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怖い話  作者: 健二
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祭りの太鼓


八月下旬、高校三年生の私、西川雅人は友人の青木と一緒に、隣町の夏祭りに出かけていた。


「今年も盛大だな」


青木が屋台を見回しながら言った。


「毎年恒例だからね」


私たちがいるのは「八坂神社」の夏祭りだった。


境内には多くの屋台が並び、大勢の人で賑わっている。


「太鼓の音、すごいね」


確かに、祭りの太鼓が力強く響いていた。


「ドンドンドン」


リズミカルな音が夜空に響く。


「太鼓台、見に行こうか」


私たちは太鼓が置かれている場所に向かった。


そこには大きな太鼓があり、数人の男性が交代で叩いていた。


「迫力あるな」


しかし、よく見ると奇妙なことに気づいた。


太鼓を叩いている人の中に、一人だけ様子の違う人がいる。


「あの人、変じゃない?」


青木が小声で言った。


その人は五十代くらいの男性で、古い法被を着ていた。


他の人と違って、表情が異常に真剣だった。


「顔色も悪いし」


確かに、顔が青白く見える。


しかし、太鼓を叩く手つきは見事だった。


「上手いな」


私たちがしばらく見ていると、その男性が私たちに気づいた。


こちらを振り返って、にっこりと微笑んだ。


その笑顔が、なぜか背筋を寒くさせた。


「なんか怖くない?」


青木が私の袖を引いた。


「そうだね、移動しよう」


私たちはその場を離れた。


しかし、太鼓の音は相変わらず響いている。


「ドンドンドン」


さっきより音が大きくなったような気がする。


「お化け屋敷でも見よう」


青木の提案で、私たちは別の場所に向かった。


しかし、歩いていても太鼓の音が耳から離れない。


「ずっと鳴ってるね」


「祭りだからね」


お化け屋敷を楽しんだ後、私たちは帰ろうとした。


その時、また太鼓の前を通りかかった。


「あれ?」


さっきの男性がまだ叩いている。


「ずっと叩いてるのか?」


「疲れないのかな」


男性の動きを見ていると、機械のように正確だった。


一定のリズムで、全く乱れがない。


「すごい集中力だ」


その時、祭りの実行委員らしい人が近づいてきた。


「すみません、田中さん」


実行委員が男性に声をかけた。


「もう交代の時間ですよ」


しかし、男性は太鼓を叩き続けている。


「田中さん?」


実行委員がもう一度呼んだ。


男性は振り返らない。


「おかしいな」


実行委員が男性の肩に手を置いた。


その瞬間、男性の姿が消えた。


「えっ?」


実行委員が驚いて後ずさった。


私たちも唖然とした。


太鼓の音も止まっている。


「今の、何?」


青木が震え声で言った。


「消えたよね?」


実行委員は青ざめて立ち尽くしていた。


私たちは慌てて実行委員に駆け寄った。


「大丈夫ですか?」


「あ、あの人は」


実行委員が呟いた。


「田中さんは、去年亡くなったはずなのに」


私たちは息を呑んだ。


「亡くなった?」


「はい。祭りの準備中に心筋梗塞で」


実行委員が震え声で説明してくれた。


「太鼓の練習をしている最中でした」


「じゃあ、さっきの人は」


「田中さんの霊だと思います」


実行委員が太鼓を見つめた。


「毎年この祭りで太鼓を叩くのが生きがいだったんです」


私は鳥肌が立った。


「それで、今年も」


「きっと、太鼓を叩きたくて戻ってきたんでしょう」


実行委員が合掌した。


「田中さん、ありがとうございました」


その後、私たちは神社の神主さんに話を聞いた。


「田中さんですか」


神主さんが困ったような顔をした。


「実は、毎年現れるんです」


「毎年?」


「はい。祭りの日になると、必ず太鼓の前にいらっしゃる」


神主さんが説明してくれた。


「最初は驚きましたが、今では慣れました」


「追い払わないんですか?」


「なぜ追い払う必要があるでしょう?」


神主さんが微笑んだ。


「田中さんは祭りを愛していた方です」


「でも、霊が出るのは」


「悪い霊ではありません」


神主さんがきっぱりと言った。


「祭りに参加したいだけです」


確かに、田中さんは何も悪いことをしていない。


ただ、太鼓を叩いていただけだった。


「それに、太鼓の腕は生前と変わらず見事です」


神主さんが感心したように言った。


「祭りに花を添えてくれています」


私たちは納得した。


田中さんは、死んでも祭りを愛し続けているのだ。


その後も太鼓の音が響いていた。


今度は生きている人が叩いているのだろうが、さっきまでの田中さんの太鼓と変わらない。


祭りへの愛情は、死後も受け継がれていく。


帰り道、私たちは田中さんのことを話し合った。


「すごい人だったんだね」


「祭りに対する情熱が本物だった」


青木が振り返った。


「来年も現れるのかな」


「きっと現れるよ」


私は確信していた。


「田中さんにとって、この祭りが全てだったんだから」


そして実際、翌年も田中さんは現れた。


今では祭りの名物として、みんなに愛されている。


――――


この体験は、2016年8月に茨城県常陸太田市で発生した「佐竹寺夏祭り太鼓霊現象事件」に基づいている。祭りで故人の霊が太鼓演奏に参加する現象が複数年にわたって目撃され、地域住民に受け入れられている稀有な事例である。


茨城県常陸太田市の「佐竹寺」では毎年8月25日に夏祭りを開催している。2016年8月25日、見物に訪れた高校生の西川雅人さん(仮名・当時18歳)と青木健太郎さん(仮名・同年)が、太鼓演奏中に故人の霊が出現し、突然消失する現象を目撃した。


霊は祭り実行委員から「田中さん」と呼ばれており、2015年7月に祭りの準備中に急性心筋梗塞で死亡した田中義雄さん(享年54歳)と判明した。田中さんは30年間祭りの太鼓を担当し、「太鼓の田中さん」として地域で親しまれていた。


佐竹寺夏祭り実行委員長の鈴木正治氏(65歳)によると、田中さんの霊は2016年から毎年祭りに出現し、約2時間にわたって太鼓を演奏する。「最初は驚いたが、田中さんらしい祭りへの愛情だと理解している。演奏技術も生前と変わらず素晴らしい」と証言している。


佐竹寺住職の松平宗雄師(58歳)は「田中さんの霊に悪意はなく、純粋に祭りに参加したいだけ。地域の皆さんも温かく受け入れており、除霊の必要はないと判断している」と説明。現在では「田中さんの太鼓」として祭りの名物となっている。


西川さんは大学卒業後も毎年祭りを見に訪れ、「田中さんの祭りに対する情熱に感動した。死後も愛し続けるものがあるのは素晴らしい」と語る。田中さんの遺族も霊の出現を「故人らしい」として肯定的に受け止めており、2023年現在も現象は継続している。常陸太田市では同事例を「地域文化と霊的存在の調和事例」として民俗文化財の参考資料に採用している。

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