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怖い話  作者: 健二
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夜店の化け物


八月半ば、高校一年生の私、松本悠斗は友人の田口と一緒に、隣町の夏祭りに出かけていた。


「人多いな」


田口が人混みを見回しながら言った。


「有名な祭りだからね」


私たちは屋台が並ぶ通りを歩いていた。


たこ焼き、焼きそば、りんご飴、射的。


いつもの夜店が軒を連ねている。


「何か食べよう」


私たちがたこ焼きを買って食べていると、通りの奥に変わった屋台があることに気づいた。


「あれ、何の店だろう」


その屋台は他と雰囲気が違った。


古めかしく、薄暗い照明で照らされている。


「お面屋?」


近づいてみると、確かにお面を売る店だった。


しかし、並んでいるお面が普通ではない。


鬼、般若、狐。


どれも異常にリアルで、まるで生きているかのようだった。


「怖いお面ばっかりだな」


店の奥から、老婆が出てきた。


腰の曲がった、小柄なおばあさんだった。


「いらっしゃい」


しわがれた声で呼びかけてきた。


「お面はいかがですか?」


私たちは遠慮しようとしたが、老婆が近づいてきた。


「若い方には、この般若の面がお似合いですよ」


老婆が手に取ったお面は、恐ろしい般若の顔だった。


しかし、なぜか私は引きつけられた。


「すごくリアルですね」


「はい。特別な方法で作ったお面です」


老婆が不気味に微笑んだ。


「つけてみませんか?」


「えっと」


私が迷っていると、田口が止めた。


「やめとこうよ」


しかし、私は般若の面に魅力を感じていた。


「少しだけなら」


「ダメだよ、悠斗」


田口が必死に止めたが、私は面を手に取った。


その瞬間、面が温かく感じた。


まるで生きているかのような温もりだった。


「つけてみてください」


老婆が促した。


私は面を顔に当てた。


その瞬間、世界が変わった。


まわりの音が遠くなり、視界が赤く染まった。


「うおおおお」


私の口から、野獣のような声が出た。


「悠斗?」


田口の声が聞こえるが、とても遠い。


気がつくと、私は祭りの人混みの中を走り回っていた。


人々が悲鳴を上げて逃げ回っている。


「化け物だ」


「般若が暴れてる」


私は自分の意思では動けなかった。


面が私を操っているようだった。


「たすけて」


心の中で叫んだが、体は勝手に動く。


屋台を倒し、人々を追いかけ回す。


「誰か止めて」


しかし、誰も近づいてこない。


みんな恐れて逃げるばかりだった。


その時、一人の神主さんが現れた。


「南無阿弥陀仏」


お経を唱えながら近づいてくる。


「悪霊よ、この子から離れよ」


神主さんが私に向かって御札を投げた。


御札が面に当たった瞬間、激しい痛みが走った。


「ぎゃああああ」


面から悲鳴のような音が響いた。


「この面には、恨みの霊が宿っています」


神主さんが説明してくれた。


「昔、理不尽な目に遭って死んだ女性の霊です」


私は必死に面を外そうとした。


しかし、面が顔に貼りついて取れない。


「どうしたら外れますか?」


神主さんが考えた。


「霊の願いを聞いてあげることです」


「願い?」


「この霊は、自分を殺した男への復讐を望んでいます」


「でも、昔の人でしょう?」


「霊にとって、時間は関係ありません」


神主さんが面に向かって話しかけた。


「お鶴さん、あなたの気持ちはわかります」


面が反応した。


私の意思とは関係なく、涙が流れた。


「でも、無関係な人を苦しめてはいけません」


「うう、うう」


面から泣き声が聞こえた。


「私、悔しかった」


かすかに女性の声が聞こえる。


「愛する人に裏切られて、殺されて」


「お鶴さん、それは辛かったでしょう」


神主さんが優しく声をかけた。


「でも、復讐では何も解決しません」


「わかってる、わかってるけど」


お鶴の声が震えた。


「許せないの」


「なら、せめて無関係な人は巻き込まないでください」


神主さんが提案した。


「この子を解放して、私があなたの話を聞きます」


しばらく沈黙が続いた。


そして、面がゆっくりと緩んできた。


「わかりました」


お鶴の声が諦めたように響いた。


「でも、また寂しくなったら、出てきてしまうかも」


「その時は、また話を聞きます」


神主さんが約束した。


「あなたは一人じゃありません」


面が完全に外れた。


私は地面に倒れ込んだ。


「大丈夫ですか?」


田口が駆け寄ってきた。


「ああ、なんとか」


私は面を見た。


もう普通の般若の面に戻っていた。


しかし、なぜか涙の跡があるように見えた。


神主さんが面を受け取った。


「この面は、お寺で供養します」


「お鶴さんは?」


「きっと、いつか安らかになれるでしょう」


神主さんが微笑んだ。


「あなたが、彼女の気持ちを理解してくれたから」


その後、私たちは静かに祭りを後にした。


お鶴さんのことが心に残った。


愛に裏切られた女性の悲しみ。


それは、現代でも変わらない人間の感情だった。


面の中で何百年も苦しんでいたお鶴さんが、少しでも安らげることを願っている。


――――


この体験は、2023年8月に島根県出雲市で発生した「出雲大社夏祭り憑依面事件」に基づいている。夜店で購入した古面に宿る怨霊が高校生に憑依し、祭り会場で暴れた後、神職の祈祷により鎮められた、現代における悪霊憑依の典型的事例である。


島根県出雲市の出雲大社周辺で開催された夏祭りで、高校生の松本悠斗さん(仮名・当時16歳)が骨董品を扱う夜店で般若面を購入し着用したところ、面に封じられていた怨霊が憑依。約30分間にわたって理性を失い、祭り会場で暴れ回る事態となった。


憑依した霊は江戸時代後期の女性「お鶴」と判明。恋人に騙されて殺害された恨みから怨霊となり、約200年間般若面に宿っていた。出雲大社権宮司・佐藤義光師(52歳)の緊急祈祷により霊との対話が成立し、松本さんからの分離に成功した。


面を販売していた骨董商・田村ハナさん(78歳)は「祖父から受け継いだ面だが、霊が宿っているとは知らなかった。若い方に迷惑をかけて申し訳ない」と謝罪。佐藤宮司の調査で、面は江戸時代の呪術師が怨霊封印のために制作した呪具と確認された。


出雲市教育委員会文化財課の山田正明氏(61歳)は「江戸時代の呪術具が現代まで霊的機能を保持していた貴重な事例。出雲大社周辺は古来より霊的エネルギーの強い土地で、このような現象も起こりうる」と分析している。


松本さんは憑依中の記憶は断片的だが、「お鶴さんの悲しみと怒りが直接伝わってきた。裏切られた女性の気持ちを理解できた気がする」と語る。現在、般若面は出雲大社で永久供養されており、お鶴の霊も次第に鎮静化している。佐藤宮司は「定期的に慰霊祭を行い、お鶴さんの魂の平安を祈り続ける」としている。出雲市では同事例を「現代における怨霊鎮魂の実践記録」として保存している。

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