「でも、条件があるんだ」


「条件?」


「真夜中に一人で行かないといけない」


「なぜ?」


「神様が夜にしか現れないからだって」


それは少し怖い話だった。


しかし、追い詰められている私には選択肢がなかった。


「行ってみようかな」


翌日の夜中、私は一人で山に向かった。


懐中電灯を持って、険しい山道を歩く。


虫の鳴き声と風の音だけが聞こえる。


「本当にこんなところに祠があるのか」


地図を頼りに山を登っていく。


一時間ほど歩いて、ようやく祠を見つけた。


小さな石の祠で、古びて苔が生えている。


しかし、なぜか神秘的な雰囲気があった。


「これが願いを叶えてくれる祠か」


祠の前には小さな賽銭箱がある。


中を覗くと、硬貨がいくつか入っていた。


「他にも来る人がいるんだな」


私は百円玉を入れて手を合わせた。


「神様、お願いします」


「大学受験に合格させてください」


すると、祠の奥から声が聞こえた。


「願いを叶えてやろう」


低く、威厳のある声だった。


「しかし、ただではない」


「代償が必要だ」


私は震え上がった。


祠から本当に声が聞こえている。


「代償って何ですか?」


「お前の最も大切なものを貰う」


「最も大切なもの?」


「それは願いが叶った時に決める」


声がだんだん小さくなっていく。


「承諾するなら、三回頷け」


私は迷った。


代償が何か分からない。


しかし、合格への道筋が見えない状況だった。


「仕方ない」


私は三回頷いた。


「契約成立だ」


声が消えると、祠が一瞬光った。


そして、また静寂が戻った。


「本当に効果があるのかな」


私は半信半疑で家に帰った。


しかし、翌日から不思議なことが起こった。


勉強の内容がすらすらと頭に入ってくる。


今まで理解できなかった問題が、簡単に解けるようになった。


「なぜだろう」


集中力も格段に上がっている。


長時間勉強しても疲れない。


記憶力も向上している。


「祠の効果?」


次の模擬試験で、成績が劇的に上がった。


偏差値が二十も上昇している。


「信じられない」


担任の先生も驚いていた。


「急に成績が上がったね」


「頑張って勉強しました」


私は祠のことは言わなかった。


その後も成績は上がり続けた。


志望校合格も現実的になってきた。


「神様のおかげだ」


しかし、同時に不安も感じていた。


代償として何を取られるのだろうか。


「最も大切なものって何だ?」


私には特に大切な物はない。


強いて言えば、家族や友人だろうか。


「まさか、そんなことはないだろう」


年が明けて、ついに大学受験の日が来た。


試験は今までにないほど順調だった。


問題を見ると、答えが自然に浮かんでくる。


「絶対に合格できる」


そして、合格発表の日。


私の受験番号がしっかりと掲示板に載っていた。


「やった!合格だ!」


夢のようだった。


絶望的だった状況から、第一志望合格。


「神様、ありがとうございます」


しかし、喜びもつかの間だった。


合格発表の夜、祠の声が夢に現れた。


「約束通り、代償を貰う」


「何を取るんですか?」


「お前の記憶だ」


「記憶?」


「高校三年間の記憶をすべて消去する」


私は愕然とした。


「それは困ります」


「契約だ。変更はできない」


「友達との思い出も?」


「すべてだ」


声が冷たく響く。


「明日の朝、お前は高校時代を忘れている」


「お願いします、他のものにしてください」


「だが、心配するな」


声が少し優しくなった。


「大学での新しい記憶を作ればいい」


「合格という結果は残してやる」


それが最後の慈悲だった。


翌朝、目を覚ますと予告通りだった。


高校三年間の記憶がきれいに消えている。


友人の顔も、先生の名前も思い出せない。


ただ、大学に合格したという事実だけが残っている。


「なぜ合格できたのかわからない」


家族に聞いても、曖昧な答えしか返ってこない。


私が急に勉強するようになったことだけは覚えているようだ。


「不思議だな」


しかし、後悔はしていない。


記憶は失ったが、未来を手に入れた。


大学生活で新しい思い出を作っていけばいい。


「これが神様との契約の結果か」


私は大学入学に向けて準備を始めた。


過去は失ったが、希望のある未来が待っている。


願いの代償は大きかったが、受け入れるしかない。


それが神様との約束だから。


――――


この体験は、2019年8月に静岡県浜松市で発生した「山中祠願望成就記憶消失事件」に基づいている。大学受験に絶望していた高校生が山奥の祠で超常的な契約を結び、合格と引き換えに記憶を失った現代の神霊取引事例である。


静岡県浜松市天竜区の山間部にある無名の小祠で、同市内の高校3年生・山下健一さん(仮名・当時18歳)が深夜の単独参拝により超常現象に遭遇した。山下さんは模試偏差値45で志望大学合格が絶望的だったが、同級生から「願いを叶える祠」の情報を得て8月末の深夜に参拝。祠から聞こえた神霊の声と「願望実現と引き換えに最も大切なものを要求する」契約を結んだ。


契約後、山下さんの学力は急激に向上し、3ヶ月で偏差値が68まで上昇。翌年3月の大学入試で第一志望校に合格した。しかし合格発表翌日、約束された「代償」として高校3年間の記憶が完全に消失。友人・教師・学校行事等の記憶が一切なくなったが、学習内容と合格事実のみは保持されていた。


浜松市文化財課の調査では、同祠は江戸後期に建立された山神を祀る小社で、戦前から「願望成就と引き換えに何かを奪う神」として地元猟師らに恐れられていた。過去100年間で同様の「契約成就事例」が12件記録されており、いずれも願いは実現したが、重要な物や記憶を失っている。


静岡大学心理学部の研究チーム(主任・佐藤明教授)が山下さんを1年間追跡調査した結果、「選択的記憶消失」という極めて特異な症例として報告された。医学的原因は特定できず、「超常的要因による意識操作の可能性」も検討されている。山下さんは大学生活を順調に送っており、「過去は失ったが後悔していない」と語っている。


同祠を紹介した田所君(仮名)も3年前に同様の体験をしており、大学合格の代償として「家族との親密さ」を失っていたことが判明。現在、浜松市教育委員会では同祠への立入を制限し、「願望実現には必ず代償が伴う危険な場所」として注意喚起を行っている。山下さんは「神様との約束は絶対。代償を承知で契約した以上、受け入れるしかない」として、現在も年1回の感謝参拝を続けている。

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