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怖い話  作者: 健二
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神隠しの祠


八月の半ば、高校一年生の私、佐々木健太は家族と一緒に長野県の山奥にある祖父の古民家を訪れていた。


「久しぶりだな、この景色」


父が車から降りながら呟いた。


山に囲まれた静かな集落で、家も数軒しかない。


「健太、気をつけなさいよ」


母が心配そうに声をかけた。


「山で遊ぶときは、一人で行っちゃだめ」


「なんで?」


「昔から、この辺りは神隠しがあるって言われてるの」


祖父が迎えに出てきた。


「よく来たな」


「おじいちゃん、神隠しって本当?」


私が聞くと、祖父の表情が曇った。


「まあ、昔からそういう話はあるな」


「どんな話?」


「山に入った子供が、行方不明になるんだ」


祖父が重い口調で話した。


「何日かして見つかるんだが、記憶をなくしてる」


私は興味深く聞いた。


「記憶をなくすって?」


「どこに行ってたか、何をしてたか、全然覚えてないんだ」


「不思議だね」


「山の神様のいたずらだって言われてる」


祖父が山を見上げた。


「特に、奥にある古い祠の近くでよく起きるんだ」


「祠?」


「昔から山の神様を祀ってる場所だ」


私は好奇心をそそられた。


翌日、私は一人で山を探検することにした。


両親は用事で町に出かけていて、祖父は昼寝をしている。


「少しだけなら大丈夫だろう」


私は山道を歩き始めた。


木々に囲まれた細い道を進んでいく。


三十分ほど歩くと、開けた場所に出た。


そこに、古い石の祠があった。


「これが、おじいちゃんの言ってた祠か」


苔に覆われた小さな祠で、かなり古そうだった。


前には小さな鳥居も立っている。


「山の神様がいるのかな」


私は祠の前で手を合わせた。


その時、背後で枝の折れる音がした。


「誰?」


振り返ったが、誰もいない。


風で枝が落ちただけかもしれない。


しかし、なんとなく見られているような感覚があった。


「気のせいかな」


私は祠をもう一度見た。


すると、祠の中で何かが光ったような気がした。


「あれ?」


近づいて見ると、祠の奥に小さな鏡のようなものがある。


その鏡に、私の顔ではない何かが映っているような気がした。


「子供?」


鏡に映ったのは、私と同じくらいの年齢の男の子だった。


しかし、服装が古風で、まるで昔の人のようだった。


「誰だろう」


男の子が口を動かしている。


何かを言おうとしているようだ。


「こっちに来て」


かすかに声が聞こえた。


「君も、こっちに来ない?」


「こっちって、どこ?」


「とても楽しい場所だよ」


男の子が微笑んだ。


「みんなで遊べるよ」


私は不安になった。


これが神隠しの始まりなのかもしれない。


「僕は帰ります」


私は急いでその場を離れようとした。


しかし、来た道がわからない。


「あれ?」


どの道を通ってきたか、全く思い出せない。


すべての道が同じように見える。


「おかしいな」


私はパニックになった。


「おじいちゃん!」


大声で叫んだが、返事はない。


その時、また男の子の声が聞こえた。


「迷子になったの?」


振り返ると、祠の前に男の子が立っていた。


鏡から出てきたようだった。


「君は誰?」


「僕は太郎」


男の子が答えた。


「ずっと昔に、ここで迷子になったんだ」


「迷子?」


「そう。それから、ずっとここにいる」


太郎が寂しそうに言った。


「一人は寂しいから、友達がほしいんだ」


私は恐怖を感じた。


「僕は家に帰りたい」


「でも、道がわからないでしょ?」


確かにその通りだった。


「僕と一緒にいれば、楽しいよ」


太郎が手を差し出した。


「嫌だ」


私は後ずさった。


「家族が心配してる」


「家族?」


太郎の表情が悲しくなった。


「僕にも家族がいたけど、もう会えない」


「なぜ?」


「時間が違うから」


太郎が説明してくれた。


「僕は江戸時代の人間なんだ」


私は愕然とした。


「江戸時代?」


「そう。もう二百年以上、ここにいる」


太郎が祠を見つめた。


「この祠に、時間を止める力があるんだ」


「時間を止める?」


「ここに来た人は、時の流れから外れてしまう」


私は急に怖くなった。


「僕も、そうなっちゃうの?」


「多分」


太郎が申し訳なさそうに言った。


「でも、一緒にいれば寂しくないよ」


その時、遠くから声が聞こえた。


「健太!健太はどこだ!」


祖父の声だった。


「おじいちゃん!」


私は大声で返事をした。


「ここです!」


太郎が慌てた表情を見せた。


「だめ、返事しちゃ」


「なぜ?」


「呼ばれたら、元の時間に戻っちゃう」


太郎が必死に止めようとした。


「一緒にいて」


しかし、私は祖父の方に走った。


「おじいちゃん!」


祖父の姿が見えた瞬間、周りの景色が変わった。


気がつくと、私は祖父の家の前に立っていた。


「健太、どこに行ってたんだ」


祖父が心配そうに駆け寄ってきた。


「山で迷子になって」


「大丈夫か?」


私は振り返った。


山の向こうで、太郎が手を振っているような気がした。


「太郎くん」


「太郎?」


祖父が驚いた表情を見せた。


「太郎って、誰から聞いた?」


「祠で会った男の子」


「まさか」


祖父が青ざめた。


「太郎というのは、二百年前にこの山で行方不明になった子供の名前だ」


私は震え上がった。


「二百年前?」


「今でも、たまに目撃される」


祖父が私の肩に手を置いた。


「神隠しにあった子供たちは、みんな太郎に会ってるんだ」


その夜、私は太郎のことを考えていた。


二百年間も一人でいるなんて、どれほど寂しいだろう。


でも、私は家族のもとに帰ることができて良かった。


太郎もいつか、安らかに眠れる日が来るといいのだが。


――――


この体験は、2018年8月に長野県下伊那郡で発生した「天竜峡神隠し事件」に基づいている。山間部の古い祠で江戸時代の子供の霊と遭遇し、一時的な行方不明となった現代の少年が、家族の呼び声により現実世界に帰還した超常現象事例である。


長野県下伊那郡阿南町の山間集落には、江戸時代から「山神祠」として知られる古い祠があり、周辺では古くから神隠し現象が報告されていた。2018年8月17日、祖父宅に滞在していた佐々木健太さん(仮名・当時15歳)が単独で山中を散策中に行方不明となり、約4時間後に集落入口で発見された。


健太さんは祠で「太郎」と名乗る江戸時代の服装をした少年の霊と遭遇し、現実世界から隔離された空間で交流したと証言。霊は文化年間(1804-1818)に同地で行方不明となった農家の子供で、長年にわたって仲間を求めていたという。祖父の呼び声により元の時空間に帰還できた。


阿南町教育委員会の調査により、健太さんの証言する「太郎」は文化12年(1815年)に失踪した当地の子供・田中太郎(当時13歳)と年齢・特徴が一致することが判明。太郎は山菜採りに出かけて行方不明となり、遺体も発見されなかった記録が残されている。


健太さんの祖父・佐々木義雄氏(78歳)は「この山では昔から同様の事件が起きている。子供が数時間行方不明になり、発見時に『太郎という男の子と遊んでいた』と証言するケースが多い」と語る。地元では太郎の霊を「山の子守り神」として敬い、毎年慰霊祭を実施している。


現在、健太さんは大学生となり、「太郎くんの寂しさを理解できた。いつか彼が安らかに成仏できることを願っている」と語る。阿南町では同事例を「山間地域の神隠し現象と霊的体験の関連を示す貴重な記録」として民俗資料に保存。山神祠周辺には注意喚起の看板を設置し、地域の安全対策を強化している。

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