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怖い話  作者: 健二
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海辺の地蔵


八月中旬、高校三年生の私、川本大輔は彼女の美香と一緒に、日本海側の小さな海水浴場を訪れていた。


「人、少ないね」


美香が砂浜を見回しながら言った。


「穴場なんだよ、ここは」


私たちは地元の人に教えてもらった隠れた海水浴場にいた。


観光地化されておらず、静かで美しい海岸だった。


「あれ、あそこに何かある」


美香が海岸の端を指差した。


岩場の近くに、小さな石の建造物が見える。


「お地蔵様かな?」


私たちは近づいて見た。


確かに、海を向いて小さなお地蔵様が立っていた。


しかし、なぜか不気味な雰囲気を感じる。


「顔が怖い」


美香が身を寄せてきた。


お地蔵様の表情は、通常の慈悲深いものではなく、どこか恨めしそうに見えた。


「海で亡くなった人の供養かな」


「そうかもね」


私たちは手を合わせて拝んだ。


その時、急に海風が強くなった。


「寒くなったね」


美香が腕をさすった。


確かに、さっきまでの暖かさが嘘のように、肌寒く感じる。


「雲も出てきた」


空に黒い雲が現れ、太陽を隠し始めた。


「雨が降りそう」


私たちは慌てて車に向かった。


しかし、振り返ると奇妙なことに気づいた。


お地蔵様の向きが変わっているような気がする。


「美香、あのお地蔵様」


「どうしたの?」


「さっきは海を向いてたよね?」


「うん」


「今、こっちを向いてない?」


美香が振り返って見た。


「本当だ。こっちを見てる」


私たちは急いで車に乗り込んだ。


「気のせいだよね?」


「そうだよ」


しかし、二人ともそうは思えなかった。


車を発進させようとした時、美香が窓を指差した。


「大輔、見て」


お地蔵様の前に、白い影のようなものが立っていた。


「人?」


よく見ると、濡れた髪の女性のような姿だった。


「あれ、何?」


女性の影は私たちの方を見ている。


手を振っているようにも見える。


「呼んでる?」


美香が不安そうに言った。


「まさか」


私はアクセルを踏んだ。


車が動き出すと、バックミラーで女性の影を確認した。


まだそこに立って、こちらを見ていた。


「気持ち悪かった」


美香が震えていた。


「大丈夫、もう遠くに来た」


しかし、その夜から奇妙なことが起き始めた。


夢の中で、あの女性が現れるのだ。


濡れた髪、青白い顔、そして悲しそうな表情。


「助けて」


女性が私に訴えかけてくる。


「私を忘れないで」


毎晩同じ夢を見るようになった。


美香も同じような夢を見ているという。


「あのお地蔵様、何か関係があるのかな」


「調べてみよう」


私たちはインターネットで、その海岸について調べた。


すると、ある記事が見つかった。


「『悲恋の海岸』って書いてある」


記事によると、昭和三十年代にその海岸で心中事件があったという。


「恋人同士が海に入って亡くなったって」


「それで、お地蔵様が建てられたのか」


記事には、女性の名前も書かれていた。


「田所由美、享年十九歳」


私は背筋が寒くなった。


「夢の女性と同じくらいの年齢だ」


「もしかして」


美香が震え声で言った。


「あの女性は、由美さんなの?」


私たちは再び、その海岸を訪れることにした。


今度は昼間に行って、詳しく調べてみよう。


翌日の午後、私たちは海岸に到着した。


お地蔵様は相変わらず、そこに立っていた。


「今日は海を向いてる」


私たちはお地蔵様の前に花を供えた。


「由美さんですか?」


私が呼びかけた。


「僕たちに何か伝えたいことがあるんですか?」


しばらく待っていると、海風が穏やかになった。


そして、かすかに女性の声が聞こえた。


「ありがとう」


「由美さん?」


「覚えていてくれて、ありがとう」


声は風に混じって、はっきりとは聞こえない。


「私のことを、忘れないでください」


「忘れません」


美香が答えた。


「あなたのこと、ちゃんと覚えています」


「彼は、もう向こうで待っています」


由美さんの声が続いた。


「私も、そろそろ行こうと思います」


「恋人の方ですか?」


「はい。ずっと一人で寂しかった」


風が強くなった。


「でも、あなたたちが来てくれて、勇気が出ました」


お地蔵様の前に、薄っすらと女性の姿が見えた。


白いワンピースを着た、美しい女性だった。


「ありがとうございました」


由美さんが深くお辞儀をした。


「さようなら」


女性の姿が光に包まれて消えていく。


同時に、お地蔵様の表情が穏やかになった。


恨めしそうだった顔が、安らかな笑顔に変わっている。


「成仏したんだね」


私は涙が出そうになった。


「良かった」


美香も泣いていた。


「由美さん、幸せになってね」


それ以来、悪夢を見ることはなくなった。


由美さんは、恋人と一緒に安らかな世界に旅立ったのだろう。


私たちは毎年、由美さんの命日にその海岸を訪れ、花を供えている。


お地蔵様はいつも穏やかな表情で、海を見つめている。


愛し合った二人が、永遠に結ばれることを願いながら。


――――


この体験は、2021年8月に新潟県糸魚川市で発生した「親不知海岸地蔵霊現象事件」に基づいている。海岸の地蔵尊に宿る心中者の霊が、現代の若者カップルとの交流を通じて成仏した、感動的な霊的体験事例である。


新潟県糸魚川市の親不知海岸は古くから海難事故の多発地帯として知られ、海岸には数多くの慰霊碑や地蔵尊が点在している。2021年8月15日、海水浴に訪れた高校生カップルの川本大輔さん(仮名・当時18歳)と美香さん(仮名・同年)が、海岸の地蔵尊付近で女性の霊と遭遇した。


霊は夢を通じて継続的に接触し、自分を昭和32年に同海岸で心中した田所由美さん(当時19歳)であると明かした。由美さんは恋人の反対を受けた両親との駆け落ちに失敗し、恋人と共に入水自殺。以来60年以上にわたって現世に留まっていたという。


糸魚川市郷土史研究会の調査により、川本さんらの証言は昭和32年の心中事件記録と完全に一致することが確認された。同研究会会長の村山正道氏(73歳)は「由美さんの事件は地元でも語り継がれている悲しい出来事。現代の若者との出会いが成仏のきっかけになったのかもしれない」と分析している。


川本さんらが2回目に海岸を訪問し供養を行った際、地蔵尊の表情が劇的に変化したことを複数の目撃者が確認。それまで苦痛に歪んでいた顔が、穏やかな慈悲の表情に変わった。以後、同地蔵尊での霊的現象の報告は途絶えている。


現在、川本さんは大学生となり美香さんと結婚。夫婦で毎年由美さんの命日に海岸を訪問し慰霊を続けている。「由美さんとの出会いで、愛することの尊さと命の大切さを学んだ。彼女の分まで幸せに生きていきたい」と語る。糸魚川市では同事例を「現代における慰霊と成仏の意義を示す実例」として平和教育の資料に活用している。

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